ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

『唐人お吉』が見たい

「唐人お吉」(斎藤きち) をテーマにした映画は 1930 年代に溝口健二監督や衣笠貞之助監督などによって六作作られているんだが、溝口健二監督の作品の今に残っているフィルムの断片 4 分を見ただけである。新橋喜代三が歌っている『唐人お吉』は、1935 年の冬島泰三監督の映画の主題歌だったが、この作品もロストしている。

山中貞雄監督の大傑作『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(1935) で大河内傳次郎が居候している矢場のお藤さん (櫛巻お藤) を演じているのはもちろんこの人である。

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しかし、芸者さん出身者は歌が上手い。他にも聴いてみる。音丸は芸者ではなく「芸者風」なだけだけど。

博多夜船:

戦後のブギウギ時代の傑作、市丸の『三味線ブギウギ』:

小唄勝太郎の『柳の雨』:

美ち奴の『吉良の仁吉』:

赤坂小梅の『そんなお方があったなら』:

 

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祇園小唄

何気なしに上のクリップを見ながら美空ひばりの歌の巧さと若尾文子の美しさと小暮實千代の大人の色気の三つに放心していると、美空ひばりが唄っている『祇園小唄』(1930) と映画『祇園囃子』(1953) の間には単に「祇園」というイメージで繋がっている以上のものがないんだろうかと不図思った。

結局、大した発見はなかったものの、ひとつわかったのは、溝口健二監督の傑作『祇園囃子』の原作者は川口松太郎であり、『祇園小唄』の作詞は作家でもあった長田幹彦であるが、長田も『祇園囃子』という作品を戦前 (1934) に書いているということだった。この長田の本の挿絵は 1934 年に 49 歳で亡くなった竹久夢二の最期の仕事として知られている。

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川口の『祇園囃子』も長田の『祇園囃子』も読んだことはないので分からないが、作品の内容としては別物らしい。長田の『祇園囃子』の方は清水宏監督が映画化しているそうだがこれも残念ながら未見である。

『祇園小唄』はマキノ・プロダクションによる金森万象監督の映画『祇園小唄繪日傘 第一話 舞の袖』(1930) の主題歌としてメディア・ミックスされて発売されたものであり、その手法は以前このブログで書いたように溝口健二監督の『東京行進曲』(1929) のときから始まったものである。もうひとつ注意しておかなければならないのは、東京には『東京行進曲』、大阪には『道頓堀行進曲』ができたように、レコード会社は各所の「ご当地ソング」の発売に地方だけでなく大都市圏においても力を入れていたということで、京都の場合は『祇園小唄』がそれに相当していることである。

『祇園小唄』を最初に歌ったのは二三吉である。オリジナルはビクターからなのだが、彼女は他のレコード会社からもレコードを出している。二村定一の『青空』もそうだったけれど当時はレコード会社専属という概念は適用されなかったようだ。

作曲は佐々紅華であり、もともとは二村定一が歌い、後にはフランク永井が歌った『君恋し』でもっとも良く知られていると思うが、ここでは次のものを挙げておく。

笑ひ薬 (歌、 二村定一):

黒ニャゴ (歌、平井英子):

茶目子の一日 (歌、平井英子):


※ 平井英子の歌は昭和八年のもので、この前に木村時子の大正八年の録音がある。
※ ライオン歯磨きで歯を磨くと言っている。

最後に井上宗孝とシャープ・ファイブの 1968 年のアルバム『春の海』に収録された『祇園小唄』。

 

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A Night in Tunisia (Interlude)

これも Legrand Jazz から。Dizzy Gillespie が 1941 年から 1942 年あたりに作った (太平洋戦争が始まるのはもちろん、日本時間で 1941年 12 月 8 日である) 曲だが、この時期はレコード(SP 盤) の原材料である天然樹脂シェラックが不足してレコード会社は操業短縮に追い込まれている上、1942 年 8 月 1 日には米国音楽家連盟 AFM (American Federation of Musicians) が印税の支払いを巡ってレコード会社に対する大規模なストライキに突入した。これによりレコード会社はレコードの新規吹込みがまったくできない状態となった。デッカが最初にAFMと和解したのだが、それでもスト開始から1年半ほどが経過している。ビクターとコロムビアにいたっては和解まで 27 ヶ月を要した。ビ・バップの黎明期にあたる重要な時期は、このような事情で録音(レコード)が残っていないので良く分からないことが多いのである。なお、この曲は当初は Interlude と呼ばれていた。1958 年の Anita O’Day の録音でさえ Interlude となっており、かなり長い間、二つのタイトルが混在している。

