ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

日本をもっと高齢化社会に

2015 年に亡くなられた偉大なポルトガルの映画監督、マノエル・ド・オリヴェイラは、亡くなられる一年前の105 歳まで作品を発表している。クリント・イーストウッド監督も、中島貞夫監督も、明日から『イメージの本』(2018) が日本で封切られるジャン・リュック・ゴダール監督も 80 代でいまだに作品を発表している。小津安二郎がはじめてトーキー作品を作り、溝口健二監督が『祇園の姉妹』(1936) を発表し、やがて中国大陸の戦地へ赴く山中貞雄が 15 歳の原節子で『河内山宗俊』(1936) をつくり、来日したオペラ歌手 シャリアピンは歯が悪かったので帝国ホテルで薄切りのステーキ (シャリアピンステーキ) を注文し、21 人の青年将校と 1,400 名あまりの兵士による 2・26 事件がおこって東京市 (世界でもっとも空気が汚い都市と言われていた) に半年たらず戒厳令がひかれ、幻に終わった東京オリンピックの開催が決定し、社会大衆党 (戦後の日本社会党の前身) が翌年の第三党への大躍進へむけて軍と結託しつつ、いきすぎた資本主義を「改革」するという言葉とは裏腹に左翼政党でありながら確実にファシズムへ傾倒していたはずの 1936 年に生まれた蓮實重彥さんも、きたるべき『ジョン・フォード論』を執筆されているはずである。

日本は人口減少社会といわれて久しく生産年齢人口も減少しているが、就業人口の方は増加をつづけており、2018 年の平均は 6,664 万人で、前年にくらべて、働いている人は 134 万人増え 6 年連続で増加している。増加の要因で最大のものは、女性の就業率と65 歳以上の就業率があがったことである。外国人の就業者はこの 5 年間で倍増したものの、全就業者は 127 万人程度で、まだ全体の 2 %にも満たない。もっとも伸び率の高い国はベトナムで過去 5 年で 9 倍ぐらい増えた。なお、未来はアフリカの時代と云われていても、日本がアフリカから受け入れている留学生は現状 2 千人程度にすぎない。深く解析した訳ではないが、現在、人手不足といわれているのは、おそらく就職氷河期といわれた時代に若者を冷遇したツケを払っていることや、業種によって格差が生まれているからかもしれない。

65 歳以上の労働について、たとえば国内の医療について考えると、なんらかの持病をもちながら働く多くの老齢者向けに必要なヘルスケア・オンライン・サービスなんかは、まだまだ本当にお粗末だなあと思ってしまう。昔は日本市場は世界でもっともユーザーが品質にうるさいと言われていたが、ソフトウェアに関しては、たとえば電子お薬手帳についても、どうしてこんなに使い勝手が悪いんだろう、これでどれだけ手間が省けているんだろうかと訝しむのだが、こんなところだけは、皆妙に寛容である。医療費の削減にも、労働生産性の向上にもある程度寄与すると思うんだが。

若者について言えば「日本脱出」なんて言葉をしょっちゅう見かけるので、さぞや日本を見限って海外で生活する若者は激増したんだろうなあと思って海外在留邦人数の推移をみたら、平成元年の 59 万人が平成 29 年で 135 万人になったぐらいで、こちらが思ったより伸びていない。そもそも「脱出」なんて大げさな言葉遣いがよくないんではないか、「脱出」というのはそもそも、日本という国が曖昧に前提にされている。国など無視して、個人のレベルで気楽に「越境」すれば良いのではないのかとも思ってしまう。世界には何の影響力もない元号であれだけ無意味な情報がネットに飛び交っているのを見たりすると、暗澹たる気分になって、そんなに暇なのかと思ってしまう。若者は海外で (国策とは無関係に、理念としてはコスモポリタンとして) 活躍し、日本はもっと高齢化社会になればよいのにと思う。経済的に余裕のある高齢者が海外で活躍したい若者に投資するクラウド・ファンディングなんてあればよいのに。若者は海外に出やすくなるし、投資する方は投資する方で、国民の預金凍結とインフレで巨額の財政赤字を解消した敗戦期よりもさらに多額の借金を抱えた国をあてにするより、余程信頼がおけると思う。


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