ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

引き算

どのくらいの時間で自分は 2 桁 × 2 桁の乗算を暗算できているのか, 調べてみたくなって Ninimaths というアプリを使って寝起きでない時間に測ってみたら平均 15 秒前後だった. 計算の訓練はしておらず, 計算の工夫だけなのでこんなものだろう. 結局わかったことで一番重要なのは, 約 37 % の確率で現れる同じ数字の有効な配置のときに計算をもっとも短縮できるということである. その代表例は, 積和を

 6 \times 8 + 6 \times 4 = 60 + 6\times (8+4 -10)

と暗算することである. もっとも, 異なる数字の和が 10 を超えない場合には, 普通に計算した方が早い.

 6 \times 2 + 6 \times 4 = 6\times (4 + 2)

ともかく, 細かい工夫がいろいろある. たとえば,  32 \times 76 の場合, 積和は,  32 となるが, この十位の  3 は, 被乗数の十位と同じなので,  3 \times 7 + 3 とはせずに  3 \times 8 と計算した方が早い (積和の十位が乗算の十位の整数倍のときも使える). また計算速度はあまり変わらないが, 記憶の手間を省けるという点では,  57 \times 79 の積和を計算するのに, 内側の  49 を計算して,  50 からの差分 -1 のみ記憶し, 次に外側の 45 の差分 -5 を計算して両者を加え -6 とし, 100 の補数をとって  94 と求める方法もあるかもしれない. 両方の数字が 26 以上 74 以下の範囲ぐらいでは, このやり方が楽なことがある. どちらかの数字が,  75 以上の場合には, その数字について 100 の補数をとるとよい. たとえば, 59 \times 93 の積和は普通に計算してももちろんよいが, 内側の積 81-19 とし, 外側の積 15 を加えて -4 として 96 を得ることができ, この方が暗算時には楽に感じる. 補数計算は暗算の友なのだ. また, 積和が 100 を超えるときは, 100 の過数として計算して最後に千の位に 1 を足せばよい.

ところで, 明治, 大正, 昭和初期にかけて計算法についての本が多数出版されていることを書いたが, 大正時代の本を見ていたら, 以下のような引き算の筆算方法があって楽しくなってしまった.


\begin{array}{ccccccc} &&3&0&0&0&3&5\\ 
&&&&&2&6&7
\\-&&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\\
\hline 
&&2&9&9&7&6&8
\end{array}

引き算の筆算の書き方って斜線で数字を消して新しい数字を書いたりして無駄だよなあと常々思っていたし (しかも自分は左下がりに斜線を書くのである), 塾で子供たちがよく間違えるところでもあるが, これはそれを解決しているなあ. 引く方の数字の下にある ‘ \cdot’ は余分に 1 を引くという印である. 文章を読んでみると, どうも今に伝わる引き算の筆算のやり方は, もともと軍隊の影響でフランスから伝わったものらしい. このやり方は英国式だとある. 子供には以下のように教えるとある.

5 から 7 が引けぬから引かれるものに 10 足して 15 として, 引かるゝようにしてから引く, 即ち 7 を引いて 8 とする. 其代りに次に 10 を餘分に引いて置けば元々である. いつでも上から下を引けぬときには, こんな風にすればよい.

この方法は隣の位から 10 を「借りる」という発想ではない.

 \begin{eqnarray}
5-7
&=&
5-7 + (10-10) \\
&=& (15-7) -10\\
&=& 8 - 10\\
\end{eqnarray}

として使った 10 を上の位へ「送る」という発想である.

下のような加法と減法が混じった計算も可能だと力説している. 上の ‘ \cdot’ は繰り上がりで下の ‘ \cdot’ は, 繰り下がりであろう. つまり上から下の数字が引けなかったら, その時点で, 繰り下がりの ‘ \cdot’ を一桁上に追加していけばよい.

\begin{array}{cccccc} 
\\&&&\cdot\cdot&&\\
&&2&3&8&0\\ 
&&1&2&9&1\\
&&&4&8&3
\\-&&1&7&0&8
\\-&&&6&2&9
\\&&\cdot&&\cdot\cdot&\\
\hline 
&&1&8&1&7
\end{array}