ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

中野重治

気晴らし (12)

近所のごく小さな稲荷神社にエビネが咲いていた。散歩をしていると、口もとをなにも覆わないで荒い息をしながらジョギングをしている人が近くに迫ってくることがあって、細い山道のようなところだとなかなか避けるにも避けられず、唯一これだけは危険を感じ…

お前は歌ふな お前は赤まゝの花やとんぼの羽根を歌ふな 風のさゝやきや女の髮の毛の匂ひを歌ふな すべてのひよわなもの すべてのうそうそとしたもの すべての物憂げなものを撥(はじ)き去れ すべての風情を擯斥(ひんせき)せよ もつぱら正直のところを 腹の足…

The Boy in the Boat

近所の散歩ばかりだと飽きるので、土曜日は平塚から橋を歩いて相模川を渡って茅ヶ崎まで散歩した。白い富士山が綺麗であった。歩きながら聞いた演奏に Charlie Johnson 楽団の “The Boy in the Boat” があった。Jimmy Harrison (トロンボーン) とSidney De P…

対談

中野重治を論じたものについては、柄谷行人と大江健三郎の対話 『大江健三郎柄谷行人全対話 世界と日本と日本人』が抜群に面白かった。ポストモダンなんて軽薄な言葉は中野重治にはまったく似合わないけど、中野重治によってポストモダンというのは、ようや…

梨の花 (2)

志賀直哉の『暗夜行路』にある「サモア」と「アルマ」の無償の運動にはやや劣ると思うが、中野重治の『梨の花』の冒頭にある広告看板を主題連携させるところは面白い。小学生になった良平が、町の高瀬屋(酒屋であることが後の文章からわかる)から一升徳利を…

浦島太郎

中野重治が 23 歳、1925 年 (大正 14 年) の詩に「浦島太郎」というのがある。 今宵は雨がふつてつひそこの家ではまた蓄音器をはじめた童女がはかなげな聲をはりあげて「浦島太郞」をうたふのだ浦島太郞は龜にのり……乙姫樣のお氣に入り……しらがのぢゞいとな…

梨の花

現在の日本において普通にできるもっとも豊かな体験とはなにか?まさか、それがネット検索であろうはずもない。それをひとつだけ具体的に提示するならば、中野重治の『梨の花』を読むことだろう。もちろん、ここで「読む」とは、あの次に何が起きるかをさも…