ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

闇桜

いまの年齢の数え方だと十九歳のときに、一葉が書いた小説が『闇桜』というメロドラマである。メロドラマはこの作品中に引用されている『生写朝顔話』からもわかるように距離の演出だが、この作品ではお千代が自ら心の中で距離を作りだし、その距離をお千代の病による死により決定的づけている。作品の「上」「中」「下」の間には三段跳びの飛躍があって、その間にもっともらしさをまったく導入しないところが一葉であるが、通俗的な作品を作ろうとしたのなら明らかに失敗している。しかし、失敗して本当によかったと思う。

YouTube に一葉記念館の動画があり、藤井直子さんという方の朗読があって、しかも、画面には初めて掲載された「武藏野」の頁がそのまま映されていて、素晴らしい動画だと思った。「武藏野」の活字を見ると、ひらがなの「に」などは「爾」が「尓」になり、さらにそれが崩されたものが使用されているのを一例として、他にも変体仮名が多用されており見るだけで楽しい。一葉の初期の作品には読点すらなく、改行もまたない文章なのに、音にして何度か読めば美しい言葉の連なりが自然と浮かびあがってくる。

【朗読書】 闇桜 樋口一葉〈『武蔵野』版〉 - YouTube