ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (152)

(143)(144)(145)(146)(147) (150) の続き。


三面角及び多面角

1. 多面角

三つ以上の平面が同一の点を通り且つ二つづつ順に交わるとき, 各平面を其の点と, 其の隣の平面との交線に限り, これ等の平面は「多面角をなす」という.

例えば箱の隅や結晶体の角等の部分に見るような尖りはそれである.

そして多面角は其の面の数によって「三面角, 四面角, 五面角」等に区別する.

図は一つの平面で截った五面角である. O を「多面角の頂点」, OA, OB, OC 等を「多面体の稜」, 又平面 AOB, BOC, COD 等を「多面角の面」といい, ∠AOB, ∠BOC, ∠COD 等を「多面角の面角」という. 又二面角 BOAE, COBA, DOCB 等を「多面角の稜角」という.

尚又多面角のすべての稜を截る平面を作るときは, この平面と其の多面角の各面との交りで一つの多角形が出来る. 之を多角面の「截面 (せつめん)」, 又は「底面」といい, 一つの截面が凸多角形ならばすべての截面が凸多角形で, 又一つの截面が凹多角形ならばすべての截面は凹多角形である. そして其の截面が凸多角形であるか凹多角形であるかに従って「凸多面角」, 「凹多面角」と称えるのである.

次に先づ三面角の性質に就てしらべよう.

平面幾何学に於て一般多角形の性質を研究する前に最も辺数の少い三角形の性質を研究したように立体幾何学に於ても一般多面角の性質を研究する前に最も面数の少い三面角にはどんな性質があるかを研究する必要があるからである.

2. 三面角

平面幾何学に於て
「三角形の何れの二辺の和も他の一つの辺よりは大である.」
「三角形の二辺が相等しいときは, 其れに対する角も亦相等しい」
なる定理は諸君がよく知っている基礎の重要定理であるが三角面が之と極めて類似な
定理
[i] 三角面の各面角は他の二つの和よりも小である.
[ii] 三角面の二つの面角が相等しいときは, 之に対する二つの二面角 (稜角) も亦相等しい.

を有することは不思議なようである. 次にその証明に就て述べよう.

[i] の証明:任意の三面角 O-ABC に於て ∠AOB と ∠BOC の和が ∠AOC より大なることを証明しよう. ∠AOC が ∠AOB 又は∠BOC の何れかに等しいか, 又は何れかより小なるときの証明は明らかであるから, ∠AOC が最大なる面角である場合に就て考えればよい.

さて ∠AOC > ∠AOB であるから ∠AOC 内に ∠AOB に等しく ∠AOD を取り, 次に OA, OC の上に夫々任意に一点 A', C' を取り A'C' を引き, A'C' と OD との交点を D' とし OB 上に OD' = OB' なる点 B' を取れば
△A'OB' ≡ △A'OD' (二辺と夾角).
∴ A'B' = A'D'.
然るに △A'B'C' に於て
A'B' + B'C' > A'C' = A'D' + D'C'
∴ B'C' > D'C'.
故に △B'OC' と △D'OC' に於て
OB' = OD'
OC' = OC'
B'C' > D'C'
∴ ∠B'OC' > D'OC'.
(二辺が相等しい三角形の第三辺が不等なるときは大辺の対角は小辺の対角より大である.)
∴ ∠AOB + ∠BOC > AOC.

同様にして
∠ BOC + ∠AOC > ∠AOB
∠ AOC + ∠AOB > ∠BOC
なることも明かである. ▪️

又平面幾何学に於る「三角形の二辺の差は第三辺より小である」に対する三角面に関する

定理
[iii] 三角面の二つの面角の差は他の面角よりも小である.

が成立つことも明かである.

