ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

埋め込み

京都大学の有名な入試問題に,

\triangle ABC を鋭角三角形とする。このとき、各面すべてが \triangle ABC に合同な四面体が存在することを証明せよ。

というのがある. という訳でもないが, 前の記事の問題は, 等面四面体の問題だったので, その図を使って直方体へ四面体を埋め込んだ図を書いてみた. もちろん, 直方体の辺の長さを最初に計算して出してしまえば, それまでなのだが, それでは面白くないので, 別の方法で作成してみた.

まず, 四面体の重心を求めて作図する方法がある. 四面体の頂点と, その頂点に向かいあっている三角形の面の重心を結んだ線 (全部で 4 本ある) は同一点で交わり, これを四面体の重心という. 四面体の重心と頂点までの距離は, 頂点と対する三角形の重心を結んだ長さの  3/4 倍である.

※ この間、塾で「割合」の理解に苦しんでいる小学生と話しているうちに気がついたのだが, 分数で倍をいうときは, なぜか「倍」をつけないでいうのが普通である. そう考えてみると慣れてしまっているだけで「2 割引き」なんていうのも, 小学生からしてみれば, 「倍」をいうのに引き算がなぜ出てくるのか, 魑魅魍魎に出会った気がしているのかもしれない.//

脱線したが, それで四面体の重心は簡単に作図できるので, それを点対称の中心として, 各頂点の対蹠点を求めるだけだと思って描いた図が下である.

しかし, よくみると, 直方体ではなく平行六面体である. これは失敗. 失敗ついでに言っておくと, 等面四面体に限らず, 任意の四面体は平行六面体に埋め込む (平行六面体を外接させる) ことができる.

※ 訂正: その後, やはり直方体にならないと矛盾すると思い (平行平面が唯一でなくなって矛盾する) 調べ直したら, 作図にミスがあり, やはりこの場合も直方体になることがわかった. どうも作図しているうちに, 点の位置が移動してしまい, 等面四面体でなくなっていたらしい. 謹んで訂正します. 大体, 前の記事の展開図をみれば, 等面四面体のねじれの位置にある辺は同じ長さである. 平行四辺形で, 二つの対角線の長さが等しければ (4 つの角が等しくなり) 長方形だというのは, 小学校で習うことだった.


//

それで, 別の方法で作図した. 原理は単純で, 等面四面体を直方体に埋め込んだとき, 四面体のねじれの位置にある辺を含む直方体の面が平行であるので, その平行面をまず作図する. たとえば, 下の図で AO BC をそれぞれ含む平行平面を作るには,  AO 上の任意の点から  BC に平行な線を引いて, その 2 直線を含む平面を決定すればよい.  BC を含む平面の方も同様である. 平行線をそれぞれ引いた状態で考えると, 「一つの平面上の相交わる二直線が他の平面上の相交わる二直線にそれぞれ平行なるときは, この二平面は平行である」という定理の応用である. なお, このような面の組はただひとつしかない.

他のねじれの位置にある直線の組についても平行平面を定める. このような平行平面の組もひとつに定まる.

そしてそれらの平面の交線を求めればよい. 後は省略するが, とにかく直方体を求めることができた.

最初に述べたが, こんなことをしなくても, 三角形の辺の長さは,  3,  \sqrt{7}, 2 と分かっているのだから, 直方体の異なる  3 辺の長さを  p, q, r として,

 p^2 + q^2  = 9
 q^2 + r^2  = 7
 r^2 + p^2  = 4

となる. すると,

 p^2 + q^2 + r^2 = 10

だから,

 r^2 = 1,  p^2  = 3,  q^2 = 6

となって, 辺の長さが,  p = \sqrt{3},  q = \sqrt{6},  r = 1 の直方体を書いて, そこに四面体を描けばよい. 当たり前だがこの方法で描いても同じ図ができる. (直方体から作った四面体の面の三角形は, 等面四面体の面の三角形と三辺合同により「同一」である.)

