ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (250)

記事 (24) の問題 (1999 年東大) の問題を前回の二項定理を使った方法で解き直す. 前のよりはだいぶすっきりしたなあ.


念のため, 基本定理の証明を最初にしておく.

【基本定理】
標数  p > 0 の素体 *1 の任意の要素  a,  b について,

  (a + b)^p = a^p + b^p

が成立する。

【証明】
左辺を二項定理で展開したときの  a^p, b^p 以外の各項は,  {}_p\mathrm{C}_n a^nb^{p-n} となるが,

 p! = {}_p\mathrm{C}_nn!(p-n)! \equiv 0 \pmod{p}

で,  p が素数であることから,

 n! \not\equiv 0 \pmod{p}
 (p-n)! \not\equiv 0 \pmod{p}

である. したがって,

 {}_p\mathrm{C}_n \equiv 0 \pmod{p}

体の単位元を e とすれば,  {}_p\mathrm{C}_ne = 0 なので,

 \displaystyle{(a+ b)^p = \sum_{k=0}^{p} {}_p\mathrm{C}_ka^kb^{n-k} = a^p + b^p
}

となる. //

【系】
上の定理で,  N を自然数とすると,

  \displaystyle{(a + b)^{p^N} = a^{p^N} + b^{p^N}}

が成立する.

【証明】
 N=1 のとき, 上の定理そのものなので成立する.  N で成立すると仮定すると,

  (a + b)^{p^{N+1}} 
\\= (a^{p^N} + b^{p^N})^p
\\= a^{p^{N+1}} + b^{p^{N+1}}

となって成立する.
//

次からが, 入試問題.

【問】
 \text{(1)} k を自然数とする.  m m = 2^k とおくとき,  0 < n < m をみたすすべての整数  n について, 二項係数  _m \mathrm{C}_{n} は偶数であることを示せ.

\text{(2) } 以下の条件をみたす自然数  m をすべて求めよ.

条件:  0 \leq n \leq m をみたすすべての整数  n について二項係数  _m \mathrm{C}_n は奇数である.

【解】
(1)
題意が成り立つことは, 法 2 の剰余整数を係数とする多項式を考えたとき,

 (x+1)^m = x^m + 1

であることをいうのと同じである.

 m = 2^k のとき, 上の定理の系からこれは成立する.

 m \neq 2^k であれば,  q>1 の奇数を使って  m = 2^kq と書けるので,

 (x+1)^{2^kq}
\\= (x^{2^k}+1)^q
\\= x^{2^kq} + qx^{2^k(q-1)} + \cdots + 1

だが, q \equiv 1 \pmod{2} なので,  (x+1)^m \neq x^m + 1 である.

したがって,  m = 2^k であることは, 二項係数  _m \mathrm{C}_{n} がすべての  0 < n < m で偶数であるための必要十分条件であることがいえた.

(2)
パスカルの三角形を法 2 で作ると,

 \begin{matrix}
1:&1&1\\
2:&1&0&1\\
3:&1&1&1&1\\
4:&1&0&0&0&1\\
5:&1&1&0&0&1&1\\
6:&1&0&1&0&1&0&1\\
7:&1&1&1&1&1&1&1&1\\
8:&1&0&0&0&0&0&0&0&1\\
\end{matrix}

両端にしか 1 \pmod{2} がなく, 中間がすべて 0 \pmod{2} になるのは,  m = 2^k のときに限ることを (1) で証明した. パスカルの三角形を作る二項係数の漸化式,

 {}_m \mathrm{C}_{n} = {}_{m -1} \mathrm{C}_{n-1} + {}_{m-1}\mathrm{C}_{n}

から考えて, すべて 1 \pmod{2} が並べば, 次は両端だけが 1 \pmod{2} で中間はすべて 0 \pmod{2} になるから, 題意をみたすのは,  m = 2^k-1 のときである.
//

 {}_{2^n-1}\mathrm{C}_k ( k = 1,\ 2,\  \cdots ,\ 2^n -1) は奇数であることを示せという類題もあるが, この場合だったら,

 2^n -1 = 1+2+ \dots + 2^{n-1}

から, 法 2 の剰余整数を係数とする多項式を

 (x+1)(x^2+1)\cdot \cdots \cdot (x^{2^{n-1}}+1)
\\= 1+ x + x^2 + \cdots + x^{2^n-1}

と展開して, 各項の係数がすべて 1 \pmod{2} であることから, すべて奇数であることを示すこともできる.
//

*1:素数  p を法にした整数の剰余類を係数とする多項式を考えれば, ここでの議論は充分できる.