自生しているヤブコウジ (藪柑子、別名は十両) をようやく雑木林に見つけた。「十両」と呼ばれるようになったのは江戸期なのか明治期なのかしらないが、いかにも俗な名称という気がする。もっとも、寺田寅彦が筆名に「藪柑子」を使ったりしていることからもわかるように、雅な呼び名は時代が下っても藪柑子なんだろう。「山橘」は万葉の頃からの古名である。園芸に留まらず、歌や句、源氏物語や枕草子などの文学、水墨画、工芸品や衣類の紋様として、また髪削 (かみそぎ) の儀式に子供の髪に挿されたり、新年を言祝ぐ飾りとして用いられたりといったふうに、昔から多くの人に愛されてきた可憐な植物である。
年一ト日余して歩く藪柑子
森澄雄