ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (38)

私事で恐縮だが、高校の化学は苦手だったなあ。うっすらとした記憶では高校時代にライナス・ポーリングの講演を聴いたことさえあったと思うのだが、「猫に小判」とはこのことで、まるで細部を思い出せない。ライナス・ポーリングの名前は、高校の化学でも「電気陰性度」のところで出てきたと思う。

ところが、最近、YouTube で京都大学が公開している利光昭夫教授の「有機分子たちを考えて日常生活を理解しよう」
京都大学 全学共通科目 ポケットゼミ「有機分子たちを考えて日常生活を理解しよう」第1回「水と油」 年光 昭夫教授 (化学研究所)2012年4月17日 - YouTube
というおそらく大学新入生向けの動画をなんの気なしに見たら、これがすごく面白かった。最初のところなんか、「電気陰性度」という言葉さえほとんど使わずに、酸素には孤立電子対が二組あるという事実だけで、それが結果的にどんな多様な豊かな世界を作り出しているかということを悠々迫らず説明している。メタンと水分子の違いなんてどの高校の教科書にも最初の方に書いていると思うが、この動画を見ていると、水分子が周囲にいっぱいある環境でDNAの塩基の水素結合がなぜうまくいくのかとかにまで思いが至り、全体が拡がりのように実感できるようになって、いろんなことをもう少し詳しく調べたくなってしまうから不思議である。反応のところの説明 (アセトアルデヒドが酢酸になるところ) なんかはほとんどしておらず、していても少し怪しい気さえするんだが、自分の頭の中や紙に書いて反応のステップを反復していると実際はこうなんだろうとやがてわかった気になる (もちろん気のせい) から、これまた不思議である——なお、反応については第 8 回の後半で少し丁寧にエステル化とアミド化について分子模型で説明されている。高校時代にこの動画を見ていたら化学が大好きになったかもしれないという内容で、素人には非常に楽しい時を過ごせるものだった。