ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

ダニエル電池

高校入試問題を見ていたらダニエル電池に関する問題が出ていて、その問題自体は興味をそそられるものではなかったが、不図、ダニエル電池の起電力を計算しようと思ったら熱力学を忘れている。以下は単なる忘備録である。異種金属を接触させると一方がすぐに錆びることを電池で説明する人がよくあるが、本来、異種金属を接触させると一方の金属がすぐに錆びるという自発的変化から工夫して電気的仕事を連続して取り出せるようにしたのが電池である。(使い捨てカイロのように熱ではなく。)

まず、基本の復習。

熱量 q, 仕事 w が, 考えている系に流入する方向を正とするとき, 内部エネルギー変化 dU は, 第 1 法則から

 dU = \delta q + \delta w

となる. 外界 (の温度 T の熱源) から熱量  \delta q を受けた系のエントロピーが  dS 増えたとすると, 外界のエントロピー変化  - \delta q/T との合計は, 第 2 法則から

 \displaystyle{dS - \frac{\delta q}{T} \geq 0}

を満たす (等号は可逆変化の場合). つまり

  \delta q  - TdS \leq 0

が成立する.

そこで, 外界の温度は,  T_{ex} の定数である等温過程を考えることにし, 考えている系がまったく「仕事」をしない (体積仕事もしないように体積一定の) 自発的変化だとすると,

  dU = \delta q

だから,

 dU - T_{ex}dS  \leq  0

となる。 T_{ex} は定数なので、左辺は「ヘルムホルツの自由エネルギー (ヘルムホルツエネルギー)」 F = U - TS の微分形式で表され、

 dF \leq 0

が、系の進む自発変化の方向を与える。

更に温度だけでなく, 外界の圧力も   p_{ex} \ ( \gt 0) で一定だとし, 体積が膨張する場合を  dV \gt 0 とすると, 自発変化は,

 dU = \delta q - p_{ex}dV

つまり,

 dU + p_{ex}dV = \delta q

で, エンタルピー  H = U + pV を使うと,

 dH = \delta q

だから,

 dH - T_{ex}dS  \leq 0

となるが、左辺は外界が等温, 等圧の条件から 「ギブズの自由エネルギー (ギブズエネルギー) 」 G = H - TS の微分形式  dG で表されるので, 結局

 dG  \leq 0

が自発変化の方向を与える. 容易にわかるように, 自発変化で自由エネルギーが減少するのは, 不可逆変化により, 系と外界のエントロピーの合計が増えるからである. 外界の温度や圧力を固定した場合, 自由エネルギーによってエントロピー増大を表すと, 系が外界とやり取りする  \delta q を系の状態変数  dU dH で自己完結して表わすことができる.

今度は, すべて自発変化ではなく工夫して系から仕事  - \delta w を引き出すとする. さしあたって必要な, 外界が等温/等圧の条件で, 体積仕事でない電気的仕事のような非膨張仕事  - \delta w' についての最大仕事を求める. (マイナスをつけているのは, 系から外界に取り出す仕事を正にするため.)

 dU = \delta q - p_{ex}dV + \delta w'

だから,

 dH - \delta w' = \delta q

なので,

 dH - \delta w' - T_{ex}dS  \leq  0

から,

 -\delta w' \leq - dG

となり, 系が外界になし得る「非膨張仕事」における最大仕事は, 可逆変化の場合で  - dG となる. 不可逆変化の場合には系にエントロピーが生成するので, (「可逆熱」の出入りとは別に) 「不可逆熱」が発生し, 外界に取り出せる非膨張仕事は最大仕事よりもその分減じる.

なお, 外界が等温等圧のとき,

 -\delta w' + p_{ex}dV  \leq - dG + p_{ex}dV

だが, 右辺は

 - dG + p_{ex}dV = -dU + T_{ex}dS

だから,

 -\delta w' + p_{ex}dV  \leq - dF

となり, 体積仕事と非膨張仕事を合算した系から取り出せる全仕事の最大値は, 可逆変化の場合で  -dF となる.

これで大分思い出せた.

ダニエル電池というのは, 要は, 亜鉛が酸化されて亜鉛イオンになり, 銅イオンが還元されて銅になる反応である.

\rm{Zn}(s) + \rm{Cu}^{2+} (aq) = \rm{Zn}^{2+}(aq) + \rm{Cu}(s)

 25 \rm{{}^\circ C} における反応前の標準 (1000\ \rm{hPa}) 生成ギブズエネルギーの合計は  65.49\ [\rm{kJ}/\rm{mol}] で, 反応後の合計は  - 147.1\ [\rm{kJ}/\rm{mol}] なのであり, 非膨張仕事をすべて電気エネルギーとして取り出すときの最大値は,  - dG^{\circ} ( \circ は標準状態の意) だから,

 147.1 + 65.49 = 212.59\ [\rm{kJ}/\rm{mol}]

この反応で  2\ \rm{mol} の電子が移動するが (2 価のイオンだから), 電気量の絶対値はファラデー定数により,

 q = 2 \times 96485 = 192970\ [\rm{C}]

なので, 電位差 (とは, 1 \rm{C} あたりの位置エネルギーにほかならない) は,

 212590 \div 192970 = 1.10 \ [\rm{V}]

である. こんな計算でも結果がよくあうものなんだなあ.