ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

ク語法 (6)

今は()は死なむよ()()戀すれば一夜一日(ひとよひとひ)も安けくもなし (2936)

もうこの身も儚くなるほどです、我が背。お慕いするあまり、一日一夜とて心安らかなことはありません。


()が命し長く欲しけく(いつは)りをよくする人を捕ふばかりを (2943)

自分の命が長かれと望んでおります。おいでになるとおっしゃっていらっしゃらない、そんな嘘のお上手なあなたをおつかまえして、とっちめて差し上げることだけがわたくしの生き甲斐です。


劍太刀名の惜しけくも()れはなしこのころの()の戀の繁きに (2984)

(剣太刀) 名が惜しいとも私は思わない。この頃の恋心があまりに激しいので


石走(いはばし)る垂水の水のはしきやし君に戀ふらく()が心から (3025)

岩の上を走り流れ落ちる滝の水の清らかさのように愛おしいあなたへこんなにも恋い焦がれるのは、自分の心がそうさせたのでしょう。


朝日さす春日の小野(をの)に置く露の()ぬべき()が身惜しけくもなし (3042)

朝日のさす春日野に置く露のように消えてしまいそうなこの身は惜しくもありません。


波のむたなびく玉藻の片思(かたもひ)()(おも)ふ人の言の繁けく (3078)

波とともにあちらこちらとなびく玉藻のようにとりとめのない片思いに苦しむ私が思っている人の噂があれこれ聞こえてくる。


君に逢はず久しくなりぬ玉の緖の長き命の惜しけくもなし (3082)

あなたにお逢いしないまま随分久しくなりました。たとえ玉の緒のように長い私の命だとしてもなんの惜しいことがありましょうか。


(そが)よし宗我(そが)の川原に鳴く千鳥()なし()が背子()が戀ふらくは (3087)

(ま菅よし) 宗我の河原で鳴く千鳥、その声がたえ間ないように私はあなたをいつも恋しく思っております。


戀衣(こひごろも)着奈良(きなら)の山に鳴く鳥の()なく時なし()が戀ふらくは (3088)

恋衣を着馴らすという名の奈良山に鳴く鳥がたえず鳴くように、絶え間もなければ時を選ぶこともない。私があの人を恋しく思うことは。


馬柵(うませ)越しに麥()む駒の()らゆれどなほし戀しく思ひかねつも (3096)

馬柵越しに麦を食む駒が罵られるように、私は親から叱られはするけれど、やはりあなたが恋しくてどうにも辛抱できません。


衣手(ころもで)眞若(まわか)の浦の眞砂地(まなごつち)()なく時なし()が戀ふらくは (3168)

(衣手の) 真若の浦の真砂(まなご)浜、その名のような愛子(まなご)に絶間なく時も選ばず自分は恋していることだ。


よしゑやし戀ひじとすれど木綿間山(ゆふまやま)越えにし君が思ほゆらくに (3191)

ゑゝどうなりとも勝手になれ、もう恋しがるまいとは思うけれども、木綿間山を越えて行ってお仕舞いなされたお方がやはり慕わしい。


春日野の淺茅(あさぢ)が原に(おく)()て時そともなし()が戀ふらくは (3196)

春日野の浅茅が原に独りさびしく残されて、いつとて定まる時もありません。私があのお方を恋しく思うことは。


阿胡(あご)の海の荒磯(ありそ)の上のさざれ波()が戀ふらくは止む時もなし (3244)

阿胡の海の荒磯のあたりに打ち寄せるさざ波のように、わたしの恋しい思いは止む時もない。


(あめ)なるや月日のごとく()が思へる君が日に()に老ゆらく惜しも (3246)

天に輝く月や日のように仰ぎみる我が君が日ごとにお年を召されることが残念でなりません。


大舟のおもひたのめる君ゆゑにつくす心は惜しけくもなし (3251)

(大舟の) 頼みに思っておりますあなたですから、これほどの物思いなどちっとも惜しくありません。


()らくは玉の緖ばかり戀ふらくは富士の高嶺の鳴澤(なるさは)のごと (3358)

共寝するのはほんの短い間、逢いたい思いは富士の高嶺の鳴沢で岩が転げ落ちるように激しい。


梓弓(あづさゆみ)欲良(よら)の山邊の茂かくに妹ろを立ててさ寢處(ねど)(はら)ふも (3489)

(梓弓) 欲良の山辺の木の茂みに可愛い妹を立たせておいて、寝場所のために草を刈り払うのさ。


さを鹿の伏すや草むら見えずとも子ろがかな門よ行かくしえしも (3530)

牡鹿が伏している草叢に鹿の姿は見えないように、たとえ姿は見えなくてもあの子の家の門口を通り過ぎるのはとても良い気分だ。


人の子の(かな)しけしだは濱渚鳥(はますどり)足惱(あなゆ)む駒の惜しけくもなし (3533)

人の娘を切なく思う時は、(浜渚鳥) 歩み悩んでいる自分の馬も可哀想とは思わない。