ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (259)

 a^3 + b^3 + c^3 -3abc
\\=(a+b+c)
\\ \quad \times (a^2+ b^2 + c^2 -ab-bc-ca)

というのは, とても便利な恒等式である. その有用さは, 不等式の証明のときもそうだが,  a+b+c = 0 のとき,

 a^3+b^3+c^3 = 3abc

という条件付き等式が成立することで特に際立つことがある.

【例 1

3^3 + 7^3 - 10^3 
\\= 3\times 3\times 7 \times (-10) 
\\= -630

【例 2

 (x + 2y - 3z)^3 + (y + 2z -3x)^3 
\\ \quad + (z + 2x - 3y)^3
\\= 3(x + 2y - 3z) (y + 2z -3x) 
\\ \quad \times (z + 2x - 3y)

【例 3
 a+ b = c のとき,

 a^3 + b^3 + 3abc = c^3

この条件付き等式を使って  2012 年, エヴァリスト・ガロア生誕 200 年を記念して出題されたのだろう京大入試問題の別解を考えてみる. もちろん, 問 (2) は前にやったように (この記事の末尾に再掲した), 0 ではない有理数を係数とする多項式  P(x)で, かつ  P(\sqrt[3]{2})=0 をみたすものの内,  x^3-2 が次数最小の多項式である (既約多項式であることと同値. つまり, すべての係数に有理数だけを使ったより次数の小さな多項式の積に因数分解できない多項式である*1 ) ことを示すのが最も簡単であるが, この別解のように直接示すこともできるのでやってみた. 次数最小の多項式の内,  x の最高次の係数が 1 の多項式 (モニック多項式) を「最小多項式」というのであった.  x^3-2 \sqrt[3]{2} を解にもつ, 有理数係数範囲での最小多項式である. 実際,  \sqrt[3]{2} を解にもつことは代入すればよく, アイゼンシュテインの既約判定を素数  p = 2 に適用すれば,  x^3-2 は, 既約であることがわかる. *2 最小多項式と同じ次数の P(x) も最小多項式で割り切れる必要があるから, このとき,  P(x) は最小多項式と定数倍を除いて一致する.

【問】
(1)  \sqrt[3]{2} が無理数であることを証明せよ.

(2)  P(x) は有理数を係数とする  x の多項式で,  P(\sqrt[3]{2}) = 0 を満たしているとする. このとき P(x)x^3 -2 で割り切れることを証明せよ.

【解】

(1)
以下, 背理法で証明する.
 \sqrt[3]{2} が有理数で, 互いに素な正の整数  p, q により,  \displaystyle{\sqrt[3]{2}=  \frac{p}{q}} と表わせたとする *3. そうすると,  p^3 = 2q^3 となる. p は偶数だから,  p_1 を正の整数として, p = 2p_1 とおいてこの式に代入すると,  q^3 = 4p_1^3 となる. この式から  q は偶数だが,  p も偶数なので,  p, q は互いに素であることに矛盾する. したがって,  \sqrt[3]{2} は有理数では表せない.

(2)
 P(x) x^3-2 で割った商を  Q(x), 剰余を  ax^2 + bx + c とおく. すなわち,

 P(x) = (x^3-2) Q(x) + ax^2 + bx +c

ここで,  P(x) は有理数を係数とする多項式なので,  a,  b,  c も有理数である.  P(\sqrt[3]{2}) = 0 から,

 a \sqrt[3]{4} + b \sqrt[3]{2} + c = 0

となる.  a,  b,  c は有理数なので, この式は一般に分数を含むが, 通分して分母を払うと,  p,  q,  r を整数として,

 p \sqrt[3]{4} + q \sqrt[3]{2} + r= 0

の形にできる. さらに,  p, q,  r の最大公約数が 1 より大きければ, 両辺をその最大公約数で割り, その商を  p, q, r として再設定することで  p, q,  r の最大公約数を 1 にできる. *4

上の式から, (この記事の冒頭で触れたように,)

 4p^3 + 2q^3 + r^3 = 6pqr

という方程式が得られる. これをみたす整数解は, 自明な解  p=q=r= 0 だけであることを以下に背理法で証明する.

上の方程式で, 自明解以外の解が存在したと仮定すると,  r は偶数なので,  r_1 を整数として,  r = 2r_1 とおける. これを上の式に代入して整理すると,

 2p^3 + q^3 + 4r_1^3 = 6pqr_1

となる. すると  q は偶数だから, q_1 を整数として,  q = 2q_1 とおける. これを上の式に代入すると,

 p^3 + 4q_1^3 + 2r_1^3 = 6pq_1r_1

すると  p は偶数になって,  p,  q,  r の最大公約数を 1 としたことに矛盾する.