あまりに有名な曲なので、全部の演奏をリストアップできるわけがなく、ごく基本的なものに留めた。

1944:
Sarah Vaughan w/ Dizzy Gillespie and his Orchestra:

Boyd Raeburn and his Orchestra:

1945:
Boyd Raeburn and his Orchestra:

Dizzy Gillespie and Charlie Parker:

1946:
Charlie Parker Septet:
※  Charlie Parker (as), Lucky Thompson (ts), Miles Davis (tp), Arvin Garrison (guitar), Dodo Marmarosa (p), Vic McMillan (b), Roy Porter (d)
※ このセッションのファースト・テイクで、バードのアルトがブレイクする超絶的演奏部分は “Famous Alto Break” と称されており、そこだけが特別に切り出されている。
//

Lennie Tristano Trio:

Dizzy Gillespie Orchestra:
※ Dizzy Gillespie (tp), Don Byas (ts), Milt Jackson (vib), Al Haig (p), Bill De Arrango (g), Ray Brown (sb), J.C. Heard (dm)

1947:
Charlie Parker With The Dizzy Gillespie Quintet:
※ Dizzy Gillespie (tp) Charlie Parker (as) John Lewis (p) Al McKibbon (b) Joe Harris (d)

1952:
Teddy Charles:

1953:
Charlie Parker & Dizzy Gillespie:
※ Dizzy Gillespie (tp), Charlie Parker (as), Bud Powell (p), Charles Mingus (sb), Max Roach (dm)

1954:
Art Blakey:
※ Clifford Brown (tp), Lou Donaldson (as), Horace Silver (p), Curley Russell (sb), Art Blakey (dm)
※ Birdland でのライブ

1955:
Miles Davis:
※ Miles Davis (tr), Red Garland (p), Oscar Pettiford (b), Philly Joe Jones (d)

1956:
Hamton Hawes Trio:
※ 2:04:50 あたり (最後から 2 番目の曲)

1957:
Dizzy Gillespie Orchestra:
※ Dizzy Gillespie (tp, vo), Lee Morgan, Ermit V. Perry, Carl Warwick, Talib Ahmad Tawud (tp), Melba Liston, Al Grey, Ray Connors (tb), Jimmy Powell, Ernie Henry (as), Billy Mitchell, Benny Golson (ts), Pee Wee Moore (bar), Wynton Kelly (p), Paul West (sb), Charlie Persip (dm)

1958:
Art Blakey:

※ 42:50 あたり。ts は Benny Golson 。

Anita O’Day:

1960:
Art Blakey:
※ Art Blakey, Kenny Clarke(d), Wayne Shorter (ts), Lee Morgan (tr), Jymie Merritt (b), Bobby Timmons (p)

シネマ・アンシャンテ

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遅ればせながら手に入れる。久しぶりに感じる「本」を所有するフェティシュな喜び! 撫でまわして手触りを感じるのはもちろん、匂いまでクンクンしてみる。数多く掲載されている写真も溜息の出るものばかりだし、レイアウトも良いし、写真のキャプションも必要最低限で写真そのものを見ることに邪魔してない。写真だけでもいろいろな発見があって楽しい。たとえば、『ロシュフォールの恋人たち』(1967) の日本語のチラシには共同配給が東和とタイヘイフィルムと出ている。タイヘイフィルム!調べてみると 1966 年創業で 1968 年活動停止になっている。そのチラシの下には次回作が市川崑監督の『トッポ・ジージョのボタン戦争』(1967) とある。トッポ・ジージョ!音楽は中村八大じゃないか!

