(143)(144)(145)(146) の続き.
平行平面に関する定理
諸君は既に, 二つの平面が双方に何程延長するも出会わないときにはこの二平面は平行であるということ及び空間に於ける二平面の位置の関係は
[l] 平行なる場合
[ll] 相交わる場合
の何れかであることを学んでいる. 次に平行平面に関する重要な定理並びにその応用に就ての研究を試みよう.
I. 平行平面に関する性質 (一)
二平面 P, Q が平行なるとき
[I] 平面 P に交わる直線と平面 Q との関係はどうなるか.
P に交わる直線を AB とし, その P との交点を C とすれば AB は平面 Q 外の一点 C を通るから明らかに Q 上の直線ではない. AB が Q 上の直線だとすれば P 上の一点 C が Q 上にあることになり二平面 P, Q が平行なることの仮設に反するからである.
故に AB は Q に交わるか, 或は平行であるかの何れかである.今仮りに AB が Q に平行であるとすれば、AB に平行な直線 EF を Q 上に引き得る. 然るに Q ‖ P.
∴ EF ‖ P である.
依って P 上の一点 C を通り EF に平行な直線 AB は P に含まれることになり AB が P に交わるという仮設に反する. 故に AB は Q に交わる.
即ち次の定理が成立つ.
定理 平行な二つの平面の一つに交わる直線は他にも交わる.
[II] 平面 P に交わる平面 R と平面 Q との関係はどうであるか.
平面 P に交わる平面を R とし, その交線を AB とする. AB 上の一点 E を通り, R 上に AB と交わる任意の直線 EF を引けば, EF は平行平面 P, Q の一つ P と交わるから上の定理によって Q にも交わる. その交点を F とすれば F は両平面 Q, R 上にある. 依って R と Q とは F を通る一直線 CD で交わる.
次に AB と CD とは同一平面 R 上にあって, 且つ夫々平行平面 P, Q 上にあるから決して出会わない. 故に
定理 平行な二平面の一つに交わる平面は他の平面にも交わる. そしてその交線は平行である.
平面幾何学に於て学んだ定理
『平行直線の一つに交わる直線は又他方にも交わる』
は空間の場合に於ては一般には成立しない. 然し之と対応する定理が上に述べた二つの定理と見ることが出来る. このように平面幾何学に於ける二直線の平行に関する定理に対応して立体幾何学に於ては二平面の平行に関する類似な定理の成立つことは立体幾何学習上注意して興味あることである. 例えば平面幾何学に於ける平行線の公理
『一直線外の一点を通ってその直線に平行な直線は唯一つしかない』に対応して立体幾何学に於ては
定理 平面外の一点を通って之に平行な平面は唯一つしかない.
今平面 P 外の一点 A を通って之に平行な平面が Q, R の二つあると仮定すればさきに述べた定理に不合理が生ずる. 故に Q, R の何れかは P に交わらなければならない. 即ち平面外の一点を通ってそれに平行な平面は一つ存在することになる. その作図は後に述べることにしよう.
又平面幾何学に於ける平行線に関する定理『同一の直線に平行な二直線は互に平行である.』に対しては
定理 同一平面に平行な二平面は互に平行である.
が相類似して居る. 即ち三つの平面 P, Q, R があって P ‖ Q, P ‖ R ならば Q ‖ R というのである.
若し仮に Q と R が平行でなく, 従って相交わるとすれば定理によって R は P にも交り仮設に反する結果を来すからである.
問題 1. 平行二平面が他の平行な二平面に交わればその四交線は互いに平行である.
問題 2. 平行二平面の間に截り取られる二つの平行線分は等長である.
註:図に於て二線分 AB, CD は平行であるから一平面を定める. そして此の平面が P, Q となす交線は定理によって平行である. 故に四辺 ABCD は平行四辺形である.
本問は平面幾何学に於ける
『二つの平行直線が二つの平行な直線によって截り取られる部分は相等しい.』という性質の拡張と見ることが出来る.
問題 3. 相交わる平面 P, Q に夫々平行な二平面を P', Q' とすれば
(1) P' は Q' に交わる.
(2) P' と Q' の交線は P, Q の交線に平行である.
註:Q' は Q に平行で P は Q に交わるから 又 Q' にも交わる. つぎに P と P' は平行で Q' は P に交わるから又 P' にも交わる.
今 P, Q の交線を AB, P, Q' の交線を CD, P', Q' の交線を A'B' とすれば
AB ‖ CD, CD ‖ A'B' ∴ AB ‖ A'B'
lI. 平行平面に関する性質 (二)
平行平面に関しては又次のような重要な定理がある.
定理 一つの平面上の相交わる二直線が他の平面上の相交わる二直線に夫々平行なるときは, この二平面は平行である.
証明:題意は AB, CD を平面 P 上の相交わる二直線 A'B', C'D' を P と異なる平面 Q 上の相交わる二直線とし,
AB ‖ A'B', CD ‖ C'D'
なるときは P は Q に平行であるというのである.