なお, 一般に  \triangle ABC \angle A に対する辺を a, 他の辺を  b,  c とすれば,

 \angle A < 90^\circ のときは,  a^2 < b^2 + c^2

 \angle A =  90^\circ のときは,  a^2 = b^2 + c^2

 \angle A >  90^\circ のときは,  a^2 > b^2 + c^2

で転換法により逆もそれぞれ真である. 直方体で作られる四面体の面の三角形は, 面角がみな 90^\circ の三面角を平面で切りとった切り口であり, その切り口が鋭角三角形であることはすぐに証明できる.

最後に, 特別な場合として正四面体は立方体に埋め込むことができるが, 辺の長さ 1 の立方体に埋め込まれた正四面体の辺の長さは  \sqrt{2} で, その体積は

 \displaystyle{1- 4\times\frac{1}{6}=\frac{1}{3}}

である. そうすると 1 辺が  a の正四面体の体積 V は, 相似形の体積比からすぐに計算できる.

 (\sqrt{2})^3: a^3 = \frac{1}{3}:V

※ 注1: 最初の作図法の補足.

下の図で,  P,  Q,  R,  S はそれぞれ, 四面体の辺  AC, AO, BO,  BC の中点である. 中点連結定理より,  PQCO は平行で,  PQ CO の半分の長さである. 同様に  SRCO は平行で,  SR CO の半分の長さである. したがって,  PQ SR は平行で長さが等しい. このことから, PQRS は同一平面にあって平行四辺形である. 平行四辺形の二つの対角線はそれぞれ他を二等分する.

次に,  \triangle CAR において, 点  F を三角形 OAB の重心とする. さらに  CF の中点を  H とし,  G を四面体の重心とする.  \triangle CAF において, 中点連結定理により,  PHAF (したがって, AR ) は平行で,  PH AF の半分の長さである. AF: FR  = 2:1 だから,  PH = FR である.  PR HF の交点を  G' とすれば,  \triangle G'HP \triangle G'FR は一辺とその両端の角がそれぞれ等しいことから合同である. したがって,  G'P = G'R で,  G' は平行四辺形 PQRS の対角線の交点と一致する. また,  HG' = G'F となって, これから CG': G'F = 3:1 となって,  G' は四面体の重心である.

ゆえに, 四面体のねじれの位置にある二辺のそれぞれの中点を結んだ線分の中点は, 四面体の重心と一致する.

※ 注2: 四面体の重心を G,  \triangle ABC,  \triangle AOC の重心をそれぞれ  P, Q とすると,  CG:GP = 3:1 であることは, 下の図の相似からすぐにわかる.

※ 最近の大学入試問題でも, 三面角の知識があると有利な問題があるということである. これは, 三辺の長さが与えられたときの三角形の成立条件に対応するものである.

次の定理は知っておくとよいと思う.

与えられた三つの平面角が一つの三面角を作るために必要十分な条件は, そのいずれの平面角も他の二つの和よりも小で, かつ三つの平面角の和が 2\pi よりも小であることである.

※ なお, 実際にいろいろな例を実際に描いてみれば納得できることとして, 上の  4 つの条件のどれかひとつで等号が成り立てばそれは同一平面内にある. (立体角にならず, ペチャンコになるのである.) //

三面角の三つの面角を  \alpha,  \beta, \gamma とすると,

 \alpha + \beta > \gamma
 \beta + \gamma > \alpha
  \gamma + \alpha > \beta

等面四面体では, 前の記事の展開図をみればわかるように,

  \alpha + \beta + \gamma = \pi

が前提であるから, たとえば最初の不等式から

 \alpha + \beta = \pi - \gamma> \gamma

となって,

 \gamma < \pi/2

同様にして,

 \alpha < \pi/2,  \beta < \pi/2

もでる. 逆に,  \alpha, \beta, \gamma < \pi/2 であれば、最初の三つの不等式を満足することは明らかである. つまり合同な三角形が鋭角三角形であることと, 等面四面体ができることは必要十分である.
//