時間が無限に過ぎていくなあ……

ジャック・ドゥミはお亡くなりになられたが、来日公演がまもなく予定されているミシェル・ルグランは 86 歳になるけどまだお元気である。ドゥミの映画を始めて見たのは学生時代で、日仏学院で上映した『シェルブールの雨傘』(1964) だった。二人が初めてコンビを組んだ『ローラ』(1961) は大好きな作品であるが、「それがあたし、ローラよ」のところは曲なしで撮影したとこの本に書いてあってビックリした。

 

ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ (立東舎)

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ローラ ジャック・ドゥミ DVD HDマスター

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In a Mist

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アルバム “Legrand Jazz” の収録曲である “In a Mist” は、28 歳で亡くなった白人コルネット奏者として知られている Bix Beiderbecke の作曲によるもので、ピアノも弾く彼が当時 24 歳の 1927 年にソロ演奏で録音したレコードが残されている。この曲は、同じ 1927 年のBeiderbecke による不朽の名演奏として知られている “Singin' the Blues”, “I'm Coming, Virginia” の 2 曲とともに特に有名なもので、しばしばクラッシック音楽の印象主義の影響が指摘される。

1927:
Bix Beiderbecke:

1933:
Red Norvo Quartet:

1934:
Frankie Trumbauer:

1935:
Manuel Salsamendi:

1936:
Wind Quintet:

1938:
Bunny Berigan:

1941:
Alix Combelle:

1947:
Mel Henke:

1949:
Jimmy McPartland:
※ 1978 年から 2011 年まで NPR (National Public Radio) の プログラム “Marian McPartland’s Piano Jazz” のホストを務められ、2013 年に 95 歳でお亡くなりになられたピアノの Marian McPartland の名前がレコードのレーベルには Marian Page と記載されている。1945 年にトランペット演奏の Jimmy McPartland と結婚した後も彼女はしばらくこのステージ・ネーム “Marian Page” を使用していた。しかし、この 1949 年を最後に 1950 年には、ステージ・ネームとしても Marian McPartland を使用するようになる。//

Harry James:

1950:
Jess Stacy:

1961:
Johnny Guarnieri:

1974:
Marian McPartland:

1976:
Armand Hug:

Don’t Get Around Much Any More

Legrand Jazz にあったこの曲は、もちろん Duke Ellington の代表曲であり、もともとは 1940 年の “Never No Lament” が原題であった。この原題は The Blanton-Webster Band と称され、エリントン楽団がもっとも充実していたとされる 40 年代の演奏を集めたアルバムのタイトルにもなっている。Nat King Cole が歌っているが、90 年代には娘の Natalie Cole も歌っていた。なお、曲のタイトルは日記とかでよく使われる主語の “I” を省略しているもので「最近はもうあまり出歩かないの」ぐらいの意味となり命令形とは受けとれない。the ink spots の曲を聞けば、独りでソリティアなんかしている女性の心境が途中から主語を省略して歌われていることがわかるだろう。なお、Mose Allison の場合のように主語を省略しないで歌っているものもある。

1940:
Duke Ellington:

1943:
Ink Spots:

Glen Gray and the Casa Loma Orchestra:

1953:
Patti Page:

1954:
Harry James, Buddy Rich:

1956:
Ella Fitzgerald:

1957:
Tab Hunter:

Eydie Gormé:

Nat King Cole:

1958:
Mose Allison:

Earl Holliman:

1959:
June Christy:

Ed Townsend:

1960:
Coasters:

1961:
Duke Ellington & Louis Armstrong:

Mel Tormé:

Sam Cooke:

Etta James:

Legrand Jazz

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ミシェル・ルグランがハネ・ムーンも兼ねてニューヨークに滞在したときの 1958 年のアルバム “Legrand Jazz” から。スタンダードをアレンジする力は Gil Evans に比肩する才能である。ところでさらに迂闊なことに山田宏一さんと濱田高志さんが共著で『シネマ・アンシャンテ』というジャック・ドゥミーとミシェル・ルグランの本を昨年出されていたことも知らなかった。モーリス・ジョベールもそうだけどミシェル・ルグランを忘れては駄目だなあ。

