ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (255)

1990 年の東大文科の問題. 前の理科と同じ 2 番の問題で, こちらは 3 次方程式の問題である.  (1) の誘導の意図がわからないうちは, 立方完成 (チルンハウゼン変換) なんかしないで, まっとうに解く方が良さそうで, そうすれば, 実際に素直に解けてしまう問題である.  \{1, \alpha, \alpha^2\} が (拡大) 体の基底になり, 有理式は, ベクトルのようにこの基底による整式で表わすことができるという著しい性質に関連した問題である.

【問】
 3 次方程式  x^3+3x^2 -1= 01 つの解を  \alpha とする.

(1)  (2\alpha^2 + 5\alpha-1)^2 a\alpha^2 + b \alpha + c の形の式で表せ. ただし,  a, b, c は有理数とする.
 (2) 上の 3 次方程式の  \alpha 以外の 2 つの解を (1) と同じ形の式で表せ.

【解】
(1)

 \begin{split}(2\alpha^2 + 5\alpha-1)^2 = 4\alpha^4& + 20\alpha^3 + 21\alpha^2 \\ &- 10 \alpha +1\end{split}

この式を  \alpha^3 + 3\alpha^2 -1 で割ると, 商は,  4\alpha + 8, 余りは,  -3 \alpha^2 -6\alpha + 9 となる.

答:  -3 \alpha^2 -6\alpha + 9

(2)

解と係数の関係,

 \displaystyle{
\left\{
\begin{array}{l}
\alpha + \beta + \gamma =-3 \\\alpha\beta+ \beta \gamma + \gamma \alpha = 0\\
\alpha \beta \gamma = 1
\end{array}
\right.}

を使って,

 \begin{align}
\beta + \gamma &= -\alpha -3 \\
\beta\gamma &= \frac{1}{\alpha}\\
&=  \frac{\alpha^3+3\alpha^2}{\alpha}\\
&= \alpha^2 + 3\alpha
\end{align}

 \beta,  \gamma は次の 2 次方程式の解である.

 t^2 +(\alpha +3) t +\alpha^2 + 3\alpha = 0

判別式は, 問 (1) の結果を使って,

 \begin{eqnarray}
D &=& (\alpha + 3)^2 -4(\alpha^2 + 3\alpha)
\\&=& -3 \alpha^2 -6\alpha + 9
\\&=& (2\alpha^2 + 5\alpha-1)^2
\end{eqnarray}

したがって,

 \displaystyle{
t= \frac{-\alpha-3 \pm (2\alpha^2 + 5\alpha-1)}{2}}

以上から, 他の 2 つの解は,  \alpha^2+2\alpha-2 -\alpha^2 -3\alpha -1 である.
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※ 問  (2) は 問  (1) の誘導にのらなくても解けることは解けるが, えらく時間を食うことになる.

まず, 立方完成するために, 与えられた方程式を組立除法を使って,  x+ 13 回続けて割り, 次式を得る.

 (x+1)^3 - 3(x+1) + 1 = 0

 y = x+1 とおいて,

 y^3-3y +1 = 0

この方程式の解を  s,  t, u とすると, 解と係数の関係は以下になる.

 \displaystyle{
\left\{
\begin{array}{l}
s+ t+ u=0\\
st+ tu + us = -3\\
stu = -1\\
\end{array}
\right.
}

判別式は (覚えておく),

 \begin{eqnarray}
D &=& (s-t)^2(t-u)^2(u-s)^2 \\
    &=& -4(-3)^3 -27\cdot 1^2\\
     &=& 81 = 9^2
\end{eqnarray}

判別式が平方数なので,

 (s-t)(t-u)(u-s) = \pm 9

判別式の平方根を添加しても有理数のままである.

 (s-t)(t-u)(u-s) = -9

として, 判別式から重解を持たないことに注意し, 解と係数の関係や  s^3 -3s + 1= 0 も使って上式を変形する.

 \begin{eqnarray}
t - u &=& \frac{9}{(s-t)(s-u)}\\
&=& \frac{9}{s^2 -(t+u)s + tu}\\
&=& \frac{9}{s^2 -(t+u)s -\dfrac{1}{s}}\\
&=& \frac{9}{2s^2 + s^2 -3}\\
&=& \frac{3}{s^2-1}
\end{eqnarray}

となるが, これを基底で表わすため,

 \displaystyle{\frac{3}{s^2-1} = as^2+bs +c}

とおいて, 分母を払って整理すると,

 as^4 + bs^3 + (c-a)s^2 -bs-c -3 = 0

となる. これを  s^3 -3s + 1 で割って, 余りを求めると, 基底表示が得られ,

 (2a+c)s^2 + (-a+2b)s -b-c-3 = 0

となる. ベクトルの線形独立と同じなので,

 \displaystyle{
\left\{
\begin{array}{l}
2a + c = 0
\\-a + 2b = 0
\\b + c + 3 = 0
\end{array}
\right.}

で, これを解いて,  a =2,  b = 1,  c = -4 を得る. したがって,

 t-u = 2s^2 + s -4

と表わすことができるので, 解と係数の関係,

 t + u = -s

と併せて,

 \begin{align}
t &= s^2 -2\\
u &= -s^2-s+2
\end{align}

を得る.

 \alpha + 1 = s,  \beta +1 = t,  \gamma + 1 = u

なので,

 \beta + 1  = (\alpha +1)^2 -2

から,

 \beta = \alpha^2 + 2\alpha -2

が得られる. また,

 \gamma + 1 = -(\alpha +1)^2-(\alpha+1) +2

から,

 \gamma = -\alpha^2 -3\alpha -1

が得られる. なお, 問  (1) の誘導とは,  \beta,  \gamma を解とする  2 次方程式の判別式

 D= (\beta -\gamma)^2 =(2\alpha^2+5\alpha-1)^2

のことである.
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