グラフの移動の話も前に書いたんだが, その後, もう少しマシな説明を思いついたので, 下の図を使ってしてみよう. この図はグラフの平行移動に関して, (それほど熱心ではないが調べた範囲では) 唯一感銘を受けた田島一郎さんによる説明で使用されていたものを参考にした.
いま, 曲線 (もちろん
について解いた
でもよい) を
軸の正の方向に
,
軸の正の方向に
移動するとする. 曲線の移動だけだとわかりにくいので, 上の図の閉領域
を切り抜いて, その図形全体を
へ平行移動したとする. いま, 原点を
として曲線
の方を見れば, その景色は原点を
として見ていたときと変わらないはずだ. (なにせ二つの図形は合同なのだから原点からグラフ上の各点への
軸,
軸方向の変位は両方とも変わってはならない.)
軸の正の方向に
,
軸の正の方向に
移動した原点
の座標系から見ても, 点
は点
とまったく同じように,
を満たしている (つまり原点から 軸正方向に
,
軸正方向に
進んだところにある点はグラフ上の点である). しかし, 原点
はかりそめの原点 (?) であって, 本来の原点
から見るとどうだろうか? 新座標の
は旧座標では
, 新座標の
は旧座標では
と表わされるから, 旧座標系では,
に見えている…… もし, そう見えないで「なぜマイナス? 」と相変わらず思うならこの説明も没にするしかないなあ. 点の移動の場合は座標を固定したままで, その点だけを動かせば良く, 移動先でもグラフが同じに見える条件のようなことは考えなくてもよいのである.
※ 下の図は,「三角関数の還元公式」の記事の最初にあげたものの再掲である. この場合, は固定されたままで, たとえば, 観測者が
に移動してそこを新たな原点とする. グラフは固定されたままなので今度はグラフの見え方は当然変わる. 新しい原点から見えるグラフは素直に,
であり, 旧座標系ではもちろん である. もし, 観測者と一緒に, 波も同じだけ移動したら, 新しい原点では, 当然
である. 旧座標系でみると,
である. これをグラフを右に ずらしたと称するわけである (もっともこの場合には, 直ちに
であることはわかる) .
※ もう少し数学寄りに別の観点で書くと,
を平行移動したグラフの任意の点を
とする.
,
を満たす
上の点
が存在する. すると,
,
であるから,
となる.
逆に, を
を満たす任意の点とする.
,
にとれば,
,
であり, また,
であるから,
は,
上の点である. つまり
は
上の点
を
移動させたものである.
※ グラフの平行移動とは変位の測定基準点を指定されただけ移動し, かつそこからグラフ各点までの 軸,
軸方向の変位を移動前と同じに保存することだとわかったら, 変位には正と負がある (つまり向きがある) ことに注意する.
たとえば, 下の図は を軸として
を対称移動した場合を想定している. 原点は
軸方向には移動していないが,
軸方向に
移動している. 原点からの変位は, 移動前と移動後で逆向きである. したがって, 移動後のグラフは,
だろうと推定できる. これを前と同じことだが証明すると,
(証明)
を (
を軸として) 対称移動したグラフの任意の点を
とすると,
上の
が存在して,
という関係をみたす. これから,
となり, であったから,
である.
逆に を
を満たす任意の点とする.
,
にとれば,
は
となって, 元のグラフの点である. また,
であるから, は
と
を軸として対称な点である. つまり,
は
を
として対称移動したグラフの点である.
以上から, を満たす点の集合と,
を (
を軸として) 対称移動したグラフは一致する. //
※ 最後にもっと簡単にやってみる.
が移動後のグラフの点である必要十分条件は,
“ かつ
,
となる実数
,
がある.”
ことである. 存在量化子がかかっている ,
を代入法で消去して同値にいいかえると,
“ ,
は
を満たす実数.”
である. 同値であることの証明はすでに述べたし, ほぼ明らかだから繰りかえさない. 集合で書けば,
である.
//