The Jittebug Waltz:

※ Miles Davis (tr), John Coltrane (ts), Phil Woods (as), Jerome Richardson (bs, bcl), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Barry Galbraith (g), Kenny Dennis (d), Betty Glamann(hrp), Herbie Mann (fl), Eddie Costa (vib)//

Nuages:
※ Ben Webster (ts), Billy Byers, Eddie Bert, Frank Rehak , Jimmy Cleveland (tb), Hank Jones (p), Major Holley (b), George Duvivier(db),Don Lamond (d), Herbie Mann(fl)//

A Night in Tunisia:
※  Art Farmer, Donald Byrd, Ernie Royal, Joe Wilder (tr), Frank Rehak, Jimmy Cleveland (tb), Seldon Powell (ts), Gene Quill, Phil Woods (as), Teo Macero (bs), Milt Hinton (b), Osie Johnson (d), James Buffington (hrn), Nat Pierce (p), Don Elliot(vib)//

Blue and Sentimental:
※ Ben Webster (ts), Billy Byers, Eddie Bert, Frank Rehak , Jimmy Cleveland (tb), Hank Jones (p), Major Holley(b), George Duvivier(db), Don Lamond (d), Herbie Mann(fl)//

Stimpin’ at the Savoy:
※  Art Farmer, Donald Byrd, Ernie Royal, Joe Wilder (tr), Frank Rehak, Jimmy Cleveland (tb), Seldon Powell (ts), Gene Quill, Phil Woods (as), Teo Macero (bs), Milt Hinton (b), Osie Johnson (d), James Buffington (hrn), Nat Pierce (p), Don Elliot(vib)//

Django:
※  Miles Davis (tr), John Coltrane (ts), Phil Woods (as), Jerome Richardson (bs, bcl), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Barry Galbraith (g), Kenny Dennis (d), Betty Glamann(hrp), Herbie Mann (fl), Eddie Costa (vib)//

Wild Man Blues:
※ Miles Davis (tr), John Coltrane (ts), Phil Woods (as), Jerome Richardson (bs, bcl), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Barry Galbraith (g), Kenny Dennis (d), Betty Glamann(hrp), Herbie Mann (fl), Eddie Costa (vib)//

Rosetta:
※ Ben Webster (ts), Billy Byers, Eddie Bert, Frank Rehak , Jimmy Cleveland (tb), Hank Jones (p), George Duvivier(db), Major Holley(b), Don Lamond (d), Herbie Mann(fl)//

‘Round Midnight:
※ Miles Davis (tr), John Coltrane (ts), Phil Woods (as), Jerome Richardson (bs, bcl), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Barry Galbraith (g), Kenny Dennis (d), Betty Glamann(hrp), Herbie Mann (fl), Eddie Costa (vib)//

Don’t Get Around Much Anymore:
※ Ben Webster (ts), Billy Byers, Eddie Bert, Frank Rehak , Jimmy Cleveland (tb), Hank Jones (p), Major Holley(b), George Duvivier(db), Don Lamond (d), Herbie Mann (fl)//

In a Mist:
※  Art Farmer, Donald Byrd, Ernie Royal, Joe Wilder (tr), Frank Rehak, Jimmy Cleveland (tb), Seldon Powell (ts), Gene Quill, Phil Woods (as), Teo Macero (bs), Milt Hinton (b), Osie Johnson (d), James Buffington (hrn), Nat Pierce (p), Don Elliot(vib)//

ここまでがもともとの収録曲。CD には Richard Rodgers の曲を1962年に演奏した以下の3曲も追加されていた。

Have you Met Miss Jones:

This Can’t Be Love:

The Lady Is a Tramp:

