ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (150)

(143)(144)(145)(146)(147) の続き。



正射影と二面角

1. 正射影

平面幾何学に於ける一つの点又は一つの線分が他の一直線上に投ずる正射影なるものの定義と同じように
定義 平面外の一点から之へ引いた垂線の足を, 此の点が此の「平面に投ずる正射影」という.

一般に図形上のすべての点から一つの平面上に引いた垂線の足の軌跡を此の図形が此の平面上に投ずる正射影という. そして此の平面を「投影面」という.

上図に於て点 A' は点 A が平面 P 上に投ずる正射影で, 曲線 B'C' 及び線分 D'OE' は夫々曲線 BC 及び平面 P に交わる線分 DOE の平面 P 上に投ずる正射影である.

正射影に関する次の定理は重要である.

定理 平面に垂直でない直線がその平面上に投ずる正射影は此の直線上の任意の二点がその平面上に投ずる正射影を結ぶ直線である.
略証:紙面の都合上図解は省略するが, 平面 P に垂直でない直線 AB 上の任意の二点 A, B が P 上に投ずる正射影を夫々 A', B' とすれば直線 A'B' は AB が P 上に投ずる正射影であるというのが題意である.

題意により AA' ⊥ P, BB' ⊥ P ∴ AA' ‖ BB'. 依って AA' と BB' とは一平面を定める. この平面を R とすれば AB と A'B' とは共に R 上にあるから AB 上の任意の一点 C を通り R 上に於て AA' ‖ BB' ‖ CC' とすれば, CC' は必ず A'B' と C' に於て交わる. そして題意より CC' ⊥ P となる. 故に C' は C の P 上に投ずる正射影であって A'B' 上にある.

逆に又 A'B' 上の任意の点 D' が AB 上の点 D の P に投ずる正射影となり得ることの証明も容易である.

依って直線 A'B' は直線 AB が平面 P 上に投ずる正射影である. ▪️

定理 一平面の斜線がその足を通りその平面上に引いた総ての直線となす角の中でその正射影となす鋭角が最小である.

証明:AB を平面 P と A で交わる斜線, AC を AB の P 上に投ずる正射影, AD を A を通る P 上の任意の直線とすれば ∠ BAD > BAC であることを証明すればよい.

AB 上の任意の一点 B の P 上に投ずる正射影を B' とし AD = AB' とすれば △ABD と △ ABB' に於て

AB = AB
AD = AB'
BD > BB'

∴ ∠ BAD > BAB'
即ち証明された. ▪️

定義 一平面の斜線と, 斜線がその平面上に投ずる正射影とのなす鋭角をその「斜線と平面とのなす角」という.

問題 1. 一平面の斜線の足から平面上に引いた総ての半直線の中で
(1) 斜線の正射影と等角をなすものは斜線とも等角をなす.
(2) 斜線の正射影と大なる角をなすものが斜線とも亦大なる角をなす.
註:平面 P 外の一点 A から此の平面への垂線を AA', 斜線を AO とし
(1) 足 O を通り此の平面上で斜線の正射影 OA' と等角をなす半直線を OK, OL とし OK = OL, LA', KA' を結んで考えればよい.
(2) (1) の場合と同様に考えよ.

問題 2. 角の二辺が何れも投影面と交わる場合には, この角とその正射影とは何れが大であるか.

註:平面 P 外の一点 A から二つの斜線 AB, AC と垂線 AH とがあるとき, ∠BAC と ∠BHC の大小を述べればよい. A から BC へ垂線を引けば HD ⊥ BC である. (何故か.)

△ABC を BC を軸として回転し, 之を P 上に倒せば A は DH の延長上の点 A' となる.

依って ∠BHC と ∠A' との大小を比較すればよい.

(1) D が BC 間にあるとき即ち △ABC の二角 B, C が共に鋭角なるときは ∠BHC > ∠BAC.
(2) D が BC の延長上にあるとき
(i) H が △A'BC の外接円周上にあるとき
∠ BAC = ∠BHC.
(ii) H が△A'BC の外接円周内にあるとき
∠ BAC < ∠BHC.
(iii) H が△A'BC の外接円周外にあるとき
∠ BAC > ∠BHC.

問題 3. 平行な二直線が同一の平面となす角は相等しい.
註:二直線 AB, CD が同一の平面 P と A, C に於て交わるものとし B 及び D より P に垂線 BB', DD' を引いて考えよ.

2. 二面角

これから相交わる二平面についての性質を研究しよう.

偖て平面幾何学に於て一点で相交わる二つの半直線があるとき, 此の二直線は「角をなす」, 或は「角を夾む」と呼んだのであるが之と同様に
定義 二つの半平面が, 半平面の境界をなす直線を共有せるときは, 此の二つの半平面は「二面角をなす」という. そしてその直線を「二面角の稜」, その半平面を「二面角の面」という.

図に於て直線 XY は稜で, 之を境界とする二つの半平面 P, Q が何れも面である.

そして之を書き表わすには稜上の二点の名を中央に夾んで両端に二つの面上の各一点の名を記して「二面角 AXYB」と書き表す. 又時としては更に略して「二面角 XY」或は又「二面角 (P, Q)」と書き表すこともある.

然らば此の二面角の大きさを測るにはどうするのが便利であるかという問題である.

言う迄もなく二面角 (P, Q) の大きさとは一つの面 Q が他の面 P の位置から稜 XY を軸として Q の位置迄回転するときの回転の大きさのことである.

今稜 XY 上に任意の二点 O, O' をとり O に於て XY に垂直な直線 OA, OB を夫々 P, Q 上に引き, 又 O' に於て同様に O'A', O'B' を引くとき
OA ‖ O'A', OB ‖ O'B'
であるから
∠AOB = ∠A'O'B'.