以上より,  p=q=r= 0 であるので,  a=b=c= 0 となって, P(x)x^3 -2 で割り切れる.
//

※ この問 (2) は以前やったように次のように解く方が普通である.

 \alpha=  \sqrt[3]{2} とおく.

 \phi(x)0 ではない有理数係数の多項式で,  \phi(\alpha) = 0 をみたす次数最小のもとする. なお,  \phi(x) x の最高次の係数は 1 としておく.

 P(x) \phi(x) で割った商を  q(x), 剰余を  r(x) とおく. すなわち,

 P(x) = q(x)\phi(x) + r(x)

である. このとき,  r(x) の次数は  \phi(x) よりも小さく,  P(x) ,  \phi(x) は有理係数の多項式であるから,  r(x) の係数も有理数であることに注意する.

 P(\alpha) = \phi(\alpha) = 0

であることより,

 r(\alpha) = 0

が成立する. ところが,  \phi(x) は,

\phi(\alpha) = 0

となる次数最小のものだから, 矛盾しないためには,

 r(x) = 0

が恒等的に成立する. したがって,  \phi(x)P(x) を割り切る.

次に,  \phi(x) = x^3 - 2 であることを証明する. まず,  x^3 - 2 x=\alpha を代入すれば, 0 になることは, 実際の計算から明らかであり,  x^3-2 の係数はすべて有理数である. したがって, 次数が最小であることを以下に証明する.

 \alpha は有理数でないので,  x - \alpha \phi(x) とはならない. つまり,  \phi(x)1 次ではない.

次に,  a, b を有理数として,  \phi(x) = x^2 + ax + b と表わせたと仮定して, 実際に割ってみると,

 x^3 - 2 \\= (x^2 + ax + b)(x - a ) \\ \quad + (a^2 - b)x + ab - 2 \\= 0

先程の結論から, 余りの多項式は恒等的に 0 でないといけないので,

 a^2 = b \\
ab  = 2

つまり、

 a^3 = 2

となるが, 問 (1) の結果から, a が有理数であることと矛盾する. したがって, 2 次式は,  \phi(x) とはならない. したがって,  \phi(x) = x^3 - 2 と結論できる. 以上から,  P(x) は,  x^3 - 2 で割り切れる.//

 f(x) = x^3-2 が既約であることを示してもよい.  3 次式が既約でない, つまり, 因数分解できるならば, 1 次式と 2 次式か, すべて 1 次式に分解するかのどちらかである. いずれにしても 1 次式を含むので,  \displaystyle{f\left(\frac{p}{q}\right) = 0} となる整数 p, q (互いに素としてよい) が因数定理により存在する. すると,  \displaystyle{\frac{p}{q} = \sqrt[3]{2}} となるが, これは問 (1) の結果から矛盾する. したがって,  f(x) は, 有理数の範囲で既約である.//

*1:実際, 最小多項式  \phi(x) がより低次の有理係数の多項式 の積  \phi(x) =p(x)q(x) に分解したとすると,  \phi(\sqrt[3]{2})= 0 だから,  p(\sqrt[3]{2})=0 または,  q(\sqrt[3]{2})=0 となって,  \phi(x) が次数最小であることに矛盾する. また,  \phi(x) が既約多項式であるとすると,  \phi(\sqrt[3]{2})=0 だから, 最小多項式で割り切れるが, 既約であることから商は定数であり, 最小多項式と定数倍の違いを除いて一致する.

*2:一般に  n>1 の整数で,  p を素数 とすれば,  x^n -p は有理係数の範囲で既約であることがアイゼンシュテインの既約判定からわかる.

*3: p, q1 よりも大きな最大公約数を持つ場合,  p,  q をその最大公約数で約分したものを改めて  p,  q とおくことにすれば, この仮定でよい.

*4:一変数多項式,  a_nX^n +a_{n-1}X^{n-1}+ \cdots + a_0 で,  a_n, \ a_{n-1}, \cdots,\  a_0 の最大公約数が  1 の整数係数の多項式を「原始多項式」という. たとえば,  \displaystyle{f(x) = \frac{4}{9} x^2 + \frac{2}{3}x + \frac{8}{9}} で, まず分母の最小公倍数を外に出せば,  \displaystyle{f(x) = \frac{1}{9}(4x^2 + 6x + 8)} となる. それから、分子の最大公約数を外に出せば,  \displaystyle{f(x) = \frac{2}{9}(2x^2 + 3x + 4)} である. なお,  \displaystyle{\frac{2}{9}} のことを「内容 (content)」という. この用語を使うと原始多項式とは, 内容が 1 である整数係数の多項式のことである.