※ 上記三曲の演奏: Clark Terry, Ernie Royal, Al Derisi, Snooky Young (tr), Urbie Green, Bob Brookmeyer, Bill Elton, Willie Dennis, John Rains, Dick Lieb, Wayne Andre, Thomas Mitchell (tb), Don Butterfield, Harvey Phillips (b), Richard Berg, George Berg, Al Howard, Harold Feldman, Anthony Castell ano, Don Hammond (db), Rick Henderson, Jerry Dodgion, Phil Woods, Walter Levinsky (as, cl, fl), Paul Gonsalves, Al Klink (ts), Danny Banks, Sol Schlinger (bs), Ray Alonge, Bob Northern, Julius Watkins, Earl Chapin (hrn), Tommy Flanagan, Lou Stein, Hank Jones (p), Gary Burton (vib), Milt Hinton (db), Sol Gubin (d), Billy Costa, Warren Smith (prcssn)//

 

ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ (立東舎)

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映画の記憶

前の記事で、ヴァル・リュートン製作、ジャック・ターナー監督による『キャット・ピープル』(1942) が出てきたので、その作品の編集を担当し後に映画監督となるマーク・ロブソンを思い出した。それから、マーク・ロブソンがやはり編集しオーソン・ウェルズが演出を途中放棄したドロレス・デル・リオとジョセフ・コットン主演の『恐怖の旅』(1943) もついでに思い出す。それからマーク・ロブソンが監督した作品で比較的最近見たゲーリー・クーパー主演の『楽園に帰る』(1953) が思い出され、必然的にその映画が上映されている映画館が出てくるジャック・ドゥミー監督の長編第 1 作で、ドゥミーが愛してやまなかったという『快楽』(1953) のマックス・オフュルスに捧げられた『ローラ』(1961) に辿り着く。そもそもオフュルスの『歴史は女で作られる』(1955) は、原題が「ローラ・モンテス」であり『ローラ』への影響は明らかであることを確認していると、突然、学生の頃、土曜か日曜のどちらかにイメージ・フォーラムの映写室で『快楽』が上映されるのを見に行って、なんと前の席に山田宏一さんが座っておられ、いきなり上映前に振り返ってこられ「オフュルスが好きなんですか」とニコニコしながら話しかけてこられたのでドキドキしたのを思い出した。それから、これまた素晴らしいロベール・ブレッソン監督の『ブローニュの森の貴婦人たち』(1945) でキャバレーのダンサーとして出演しているエリナ・ラブールデットが『ローラ』に出演していることに思いが至り、「ブローニュ」で踊っている写真を娘のセシルが二階からとってきて、マルク・ミシェルに見せる場面が蘇る。娘のセシルはこの作品でシェルブールに家出をして、その家出娘が成長したイメージが『シェルブールの雨傘』(1964) のカトリーヌ・ドヌーヴ演じるジュヌヴィエーヴである。ここにきて、やっと今までこれだけ音楽のクリップを貼り付けていながら、ミシェル・ ルグランをまったく無視している迂闊さに気がつく。罪滅ぼしに一番分かりやすい曲を掲載することにする。

 

キャット・ピープル HDマスター THE RKO COLLECTION [DVD]

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恐怖への旅 [DVD]

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楽園に帰る [DVD]

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歴史は女で作られる Blu-ray

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ブローニュの森の貴婦人たち [DVD]

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シェルブールの雨傘(字幕版)
 

The World Is Waiting for the Sunrise

この曲が出版されたのは 1919 年だから 100 年の時が経とうとしている。YouTube 探していたらシリンダー方式の録音によるパイプ・オルガンの演奏があって、調べたら1924 年の録音で意外と新しい。1910 年頃にはすでに円盤式が市場で優位に立ち円筒式は廃れていくのだが、エジソン社はそれでもなお長い間、円筒式を市場に供給し続けていたんだなあ。生産性(つまり複製の容易さ)には劣るけれども円盤式に対して円筒式は音の記録密度を一定に保てる利点はあった(円盤式は中心に向かう程、記録密度が高くなってゆく)。

1921:
John Steel:

1922:
Isham Jones Orchestra:

Roy Bargy’s Benson Orchestra of Chicago:

1923:
Paul Specht and his Orchestra:

1935:
中野忠晴:

1939:
Frank Newton and his Orchestra:

Bob Crosby and his Orchestra:

Jimmy McPartland and his Orchestra:

