1934 年に同名の著名なミュージカルで使われたこの曲 “Anything Goes” (「何でもあり」)は、コール・ポーター(Cole Porter) の作詞・作曲である。もっとも、歌詞の方は時代とともに別のものへ置き換えられている。最近では Lady Gaga と Tony Bennett が歌っていた。
オリジナルの歌詞には、当時のセレブたちのゴシップ・ネタが散りばめられていてそれなりに興味深いのだが、その中に以下の一節がある。
If Sam Goldwyn can with great conviction
Instruct Anna Sten in diction,
Then Anna shows
Anything goes.
アンナ・ステンの『女優ナナ』(Nana, 1934) は見ていないのだが、ロシア出身の彼女が初めて米国で出演した映画で、ポーランド出身のサミュエル・ゴールドウィン以外は彼女の英語は理解不能といわれ、興行的には大失敗に終わったとされる作品である。ゴールドウィンの英語は前に記事で紹介したことがあるが、そのゴールドウィンがアンナ・ステンに英語の言いまわしを教えたというのだからおかしい。1935 年のキング・ヴィダー監督の『結婚の夜』(The Wedding Night) は見た。脚本は F・S・フィッツジェラルドとゼルダをイメージして書かれたというが、はっきり言ってくだらないと思った。しかし、ゲイリー・クーパーとアンナ・ステンが出逢い、やがて実らぬ恋に落ち、アンナ・ステンが結婚式の夜に階段から落下して亡くなってしまうまで、丹念に演出された画面に思わず引き込まれてしまう。淀川長治さんは、昔はキング・ヴィダー監督の映画を見に行く人たちは襟を正して見たといっているが、まさにそんな感じがする演出であった。
アンナ・ステンは、Goldwyn's Folly といわれた女優であり、サミュエル・ゴールドウィンは「第2のガルボ」をあてこんで、彼女をアメリカに連れてきて 500 万ドル以上をつぎこんだとされるが、結局彼女の売り出しには成功しなかった。しかし、ボリス・バルネット監督の『帽子箱を持った少女』(1927) を始めとする数本のフィルムにロシアで出演した彼女が、ハリウッド映画にも出演しているのを見ることは、国境という枠など超えて、思いがけないことが作品で起きる映画の素晴らしさの一例であると思う。そして、サミュエル・ゴールドウィンの気狂いじみていると言われた「愚行」がその思いがけなさに関与していることは感動的である。そうした振舞いの積み重ねで映画史は形成されているのだ。
1934:
Cole Porter:
Dorsey Brothers:
Paul Whiteman:
1953:
Ethel Merman:
1956:
Ella Fitzgerald:
Frank Sinatra:
1957:
Stan Getz and Gerry Mulligan:
1958:
Pee Wee Hunt and his Orchestra:
1959:
Tony Bennett & Count Basie:
1962:
Eileen Rodgers and Ensemble:
※ 1934 年のミュージカルに出演した Ethel Marman はこの年にミュージカルのナンバーをレコーディングしている。それを紹介しておく。
You’re the Top:
I Get a Kick Out of You: