ボケ。泉鏡花の『売色鴨南蛮』を読んだ。冒頭の「濡しょびれ」て「白い足くびを絡 (まと) った」燃えたつような緋縮緬 (ひぢりめん) の長襦袢を受けついで、雨に濡れて「血の滴るごとき紅木瓜」の緋色の主題が不穏な作品世界へと読む者を導き入れていく。
日永の頃ゆえ、まだ暮かかるまでもないが、やがて五時も過ぎた。場所は院線電車の万世橋の停車場の、あの高い待合所であった。
柳はほんのりと萌え、花はふっくりと莟 (つぼ) んだ、昨日今日、緑、紅、霞の紫、春のまさに闌 (たけなわ) ならんとする気を籠めて、色の濃く、力の強いほど、五月雨か何ぞのような雨の灰汁に包まれては、景色も人も、神田川の小舟さえ、皆黒い中に、紅梅とも、緋桃とも言うまい、横しぶきに、血の滴るごとき紅木瓜 (べにぼけ) の、濡れつつぱっと咲いた風情は、見向うものの、面のほてるばかり目覚しい。……
土筆 (スギナの胞子茎)。
フクジュソウ。
カワヅザクラ。
ミスミソウ (雪割草)。
ムスカリ。
ユキヤナギ。