1940:
Jack Teagarden’s Big Eight:
※ Rex Stewart (cor), Jack Teagarden (tb), Barney Bigard (cl), Ben Webster (ts), Billy Kyle (p), Brick Fleagle (g), Billy Taylor Sr. (b), Dave Tough (dm)

1944:
Benny Goodman Trio:

1946:
Benny Goodman Quartet:

1947:
Benny Goodman Sextet:

1949:
Django Reinhardt:

Machito Y Su Afro-Cubano Salseros:

Al Hibbler w/ Duke Ellington:

1950:
Firehouse Five Plus Two:

Chordetts:

1951:
Les Paul and Mary Ford:

Bing Crosby:

Bernie Leighton and his Swing Seven:

1952:
Stan Freberg:

1954(?):
George Lewis Ragtime Jazz Band:

Larks:

1955:
Chris Barber:

1957:
角田孝(bj)、南里文雄(tr)、西代宗良 (cor), 森亨、薗田憲一 (tb)、北村英治 (cl)、世良譲 (p)、小原重徳(b)、ジミー竹内(d):

Coleman Hawkins Quintet:

1958:
鈴木章治とリズムエース:

1961:
Tony Mottola:

You’d Be So Nice to Come Home To

CM の影響もあったと思うが、日本ではジャズ・ファンでない人にも人気があったと思う。

※ “You’d Be So Easy to Love” のときにもしやと思って英語の構文について念のため断っておいたが、大橋巨泉の訳と言われる邦題『帰ってくれたら嬉しいわ』はもちろん適切ではない。

1943:
Dinah Shores:

Six Hits and a Miss:

Bing Crosby and Ginny Simms:

1945:
Noel Coward:

1954:
Helen Merrill with Clifford Brown:

1955:
Phil Woods w/ Hall Overton Quartet:

Cannonball Adderley:

1956:
Rita Reys:

1957:
Art Pepper:

Coleman Hawkins and Ben Webster:
※ Oscar Peterson (p), Herb Ellis (g), Ray Brown (b), Alvin Stoller (d)//

Frank Sinatra:

Paul Chambers:

Sonny Stitt Quartet:

Eddie Higgins Trio:

1958:
Sarah Vaughan:

Chet Baker:
※ Chet Baker (tp), Herbie Mann (fl), Pepper Adams (bar), Bill Evans (p), Paul Chambers (sb), Connie Kay (dm)//

Benny Goodman Quartet:

1959:
Anita O’Day:

1960:
The Coasters:

Nina Simone:

Jo Stafford:

Julie London:

1963:
McCoy Tyner:

Oh! You Beautiful Doll

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ロバート・オルドリッチ監督の遺作であり、「古典ハリウッド映画」の「白鳥の歌」ともなった、とめどもなく涙が流れてしょうがない『カリフォルニア・ドールズ』(… All The Marbles, 1981) のクライマックスにおけるリノの MGM 撮影所の跡地に建てられたホテルでの試合に、この “Oh, You Beautiful Doll” の音楽をバックに、豪華な衣裳に身にまとって「カリフォルニア・ドールズ」が登場するシーンの記憶は映画ファンならば決して忘れることはないだろう。黒沢清監督は、この映画について「ひょっとすると映画史上最も、観客ひとりあたまから大量の涙を搾りとった映画がこれかもしれない」と書いている。もちろん公開された当時もリアルタイムで見たが、ちょっと前にも渋谷の、昔は「ユーロ・スペース」として知られていた場所で、久方振りにこの映画がかかったときも見て、涙が流れて流れてしょうがなかった。この作品は、1981 年のベストワンとか、80 年代の傑作とかいう意味ではなく退潮期のアメリカ映画が誇れる数少ない作品の一本であろう。ゴダールも『(複数の) 映画史』(1988 - 1998) でこの作品を引用している。

1911:
Billy Murray and the American Quartet:

1911 or 1912:
Al Campbell and Arther Collins:

1914:
The American Duo:

1942:
Lucille Norman and George Murphy:


※ バスビー ・バークレイが監督した “For Me and My Gal” の一シーン

1946:
Bunk Johnson (tr), Don Ewell (p), Alphonse Steele (dr):

1947:
Claude Thornhill:

