また、高校物理の話。
この前、静磁場のところに入ったら、いきなり「磁気力に関するクーロンの法則」とかが出てきた。自分は共軛とか双対の話はなぜか好きなんだが、これだけは嫌だなあ。これは本当に「法則」なんだろうか?
そこでは、まず電気量クーロン に対応する量として、磁気量の単位ウェーバ が出てくる。磁場 の強さは電場 と同じような対応で、 の磁極 ( 極) が受ける力で定義していることも同じである。磁場 の単位はしたがって である。
正直、静磁場のつかみがこれかあと思ってしまう。おまけに棒磁石の図があって、磁力線が書いてあるんだが、ちょっと姑息だなあと思うのは、磁石内部の磁力線は図示されていないことである。もちろん、クーロンの法則なんだから、磁石内部の磁場 の磁力線は 極から出て 極に向かうのである。まさか、この段階で磁化ベクトルの説明なんてできないだろうから、隠蔽しているのだと思う。
静電場と静磁場の共軛というのなら、やっぱり最初は、電場の電気量に対して磁場の電流を対応させ、電場と磁場の発散と回転の関係が反対称になっていることを説明してくれた方が自分にとっては美しく思える。そういう意味では、アンペールの法則とローレンツ力 (アンペール力) が本質的であろう。
アンペールの法則の方が最初に出てきて、磁場 の単位は なんだとわかることになっている。なお、ビオ・サヴァールの法則 (Bio-Savart law) は高校物理には出てこない。
それから、重要な「ローレンツ力」が「フレミングの左手の法則」の後でようやく出てくるようになっている (もう疲れてしまっていないだろうか?)。それで、この段階で、電流が磁場から受ける力として磁束密度 を使うことになる。つまり、磁場 は の磁気量への力で、磁束密度 は、, の直線電流への力であるということになる。これから、磁束密度 の単位は、 で、磁場 は だったから、
となり、この関係を使って磁束密度 の単位は
とも表わすことができ、これを (テスラ) とも呼ぶ。
磁束密度 と磁場 の真空中での比例定数は「真空の透磁率*1」 と呼ばれていて、
である (もちろん、磁石の内部ではこの正比例関係は成り立たない)。 離れた同じ向きに同じ大きさで流れる平行電流の引き合う の導線あたりの力が のとき、電流を とするのがアンペアの定義 *2だったから、
で、
として、
である*3。磁力とは結局、電流と電流の間に働く力のことであり、磁場とは電流が作り出す場のことである *4。同じ向きの平行電流には引力が働き、反対向きの平行電流には斥力が働くということが磁力なんだとわかっていれば、点電荷の電位 (クーロン型ポテンシャル) の電荷密度 (スカラーである) を電流密度 (ベクトルである) に置き換えることにより、ベクトルポテンシャルがどういうものなのか、将来すぐに類推できるはずである。
磁束密度 の単位が だから、 とは磁束の単位のことだとわかって、ようやくほっとした気分になれるのである。電磁誘導の式から
であり、これは
と対応している。
なお、最初の棒磁石の作る磁場を磁束密度 による磁束線であらわせば、磁束線は沸き出しも吸い込みもないループ (閉曲線) になる。「磁気力に関するクーロンの法則」を前提とする磁場 の磁力線では、最初に述べたように磁石内部の磁力線が逆向きで磁束線のようにならないので、磁化ベクトル によって
となるように補正する必要がある。磁石内部の磁場は複雑なので、磁石と等価なソレノイドの内部の磁束線と同じになるように磁化ベクトル で補正するといった方がよいかもしれない。