ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

/l/ と /r/

前の記事の /l/ と /r/ について書くことにする。/l/ と /r/ がどういう音かを復習してみる。アメリカ英語では /l/ は多くの場合、舌先を上歯茎の上の方につけて中央から出る空気を遮り、舌の両側面から空気を部分的に出すことで達成される。なお feel のような語末にある L の  /l/ は舌先は接近するだけで完全につかなくてもよい (つけても構わない)。英語の /r/ はリードのついた管楽器のように出てくる空気を震わせることが本質である。調音方法はいろいろあるが、もっともよく使われるのは、舌先はそのままに、自分の舌を飲み込むような気持ちで喉のところで空気を震わせればよい。つまり /l/ は空気を一部遮ることが目印で、/r/ は震えることが目印である。日本語の「ら」の発音が英語において問題なのは、舌先を歯茎につけて一部遮った上に、さらにその舌先を弾いて空気を震わせるからである。つまり /l/ と/r/ の特徴を両方有していることが問題なのである。自分で「ら」を発音してみて、遮って震わせている、「いったいどっちなんだ」状態を確認してみて欲しい。面白いのは同じ「ら行」の音でも発音の仕方が違うことである。僕の場合には「り」「れ」「ろ」は遮らないので r の音に近い。すると曲者は「ら」と「る」に近い英語の音である。「し」が s ではなく sh であるような例と似ている。

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単純化して、子音一つと母音一つのまとまりの発音を考えた場合、
1) 子音 + 母音
2) 母音 + 子音
の二通りがある。日本語には大部分、二番目のケースがない。子音が母音(声)と重ならない場合、子音を「無声子音」、母音 (声)と重なる場合を 「有声子音」という。英語には、二番目のケースの「有声子音」 があることにもっと驚こうではないかというのが、この ブログの一番最初の『ボインが好きな「ベッド」と残念な「ベット 」』という記事の趣旨であった。上の二番目のケースの有声子音をまったく無 視して、一番目のケー スだけで英語の音が再現可能だと思い込んでいる日本人が、 ゼロではなさそうなのであえて書いたのである。bed の /d/ は、前の母音の /e/ の声が続いている間に /t/ の息の音が重なることによって /d/ になっているのであり、断じ て「ド」を最後に軽く添えることではない。

※ どうしても喉を締めて母音を切ってしまう人は荒療治として舌の根元に力を心持ち入れて舌全体を下に下げると喉が開くのではないかと思う (歌を歌うときに喉が締まって高音が出しにくい人向けの訓練と同じであることは後から知った)。

(2) のケースの /l/ と /r/ の識別が出来ない日本人はいないと信じている。だって、一部遮られているか「わたり」音として動いているかの区別だけである。難しいのは /l/ が聞こえ難いときがあることである。たとえば、プレスリーの歌で “wild and wide” を紹介したが、wild の l がよくわからないときがある。ドリス・デイの “A Sentimental Journey” を聞いてみて欲しい。

Gonna take a Sentimental Journey,
Gonna set my heart at ease.
Gonna make a Sentimental Journey,
to renew old memories.

Got my bags, got my reservations,
Spent each dime I could afford.
Like a child in wild anticipation,
I Long to hear that, “All aboard!”

Seven…that’s the time we leave at seven.
I’ll be waitin’ up at heaven,
Countin’ every mile of railroad
track, that takes me back.

Never thought my heart could be so yearny.
Why did I decide to roam?
Gotta take that Sentimental Journey,
Sentimental Journey home.
Sentimental Journey.

 “wild anticipation” の wild の /l/ の音が僕にはよく聞き取れず、 “wide anticipation” だと思い込んでいた。please とか cloud のような場合、l の前が破裂型の無声子音で、最初のうちは l の音が聞こえず r のときに比べて音が弱い。cloud と crowd を聴き比べてみるとよいかもしれない。

1) のケースでは、トリッキーなクイズはいくらでも思いつく。声が本格的に出るまでのセットアップ的なノイズを加えてみるとか、r の音が震動する時間を極端に短くするとか、声の高さを変えてみるとか、L の舌先をつける位置を変えてみるとか、r の調音方法を変えてみるとかである。そんなのは、慣れた段階で暇なときにやってみるのも面白いだろう。しかし、異なる話者の L と R の発音の違いなんて区別して何の役に立つんだろうと思ってしまう。