1949:
Rosemary Clooney:

Tony Martin and the Pied Pipers:

Arther Rowberry and his BBC Orchestra:

1958:
Jerry IVAN Allison:

Ray Sherman:

1962:
Donnie Brooks:

Robby Royal:

1967:
Nansy Sinatra:

 

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The Scarecrow / Begin the Beguine

前の記事の補足だが、主題となるものが思いもかけない機能をいろいろと顕在化させていく作品って映画初期のサイレントではリュミエールの頃からたくさんある。たとえば、次のバスター・キートンの “The Scarecrow” (1920) なんて典型的な作品だろう。

“Begin the Beguine” はあまりにも有名な曲なので特にコメントなし。

1935:
Xavier Cugat And His Waldorf-Astoria Orchestra:

1938:
Artie Shaw and his Orchestra:

1939:
Leslie Hutchinson:

Mildred Bailey:

Carroll Gibbons Orchestra:

Joe Loss and his Band:

Broadway Melody of 1940:

1940:
Art Tatum:

Django Reinhardt:

Andew Sisters w/ Glenn Miller Orchestra:

1942:
Oscar Aleman:

1944:
Les Paul Trio:

Eddie Haywood:

Bing Crosby:

1945:
Gaylord Carter:

Joe Sullivan:

1946:
Artie Shaw:

Frank Sinatra:

1947:
Larry Adler:

1949:
Jane Froman:

Jo Stafford:

1952:
Charlie Parker Quintet:

1956:
Dizzy Gillespie:

Ella Fitzgerald:

1957:
Freddy Martin’s Orchestra:

Someday My Prince Will Come

初の長編アニメーション映画といわれるディズニー映画 『白雪姫』(Snow White and the Seven Dwarfs, 1937) でこの曲が使われており、いまでは YouTube でその曲が流れている映画の場面のひとつを簡単に確認できる。ノリが悪いのでもしかしたら違うと否定されるかもしれないが、タイトルだけ読めば “It Had to Be You” とか “I Must Have That Man” とか “My Blue Heaven” とか “Always” とかと同じく結婚式の披露宴で流すことが許されるジャズの曲の一つであり、“I Found a New Baby” のようにもしかしたら誤解を与えるといったこともなく、“Anything Goes” や “I Can’t Get Started” のように責任問題に発展しかねない曲名でもないだろう。けれどもジャズの場合、演奏の解釈の幅が広いので、タイトルだけ見て “Someday My Prince Will Come” だったらなんでもよいというイメージの問題ではもちろんなく、たとえばマイルス・デイビスの演奏のように低音が持続するようなものは使い方がかなり難しいと思う。

Dave Brubeck が娘さんのディズニー・メドレーのレコードを聴いてジャズアレンジしてから盛んに取り上げられるようになったため、あまり古い録音が見当たらず残念である。強いて言えば Helen Merrill が 60 年代に東京で録音しているのが珍しかった。最近では浜崎あゆみも歌っている。

1937:
Adriana Caselotti (Snow White):

Gracie Fields:

1957:
Dave Brubeck Quartet:

1959:
Bill Evans Trio:

1961:
Mils Davis:
※ Miles Davis (tr), Hank Mobley, John Coltrane (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (d)//

Wynton Kelly:

1962:
Grant Green:

1963:
Oscar Peterson & Nelson Riddle:

Helen Merrill:

 

白雪姫 (字幕版)

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All the Cats Join In

『みんなでジャズを!』(All the Cats Join In) は、1946 年に公開された十の独立短編からなるオムニバス形式のディズニー映画 “Make Mine Music” の中の短編アニメーションである。映画のサウンド・トラックのインスツルメンタルの部分は、1944 年に Benny Goodman が特別編成した楽団によって独立に録音されたもので、歌 (スキャット) は June Hutton と The Ken Darby Singers により別に重ねられた。なお、映画が公開された 1946 年に Benny Goodman は 別の録音も行なっている。