即ちこの角はその頂点の位置に拘らず一定である. 此の角を「二面角の平面角」という. 故に図からわかるように例えば二面角の平面角の大きさが 30° であるとすればその回転の分量は相等しいから二面角の大きさも亦 30° である. このような工合で二つの二面角が相等しいことを証明するにはその一定なる平面角の相等しいことを証明すればよい.

又「対稜二面角」, 「同位二面角」, 「錯二面角」等の定義は平面幾何学に於ける, 対頂角, 同位角, 錯角等と同様の意味に用いるとすれば次の事項の成立することは明らかである.

定理 
(1) 対稜二面角は相等しい.
(2) 平行なる二つの平面に一つの平面が交わるときは, 錯二面角は相等しい又同位二面角も相等しい.

問題 4. 二面角の稜に垂直な平面でその二面を截るときはその交りのなす角は二面角の平面角である.
註:二面角 (P, Q) の稜 XY 上の一点 O に於て XY に垂直な平面 R でこの二面角を截り, R と P, Q との交りを夫々 AO, BO とすれば
XY ⊥ OA, XY ⊥ OB
故に ∠AOB はこの二面角の平面角である.

問題 5. 二面角の平面角の二等分線と稜との定める平面はこの二面角を二等分する.
註:二面角 (P, Q) の平面角 AOB の二等分線を OC とし, OC と稜 XY との定める平面を R とすれば XY⊥平面 AOB
∴ XY ⊥ OC.

3. 垂直なる平面

例えば室内で天井の平面と之に隣れる壁の平面, 床の面と之に隣れる壁の面のように
定義 二つの平面が交わってなす二面角が直角であるときは, 二つの平面は直交する或は互に垂直であるといい, そうでないときには, 斜交する, 或は互いに斜めであるという.

(1) 垂直を含む平面の性質

図に於て CD⊥Q, P は CD を含む任意の平面とすれば, 平面 P, Q の交線 AB は D を通る. 今 Q 上に D を通り AB に垂線 DE を引くときは CD は Q に垂直であるから
∠CDE = ∠R
そして ∠CDE は二面角 (P, Q) の大きさを表わす平面角である.
∴ P ⊥ Q.
定理 一平面 (Q) の垂線 (CD) を含む任意の平面 (P) は始めの平面に垂直である.

これによって一平面の垂線を含んでその平面に垂直な平面が無数に作れることになる.

(2) 垂直平面の性質

二平面 Q, R は共に平面 P に垂直でその三平面の交線を夫々 BC, BD, BA とすれば次のような諸性質がある.

(i) Q上の任意の一点 M より BC に垂線 MN を引き, P 上に於て BC に垂線 NE を引けば ∠MNE は二面角 (P, Q) の平面角であるから
∠MNE = ∠R.
故に MN は相交わる二直線 BC, NE の双方に垂直となり, 平面 P に垂直となる.

定理 一平面 (Q) が他の平面 (P) に垂直であるとき, 初めの平面 (Q) 上にあってその交線 (BC) に垂直なる直線 (MN) は後の平面 (P) に垂直である.

(ii) 又上図で Q 上の一点 M から P に垂線 MN' を引き, M より BC に垂線 MN を引けば (i) により MN ⊥ P.

然して平面外の一点からその平面に垂直なる直線は唯一であるから MN と MN' とは一致すべきである.

定理 二つの平面が互に垂直であるときは, 第一の平面上の一点を通って第二の平面に垂直である直線は全く第一の平面上にある.

(iii) 次に Q, R の交線 AB 上の任意の点 A より P に垂線を引けばその垂線は (ii) によって Q 及び R に含まれるから AB に一致すべきである.

定理 相交わる二平面が共に第三の平面に垂直であるときは, その交線は此の平面に垂直である.

問題 6. 三つの平面が相交わって二つづつ互に垂直なるときは, その三つの交りは如何なる角をなすか.
註:題意に適する三平面を P, Q, R とし P と Q, P と R, Q と R との交りを夫々 OA, OB, OC とすれば OC ⊥ OA, OC ⊥ OB 他も同様である.

問題 7. P は定平面であって, OA, OB は定点 O を通り, P に平行な二直線である. O を通り OA, OB に垂直な二平面の交りは P に垂直である.
註:O を通り OA, OB に垂直な平面を夫々 Q, R とし, Q, R の交りを a とすれば
a ⊥ OA, a ⊥ OB.

従って a は OA, OB の定める平面に垂直である. 次に OA, OB の定める平面と P との関係を考えよ.

問題 8. 円の直径 AB の一端 A を通り円の平面に垂線を引き, その上の任意の一点を M, 円周上の任意の一点を C とすれば平面 MAC と平面 MBC とは互に垂直である.

註:AB は円の直径であるから ∠ ACB = ∠R.
∴ AC ⊥ BC.
又題意によって
MA ⊥ 平面 ABC.
故に三垂線の定理によって
MC ⊥ BC.
故に BC は AC, MC の双方に垂直であるその定める平面に垂直である.
∴ 平面 MBC ⊥ 平面 MAC.

問題 9. 二面角 BOAC は直角で, 直線 OB は平面 ABC に垂直とすれば直線 AC と平面 OAB は垂直である.

註:OB ⊥ 平面ABC であるから OB を含む平面 OAB は平面 ABC に垂直である. 又題意によって平面 OAB と平面 OAC は垂直であるから二平面 OAC とABC との交線 AC は平面 OAB に垂直となる.