ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

文章題にどのように躓くのか (2)

昭和 16 年に発行された國民學校初等科 (1・2年生) 向けの算數 (「算術」に代わって「算数」が初めて用いられた) 敎科書 『カズノホン』を少しだけ読んだ。図形教材に特徴があるといわれる 『カズノホン』だが、下にあげたのはそこではない。絵をまずみて文章が実際に対応していることを確認させ、次の段階で文章だけで数量的な読みまでを練習し、最終的に加法 (よせ算) の意味を理解させようとしていることが狙いとして感じられる。たし算は、1 けたのくり上がりがある計算の練習で、10 の補数を使って暗算することが強制まではされていないものの方向づけられている。実際の教室では、おはじきのようなものを使って、10 の補数による計算のやり方がデモンストレーションされたのかもしれない。

このわずか 6 年間 (敗戦後に墨塗り教科書として使われた期間を含む) しか使われなかった『カズノホン』の編集にあたった前田隆一が『新算数教育講座』第 3 巻 (1960) の冒頭で書いた 「文章題の思考」はたいへん優れた解説だと思った。そこでは、四則演算の応用が中心の算数文章題を解くにあたって必要となる「観点変更」をもたらす数理的「主題」が実に適切にまとめられ、語られていると思う。そもそも「観点変更」がもたらされるのは、もともとこれらの「主題」が意味や機能について様々に豊かであるからである *1。たとえば、その「主題」のひとつとして「倍概念」があるのだが、「倍」を利用して問題を解くために案外抵抗となるのは、「ある量自身はその量の 1 倍である」という見方であると説明した上で、「倍」を使うと簡単に解ける様々な例題をあげている。その例題は算数の文章題を解いたことがあるものならば思いあたるものばかりである。(後半の例題では関数的見方——単なる表の観察のようなことではなく、変化の中にある規則性、不変性をとらえること——も加味されているものがある。)

例 1. 「妹は 50 円、弟は妹の 2 倍, 私は妹の 3 倍金を持っている。全部で何円か。」
お金の合計は妹のお金の (1+2+3) 倍。

例 2. 「12 cm のテープを 2 つに切って、長い方が短い方の 2 倍になるようにするには、どのように切ったらよいか。」
全体は、短い方の 3 倍。

例 3.「私が 400 円、弟が 80 円持っている。私が弟に何円やったら、私のお金が弟のお金の 3 倍になるか。」
2 人のお金の合計が弟の 4 倍。

例 4. 「弟の貯金は、いま、私の貯金よりも 300 円多い。6 か月で私の貯金が弟と同じになるためには、私はこれから毎月何円ずつ貯金したらよいか。」
毎月の貯金額の差の 6 倍が 300 円になればよい。

例 5. 「いま、私が 11 歳で、父は 45 歳 である。父が私の年の 3 倍となるのは今から何年後か。」
2 人の年齢差 34 歳は、私の年齢の (3−1) 倍である。

例 6. 「1 袋のあめを 1 人に 10 個ずつ配ると 22 個残り、15 個ずつ配ると 13 個足りない。あめは何個あるか。」
1 人あたり 5 個増やしたので (22+13) 個のひらきができた。

*1:それは図形でいえば、二等辺三角形の二辺が等しいこと、両底角が等しいこと、頂角の二等分線が底辺を垂直二等分することなどは、みな二等辺三角形が線対称な図形であることの違った捉え方であるようなものである。