[ii] の証明:三面角 O-ABC に於て二つの二面角 AOB と AOC とが相等しいときは OB を稜とする二面角と OC を稜とする二面角とは相等しいというのが題意である. 先づ ∠AOB と ∠AOC とが共に鋭角で相等しいとする. 稜 OA 上の一点 A から OB, OC に垂線 AB, AC を引き, 又 A から面 BOC に垂線 AH を引き, HB と HC を結ぶと三垂線の定理によって
HB ⊥ OC, HC ⊥ OB.
故に ∠ABH, ∠ACH は夫々二面角 OB, OC の平面角である. 然るに直角三角形 AOB と AOC とは斜辺 AO が共通で一般角 AOB と AOC とは相等しいから
△AOB ≡ △AOC
(直角三角形の斜辺と一辺).
従って OB = OC, AB =AC.
OB = OC より
△OHB ≡ △OHC
(直角三角形の斜辺と一辺).
∴ HB = HC.
AB = AC から
△ABH ≡ △ACH (三辺夫々相等).
∴ ∠ABH = ACH.
∴ 二面角OB = 二面角 OC.

次に ∠AOB と ∠AOC とが共に直角であるときは AO は平面 BOC の垂線となるから AO を含む平面 AOB と AOC は何れも平面 BOC に垂直である.
∴ 二面角OB = 二面角 OC = ∠R.

又 ∠AOB と ∠AOC とが共に鈍角で相等しい場合には AO を OD' に延長して OD', OB, OC を稜とする三面角を考えて容易に証明することが出来る. ▪️

又上の証明を逆に用いることによって [ii] の逆定理である

定理
[iv] 三角面の二つの稜角が相等しいときには之に対する面角も亦相等しい.

の成立つことも容易に認めることが出来る.

尚又三角面に就いて「三角形の二辺が不等なるときには, 大辺に対する角は小辺に対する角より大きい」という平面幾何学の定理に対応して次の定理も成立する.

定理
[v] 三面角の二つの面角が不等なるときは大なる面角に対する稜角は小なる面角に対する稜角よりも大である. 又この逆も真である.

略証:先の図に於て ∠AOB > ∠AOC とすれば二つの直角三角形 AOB, AOC に於て
AB > AC
故に相等しくない二つの斜線の性質により
∠ABH < ∠ACH
∴ 二面角 OB < 二面角 OC.
逆に 二面角 OB < 二面角 OC とすれば
AB > AC
∴ ∠AOB > ∠AOC ▪️

次に三面角に関する問題の研究に移ろう.

例題 直三角面を一平面で截ったときに出来る三角形は鋭角三角形である.

証明:直三角面 O-ABC を一平面で截った場合の三角形を ABC とすればこれは鋭角三角形であるというのが題意である. 直角三角形 OAB に於て直角の頂点 O から斜線 AB への垂線の足 D は二点 A, B の間にある. 次に △CAB の面上で CD を引くと, 三垂線の定理によって
CD ⊥ AB.
故に直角三角形 CAD, CBD に於て直角でない角 A, B は何れも鋭角である. ∠C も同様である. ▪️

問題 1. 上例の図に於て, 頂点 O から截口の三角形 ABC の平面に垂線 OH を引けば, その足は三角形 ABC の垂心である.
註:上の図を代用すると OH ⊥ 平面ABC, OD ⊥ AB とすれば三垂線の定理によって HD ⊥ AB, 依って H は C から AB への垂線 CD 上にある. 同様に H は △ABC の平面上で A, B から対辺に引いた垂線上にもある.

問題2. 三面角の頂点を通って形内に引いた直線が稜となす三つの角の和は, 其の三面角の三つの面角の和も半分よりも大きいことを証明せよ.
註:三面角を O-ABC とし O を通り角の内側に引いた直線を OX とすれば定理によって
∠AOX + ∠BOX > ∠AOB
∠BOX + ∠COX > ∠BOC
∠COX + ∠AOX > ∠COA
であることより考えよ.

問題 3. 三面角の三つの稜角の二等分面は同一の直線にて相会することを証明せよ.
註:二面角の二等分面はその二面から等距離にある点の軌跡である. さて三面角 O-ABC の稜角 OA, OB の二等分面は平行でないから, 其の交りを OD' とすれば OD' 上の点は皆この三面角の三つの面 OAB, OAC, OBC の何れからも等距離にある. 故に稜角 OC の二等分面も亦 OD' を含む可きである.

問題 4. 三面角の面角の二等分線を含んで此の面に垂直な三つの平面は同一の直線で相交わることを証明せよ.

註:三面角 O-ABC に於て OA = OB = OC なるような截り口の三角形 ABC を作り, 各面角の二等分線が此の三角形の各辺と交わる点を夫々 L, M, N とすれば, 此の三点は三角形 ABC の三辺 BC, CA, AB の中点となる. そして AC ⊥ 平面 OLD ∴ AC ⊥ LD. 他の二つの面に就ても同様であるから, 此の三平面は截り口の三角形の外心で交わる.

問題 5. 三面角 O -ABC の二面角 OA が直角なるときは OB, 又は OC に垂直なる平面で三つの平面を截るときは其の截り口は直角三角形である.
註:今 OB に垂直な平面が OA, OB, OC と交わる点を夫々 A, B, C とすれば
OB ⊥ 平面 ABC (仮設).
∴ 平面 OAB ⊥ 平面 ABC.
又 平面 OBA ⊥ 平面 OAC (仮設).
∴ AC ⊥ AB.
故に △ABC は ∠A が直角なる直角三角形である.

3. 多面角の定理

次に一般多角面の各面角の間には如何なる関係があるかということに就ての重要なる定理の研究に移ろう.

実験 厚紙の中央に一点 O を取り, O から若干の半直線 OA, OB, OC, OD, …… を引き, 次図のように ∠AOF の部分を截り抜き, OB, OC等に折目をつけて OA と OF との線を一致せしめて糊づけにして多面角の模型を作れ.

上の図からは多面角 O-ABCDE が得られ ∠AOF の部分を截り抜いたことに注意すれば次の定理を予想することが出来る.

定理 凸多面角のすべての面角の和は四直角よりも小である.
証明:五面角に就て証明するが幾面角の場合でも同様で, 題意は図に於て不等式
∠AOB + ∠BOC + ∠COD + ∠DOE + ∠EOA < 4∠R
が成り立つというのである.

今截面 ABCDE を作ると之は凸多角形である. この截面内に任意の一点 O' を取ると O' を共通の頂点とし截面の辺を底辺とする三角形が得られ, その数は O を共通の頂点とし, 截面の辺を底辺とする三角形の数に等しい.

然るに三面角の定理によって

∠OBA + ∠OBC > ∠ABC = ∠ABO'+∠CBO'
∠OCB + ∠OCD > ∠BCD = ∠BCO'+∠DCO'
∠ODC + ∠ODE > ∠CDE = ∠CDO'+∠EDO'
∠OED + ∠OEA > ∠AED = ∠DEO'+∠AEO'
∠OAE + ∠OAB > ∠EAB = ∠EAO'+∠BAO'

故に O を頂点とする総ての三角形の底角の和は, O' を頂点とする総ての三角形の底角の和よりも大である. 所が此の両種の三角形の個数は相等しい.
∴ ∠AOB + ∠BOC + ∠COD + ∠DOE + ∠EOA < 4∠R. ▪️

問題 6. 正三角形のみを面に持つ多面角は三種類よりは多くはないことを証明せよ.
註:多面角は三つ以上の面を有し, 其の面角の和は 4 直角よりも小である. そして正三角形の一角は  \frac{2}{3}∠R であることより, 三面角, 四角面, 五角面の三種類よりは多くないことを証明せよ.

問題 7. 四面角を一つの平面で截りその截り口を平行四辺形ならしめよ.

註:平面 OAB, OCD の交りを OX, 平面 OBC, OAD の交りを OY とすると
OX ‖ AB
OY ‖ BC
故に OX と OY との定める平面 P と AB と BC との定める平面即ち求める平面とは平行である.