子規遺稿集『竹乃里歌』から
星 錄九首 (明治三十三年)
眞砂なす數なき星のそのなかに
吾に向ひて光る星あり
吾に向ひて光る星あり
たらちねの母がなりたる母星の
子を思ふ光我を照らせり
子を思ふ光我を照らせり
玉水のしづく絕えたる檐の端に
星かがやきて長雨はれぬ
星かがやきて長雨はれぬ
久方の雲の柱につる絲の
結び目解けて星落ち來る
結び目解けて星落ち來る
空はかる臺の上に登り立つ
我をめぐりて星かがやけり
我をめぐりて星かがやけり
天地に月人をとこ照り透り
星の少女のかくれて見えず
星の少女のかくれて見えず
ひさかたの星の光の淸き夜に
そことも知らず鷺鳴きわたる
そことも知らず鷺鳴きわたる
ひさかたの空を離れて光りつゝ
飛び行く星のゆくへ知らずも
飛び行く星のゆくへ知らずも
ぬばたまの牛飼星と白木綿の
機織姫とけふ戀ひわたる
機織姫とけふ戀ひわたる