なんか忙しいので、ブログの更新をやめてしまったが、少し時間の余裕ができたので何か書いてみることにする。
塾で高校生に物理を教えていることはすでに書いたが、定期試験対策のために力学のおさらいをしていて気がついたのは、相変わらず「慣性力」にまつわる世の中の記述がおぞましいぐらい錯綜しているということだった 。
石に紐をつけてグルグル一定の速さで円運動させたとき、紐が切れると石が円の接線方向に飛んでいくのは、もちろん紐が切れたことによって石に働く力がなくなって、「慣性」により等速直線運動するからだが、この「慣性」はもちろん力を指すはずがない。ところが「慣性力」という言葉が平気で使われることがある。運動量や運動エネルギーで「慣性」の大きさは評価できるが、合力は である。
次に「慣性力」はしばしば二種類の意味で使われていてこれも混乱を助長する。ひとつ目は、教科書に書かれているもので、非慣性系 (加速度座標系) でニュートン力学を成立させるために補正として加えなければいけない力のことで、適切な用語と思わないが、「見かけの力」と呼称されるものである。
例として長さ の紐に繋がれて等角速度 で円運動している石の上に静止している回転座標系のミクロの観測者は、その石が止まって見えている。座標を複素平面で表すことにすると (複素平面は、計算を簡単にしたいだけである)、静止座標系に対して観測者の位置は、
(ベクトルでいうと)
と表せるから、これを二回 で微分すると、
(ベクトルでいうと
で、 の場合、
)
となる。つまり、静止座標から見てこの回転座標系に静止している観測者は、大きさ の向心加速度が働く加速度座標系にいる。したがって、全宇宙のあらゆる質量 に向心力の向きを逆にした「遠心力」(「見かけの力」としての慣性力の特別な場合の名称)
が加わる場を考えればニュートン力学が適用できる。この場合、石に働く向心力に遠心力を加えれば、石に働く力はつり合って、静止したままとなる。
もうひとつの「慣性力」は注意深い人ならば混同を避けるために「慣性抗力」「慣性抵抗」といった用語で書くものである。陽にあらわれる力ではないので「慣性抵抗」が一番良いと思うのだが、「慣性抵抗」という語もしばしば別の意味で使われる。この「慣性力」は漠とした言い方をすれば物体に外力が加えられて、その速度を変えるときに、その速度変化に抵抗する傾向のことである。この傾向が力として陽に発現するのは自分自身ではなく作用を及ぼした相手であり、その力は、外力が だったら である。なんだ、反作用のことかといわれそうである。
例として、先ほどと同じく長さ の紐に繋がれて等角速度 で円運動している石を慣性系で見るとする。石に働いている力はもちろん向心力で
である。石の速さは同じだが、速度ベクトルの向きは変わっているのでベクトル量としての運動量 () は保存していない (外力である向心力が働いている)。保存するのは、やはりベクトル量である角運動量 ()である。つまり、向心力の作用線は回転中心を通る中心力なのでモーメントはゼロである。
石には慣性抵抗があるので、反作用として石は紐を
で引っ張っている。スカラー量である運動エネルギーは一定である (石の移動方向と向心力の向きは垂直なので石の慣性抵抗に対して仕事をしない)。別の言い方をすれば、石の軌道に沿って中心力による位置エネルギーも変化していない。このことから運動エネルギー
を で微分すれば向心力はすぐにわかったのだった。
慣性抵抗による反作用をまた「遠心力」という人がいるから世の中、どんどん複雑になる。尚、最初に述べたように紐を切れた時点で向心力はなくなるのだから、当然反作用 (慣性抵抗) も陽にあらわれることはなくなって、石は慣性の法則にしたがって等速直線運動する。
※ 回転系の観測者がその座標系で一定の速度をもっている場合を静止系で表すと、
(ベクトルでいうと)
をまず、一回 で微分して、
(ベクトルでいうと)
さらにもう一回 で微分すると、
(ベクトルでいうと)
となる。したがって慣性力 (見かけの力) として、遠心力以外に、以下のような大きさ
で、進行方向から 度右回り (回転方向が左回りの場合) の向きのコリオリ力があらわれる。