その二 妹背山津村は何日に大阪を立つて、奈良は若草山の麓の武藏野と云ふのに宿を取つてゐる、───と、さう云ふ約束だつたから、此方は東京を夜汽車で立ち、途中京都に一泊して二日目の朝奈良に着いた。武藏野と云ふ旅館は今もあるが、二十年前とは持主が變…
吉野葛 谷崎潤一郞 その一 自天王私が大和の吉野の奧に遊んだのは、既に二十年程まへ、明治の末か大正の初め頃のことであるが、今とは違つて交通の不便なあの時代に、あんな山奧、───近頃の言葉で云へば「大和アルプス」の地方なぞへ、何しに出かけて行く氣…
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