誰でも知っている物理学者が, 小学生のときにしたといわれるピタゴラスの定理の証明はよく紹介される. それは直角三角形の直角である角 から対辺 に垂線を下ろしてその足を とすれば, , , のどの つも互いに相似であることと,
であることから導くものである.
この著名な物理学者は, 後年, 静止画の連続提示が引き起こす運動感覚を研究したことで知られる友人の心理学者マックス・ヴェルトハイマーへ宛てた私信の中で,「メネラウスの定理」の証明について言及している. この初等幾何の定理に言及するまでに 人の間でどんなやりとりがあったのかは、手紙の文面 (の英訳) からは完全に読みとることはできない. しかし, その手紙には, 同じ公理系から出発して同じ結論を得たとしてもその中間過程には "ugly" なものと"beautiful" なものがあると書かれており, その例としてメネラウスの定理の つの証明がひきあいに出されている.
まず, "ugly" とされた証明. から に平行線を引く. と がそれぞれ相似であることから,
であるので, 両式から を消去すると,
が出る.//
次は "beautiful" とされた証明. と は補角の関係なので (三角形の面積は、 で与えられる),
また,
である. この 式の左辺と右辺をかけると,
が出る.//
年頃に米国で書かれたらしい, 決して長くはないその手紙の書き手は, 手紙の本文の最後をこうしめ括っている.
最初の方の証明は, いくぶん簡単であるが満足すべきものではない. というのも, それは補助線を使っているが, その補助線は証明すべき命題の内容と関係ないものである. またその証明は理由もなく頂点 を好んでいるが, 命題は , , に関して対称的である. 一方, 第 の証明は対称的であり, 図から直接読み取れるものである.