ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

マイナンバー・カードと正負の数

「ちくま」に隔月連載されている蓮實重彥の「マイナンバー・カード」についての文章を読んでいるときに, なぜか唐突に思ったのは, 英語圏では,

 2-5 = -3

の左辺の “−” は minus と読み, 右辺の “−” は negative と読むのが, こと数学に関しては普通だということであり, つまり, 演算子の “−” と負数 (反数) の符号である “−” は区別されているということである.

慣れてしまえば, どちらも「マイナス」と読んでもよい気もするが, いったんは, きちんと区別することから始めた方が初学の人には理解が容易だと思う.

 \begin{align}
 2-5  &= 2 + 0 - 5\\
         &= 2 + (-5) + 5 -5 \\
         &= 2 + (-5) + 0 \\
         &= 2 + (-5) \\
\end{align}

*1これは逆数を使って割り算を掛け算に直せる理屈に対応している. (もちろん, 逆数を使って割り算を掛け算に直せるのは分数で割る場合に限ったことではない.)

 \begin{align}

\frac{3}{4} \div  \frac{3}{5} 
&= \frac{3}{4} \times 1 \div  \frac{3}{5} \\
&= \frac{3}{4} \times \left(  \frac{5}{3} \times \frac{3}{5}\right) \div  \frac{3}{5} \\
&=\frac{3}{4} \times \frac{5}{3} \times \left(\frac{3}{5} \div  \frac{3}{5} \right)\\
&=\frac{3}{4} \times \frac{5}{3} \times 1\\
&=\frac{3}{4} \times \frac{5}{3}\
\end{align}

負数の導入により, 演算子が “−” から “+” に変わるのは決して小さなことではない. 演算子 “−” は “÷” 同様に, 交換法則も結合法則も成り立たないからだ.

 2-5 \neq 5-2
 (2-5) -1 \neq 2-(5-1)

ところで, 数  n の負数が二つあるとして, それを a,  b とすると,

 \begin{align}
 a  &= a + 0\\
         &= a + (n + b)\\
         &=(a + n) + b \\
         &= 0 + b \\
         &= b
\end{align}

結局,  n の負数はひとつしかないことが分かる.

負数の定義から,

 a + (-a) = 0
 b + (-b) = 0

したがって,

 a + (-a) + b + (-b) = 0 + 0 = 0

足し算は交換法則も結合法則も成り立つので,

 
 (a + b) + \{(-a) + (-b)\} = 0

 (a+ b) の負数 -(a+b) はひとつしかないので,

 (-a) + (-b) = -(a+b)

であることがわかった. したがって,

 (-2) + (-5) = -(2+5) = -7

と計算すればよい.

あとは,

 \begin{align}
 2 -5   &= 2 + (-5)\\
         &= 2  + \{ -(2+ 3)\}\\
         &= 2 + (-2) + (-3) \\
         &= 0 + (-3)\\
         &= -3
\end{align}

 \begin{align}
 2 -(-5)   &= 2 + 0 - (-5)\\
         &= 2  + 5 + (-5) - (-5)\\
         &= 2 + 5 + 0 \\
         &= 7\\
\end{align}

みたいに考えればよい.

 -(-5) (-5) + 5 = 0 だから, もちろん  5 に等しい. だから,

 \begin{align}
 2 -(-5)   &= 2 +\{ -(-5)\}\\
         &= 2  + 5\\
         &= 7
\end{align}

としてもよい.

掛け算の規則はもうちょっと複雑である. まず, 逆数を考えれば割り算は掛け算に直せるのは負数のときと同じである. 掛け算は交換法則も結合法則も成り立つ. 掛け算と足し算を橋渡しするのが分配法則であるが, これは成立すると認める. それと自然数  a について  1 \times a = a も認める.

そうすると,

 \begin{align}
 (-1) \times a   &= (-1) \times a + 0\\
         &= ( -1) \times a + a + (-a) \\
         &= (-1) \times a  + 1 \times a + (-a)\\
         & = \{(-1) + 1\} \times a + (-a)\\
         & = 0 \times a + (-a)\\
         & = 0 + (-a)\\
         & = -a \\
\end{align}

つまり,  (-1) \times a = -a が証明できた. ここで  0 \times a = 0 としたが, これも証明したければ, 分配法則を使って

 \begin{align}
 a \times b  &= a \times (b + 0)\\
                     &=a \times b + a \times 0\\
\end{align}

から,  a \times 0 =  0 \times a = 0 とすればよい (乗算の交換法則).

これでようやく, 一つ目の計算規則が証明できる.

 \begin{align}
 a \times (-b)  &= a \times \{(-1) \times b \}\\
                     &=(-1) \times (a \times b)\\
                     &= -( a \times b)
\end{align}

同様に考えると

 \begin{align}
 (-a) \times (-b)  &= a \times b \\
\end{align}

は,  (-1) \times (-1) = 1 が証明できればよい.

まず,

 \begin{align}
 (-1) \times 0  &= (-1) \times 0 + (-1)+ 1\\
    &= (-1) \times 0 + (-1) \times 1 + 1\\
    &= (-1) \times (0 + 1) + 1\\
    &= (-1) \times 1 + 1\\
    &= (-1) + 1\\
    &= 0
\end{align}

だから,

 \begin{align}
 (-1) \times 0  &=0\\
 (-1) \times \{ (-1)+ 1\} &= 0\\
 (-1) \times (-1) + (-1) \times 1 &=0\\
 (-1) \times (-1) + (-1) &= 0\\
 (-1) \times (-1) + (-1) + 1 &= 0 + 1\\
 (-1) \times (-1) + 0 &= 1\\
 (-1) \times (-1) &= 1 \\
\end{align}

となる.

*1:MLB 中継を見ていると, いま向こうは何時だっけと思うことが時々ある. 日本と米国の時差を計算するときに, 同じ様なやり方をする. たとえば, 東経 135 度を基準とする日本標準時は  UTC+9 であり, ほぼ西経 120 度に位置するエンゼル・スタジアムの時刻は太平洋標準時 (PST) で,  UTC-8 であるから, 日本の時間から見ると向こうの時間は,  9 -(-8) = 17 時間遅れている. もっとも今はサマータイム実施時期 (一部地域を除き, 3 月の第 2 日曜日午前 2 時から 11 月第 1 日曜日午前 2 時まで) で時計を 1 時間進めるから, 実際は  16 時間遅れている. そうすると, 日本時間の午前  10:30 は,

 
10:30 - 16:00
 \\= 10:30 +(24:00 -24:00) - 16:00
\\= 10:30 + (24:00 -16:00) - 24:00
\\= 10:30 + 8:00 -24:00
\\= 18:30 -24:00

だから, 向こうは 1 日前の午後 6:30 だとわかる. この場合は, 引き算をするより足し算をする方がやさしく, これは本初子午線から経度で理論的には 180 度隔たった日付変更線を跨ぐ場合の計算に対応している.