1944:
Benny Goodman:
※ Billy Butterfield, Mickey McMickle, Charlie Shavers (tr), Vernon Brown, Tom Reo, Jack Satterfield (tb), Benny Goodman (cl), Jules Rubin, Hymie Schertzer (as), Don Byas, Art Rollini, Ben Webster (ts), Ernie Caceres (bs), Teddy Wilson (p), Allan Reuss (g), Sid Weiss (b), Cozy Cole (d)//

Charles Wolcott and his Orchestra:
※ これは映画のプロモーション用に別途録音され発売されたものと思われる。

1946:
All the Cats Join In (Make Mine Music):

Benny Goodman:

※ Nate Kazebier, Bernie Privin, Brody Schroff, John Best (tp), Lou McGarity, Eddie Benson, Dick le Fave (tb), Benny Goodman (cl,vcl), Bill Shine, Gerald Sanfino (as), Stan Getz, Gish Gilbertson (ts), Danny Bank (bar), Mel Powell (p), Johnny White (vib), Mike Bryan (g), Barney Spieler (b), Ralph Collier (d), Liza Morrow (vcl)//

Roy Eldridge and his Orchestra:

Billy Butterfield and his Orchestra:

Peggy Lee:
※ Frank DeVol Orchestra
※ 録音はラジオ放送のものであると思う。ペギー・リーがベニー・グッドマンから離れた直後ぐらいの時期である。アニメーションの出典は不明 (あまりアニメーションは見ないので、もし有名な作品であれば無知をお許しを)。← 1970 年のディズニー・アニメーション 『おしゃれキャット』(The Aristocats)でした。

1956:
Buck Clayton and 25 Star Jazzmen:
※ Buck Clayton, Billy Butterfield (tr), Ruby Braff (cor), J. C. Higginbotham (tb), Tyree Glenn (tb, vib), Julian Dash , Coleman Hawkins (ts), Ken Kersey (p),  Steve Jordan (g), Walter Page (b), Bobby Donaldson (d)

On the Sunny Side of the Street

演奏が多数あるので、一部を紹介するに留まるだろう。

1930:
Ted Lewis and his Band:

Casa Loma Orchestra:

Harry Richman:

1934:
Coleman Hawkins:

Louis Armstrong and his Orchestra:
※ Part 1 and 2

1937:
Lionel Hampton and his Orchestra:

1938:
Duke Ellington:

1940:
King Cole Quartet:

1941:
King Cole Trio:

Earl Hines:

Chu Berry and his Jazz Ensemble:

Benny Goodman and his Sextet:
※ 歌は Peggy Lee

Art Tatum:

1942:
Judy Garland:

1944:
King Cole Trio:

Billie Holiday and Eddie Heywood and his Trio:

Coleman Hawkins and his Sax Ensemble:

Cozy Cole Orchestra (Coleman Hawkins):

Jo Stafford and Pied Pipers:

Jay McShann’s Kansas City Stompers:

1945:
Tommy Dorsey (Sentimentalists, vcl):

Eddie Heywood and his Orchestra:

Dinah Shore:

1946:
Bing Crosby w/ Lionel Hampton and his Orchestra:

Django Reinhardt:

Buck Clayton’s Big Four:

Frankie Lane:

1947:
Hazel Scott:

Duke Ellington:

Louis Armstrong:

1949:
Rex Stewart and his Sidney Six:

1952:
Lester Young and Oscar Peterson:

1955:
Art Tatum:

1956:
Louis Armstrong w/ Sy Oliver’s Orchestra:

Dinah Washington:

1957:
Dizzy Gillespie, Sonny Stitt, Sonny Rollins:

1958:
Dizzy Gillespie Quintet:

1959:
Duke Ellington:
※ Clark Terry, Cat Anderson, Harold ''Shorty'' Baker, Fats Ford (tp), Ray Nance (tp, vn), Quentin Jackson, Britt Woodman, John Sanders (tb), Jimmy Hamilton (cl, ts), Russell Procope (cl, as), Johnny Hodges (ss, as), Paul Gonsalves (ts), Harry Carney (bar, bcl), Duke Ellington (p), Johnny Pate (sb), Jimmy Johnson, Sam Woodyard (dm)

1961:
Doris Day:

1963:
Ella Fitzgerald and Count Basie: