与えられた複雑な条件よりもより簡単な同値条件を求めるという問題は数学では非常に多くあるが, 最初に理解しておかないといけないのは, 一般的に「すべての」とか「存在する」とかの修飾を受け量化された変数 (束縛変数) は消去され, 自由変数のみの同値条件となるということではないだろうか. たとえば (最高次の係数が ではない)
次方程式の実数解
が存在するという条件と同値な判別式が負でないという条件には, もはや量化された変数
はどこにも含まれていない. 判別式の条件はどうして求まったかを反省してみれば, 量化条件をどのように処理すればよいかの感覚はつかめると思う. もうひとつ例をあげておけば, 「任意の実数
に対して整数
が存在して
となる」と同値な条件は,
である.
これを書いていて, 森毅があげていた例を思い出した. それは, 実数 ,
,
について
や
や
は, みな と同値であることの説明だった. 最後の命題と
について自然演繹風に証明しておくと,
のとき,
を仮定すると
から,
が出る. これから
である. 仮定は
だったから,
となる (仮定
は落とす). 逆は,
と仮定すると,
となる
が実数の稠密性により存在する.
と
から,
であるが, これは
と矛盾する. したがって,
である (仮定
を落とす). これは
, すなわち
ということである. //
なお, と書くと, しばしば
が省略されることがあり, ますます訳がわからなくなる. 実際, 森毅は上記の
を省略していたし, その上最初は
を
と書いて, 「
といういかにも constant くさい文字が出てきたからといって, だまされてはいけない」などと嘯いていた. そもそも
なのか
なのか文脈から読みとらないと, 高校数学だって, 恒等式と方程式の違いさえもわからない.
【問】
は定数とする.
つの不等式
,
を同時に満たす整数が存在し, かつそれが自然数のみになるとき, の値の範囲を求めよ.
【解】
数 I の参考書の例題だが, このような問題は数直線に図示する方法もあるが, 論理的に考えたほうが混乱しない.
与えられた二つの不等式を整理してから, まず,
“ かつ
であるような整数
が存在する.”
と同値な条件は, 上の整数 が「存在する」を「どんな整数
も与えられた範囲にない」という条件にして, 実数
の真集合を考え, その補集合をとれば元の条件に戻るのだから, 束縛変数
を消去した自由変数
だけの同値条件,
を得る. 上式を整理して,
となる. また,
“任意の整数 において
が正でないならば
である.”
というもう一つの条件は, 対偶をとって
“任意の整数 において,
ならば
は正である.”
と同値で, 束縛変数 を消去した自由変数
だけの同値な条件は,
であり, 上式を整理して,
である.
以上より, “ かつ
であるような整数
が存在し, かつ, 任意の整数
が正でないならば
である.” と同値な条件は,
かつ
つまり,
である.//
慣れるために, 練習問題もやっておく.
【練習 1】
不等式 を満たす整数
が
だけであるとき, 定数
の範囲を求めよ.
【解】
“ かつ
であるような整数
が存在する.”
という条件と同値なのは,
かつ
整理して,
である.
“任意の整数 において,
ならば
であり, かつ,
ならば
である.”
という条件は, この場合, 「任意の 」は分配して別々に考えることができるので,
かつ
と同値で,
である. 以上より求める の範囲は,
である.//