若し此の二平面が平行でなく, 交わるとしてその交線を MM' とすれば
『二つの直線が平行なるとき, その各を含み他を含まない二平面の交わりは二直線の各に平行である』によって
MM' ‖ AB, MM' ‖ A'B'
又
MM' ‖ CD, MM' ‖ C'D'
∴
AB ‖ CD, A'B' ‖ C'D'
これは仮設に反する. 故に平面 P と平面 Q とは平行である. ▪️
又上の定理から次の事項も真である.
系 相交わる二直線 AB, CD の各が一平面 (Q) に平行なるときは, その二直線が定める平面 (P) は前の平面 (Q) に平行である.
註:Q 上の任意の一点 K を通り夫々 AB, CD に平行な二直線 A'B', C'D' を引けば此の二直線は何れも Q 上にある. 故に前定理と全く同題に帰することを考えよ.
次に平面幾何学に於ける定理
『二つの直線が三つ以上の平行直線と交わればこれ等の直線によって截り取られる線分は比例をなす.』
に類似の定理を述べよう. それは次の通りである.
定理 二つの直線が三つ以上の平行な平面と交われば, これ等の平面によって截り取られる線分は比例をなす.
証明:例えば三つの平行平面 P, Q, R を任意の二直線 XY, X'Y' で貫いた場合の交点を夫々 A, B, C; A', B', C' とすれば
AB : A'B' = BC : B'C'
であるというのが題意である.
A', C を結び付ける線分が平面 Q と交わる点を D とすれば, △ACA' の平面で平行平面 P, Q を截ったものと考えて
BD ‖ AA'
之と同様に △A'CC' の平面で平行平面 Q, R を截ったものと考えて
DB' ‖ CC'
故に
AB : BC = A'D : CD (1)
A'D : DC = A'B' : B'C' (2)
依って (1) と (2) より
AB : BC = A'B' : B'C'
AB : A'B' = BC : B'C' ▪️
問題 4. 同一平面上にない二直線 AB, CD がある. AB を含み CD に平行な平面を P, CD を含み AB に平行な平面を Q とするときは, P と Q とは平行である.
略解:(1) P と Q とは全く一致することはない. 一致するとすれば AB と CD が同一平面上にあることになって仮定に反するからである.
(2) 今 P と Q が相交わると仮定し, その交線を EF とすれば AB, CD 中の何かは EF に交わる. 若し双方共に交わらないとすれば
AB ‖ EF, CD ‖ EF
故に AB ‖ CD となって仮定に反するからである. 故に AB, CD 中の何れかは P 又は Q に交わることになって仮定に反する. 故に P ‖ Q.
問題 5. 一平面 P 外の点 M を通って P に平行な平面を作れ.
略解:P 平面上に於て相交わる二直線 AB, CD を引き, M と AB, M と CD の定める平面内に於て, M を通り夫々 AB, CD に平行なる直線 A'B', C'D' を引き A'B' と C'D' の定める平面 Q を作れば, Q は求めるものである. 又 M を通って P に平行な平面が唯一つしかないことは先に述べた問題によって明らかである.
問題 6. 一つの直線とこれに平行な一つの平面とが与えられたとき, その直線を含みこの平面に平行な平面を作れ.
略解:一直線を AB, これに平行な平面を P とせよ. P 上に AB と平行でない任意の一直線 CD を引き, AB 上の任意の一点を通り CD に平行な直線 C'D' を引けば AB と CD' の定める平面が求めるものである.
問題 7. 一平面 P 外の一定点 M を通り, P に平行に引いた直線は皆同一の平面上にある.
略解:M を通り P に平行な直線を MA, MB, MC, MD …… とせよ. MA と MB の定める平面を Q, MA と MC の定める平面を R とすれば、Q, R は共に P に平行である. 然るに平面外の一点を通ってその平面に平行な平面は唯一つしかないから Q と R は一致する. 即ち MC は P 上にある. 他も同様である.
問題 8. 平行なる二平面間に夾まれる線分の中点の軌跡を求めよ.
略解:与えられた平行二平面を P, Q とし, 此の各の上に両端 A, B を有する任意の線分 AB の中点を M とする.
次に M を通り平行二平面 P, Q に平行なる他の平面 R を作れば平面 R が求める軌跡である.
何となれば P, Q 上に両端を有する他の任意の線分 A'B' と平面 R との交点を M' とすれば定理によって
AM : MB = A'M' : M'B'
故に M が AB の中点であれば M' は A'B' の中点である. ところが A'B' の中点は一つしかないから P, Q 上に両端を有する任意の線分の中点は平面 R 上にある.
次に此の平面 R 上に任意の一点 M" を取り, M" を通って P, Q に終わる線分 A"B" を引けば,
AM : MB = A"M" : M"B" = 1
故に M" は A"B" の中点となる. 即ち平面 R 上の任意の点は条件に適する.
問題 9. 与えられた二つの平行平面の上に両端を有する線分を定比に分ける点の軌跡を求めよ.
註:前問の一般なる場合である. 証明は前問と全く同様であるから各自に試みよ.
問題 10. 二直線が平行な二平面 P, Q に交って截り取られる二つの線分 AB, CD の中点を連結する直線はその二平面に平行である.
註: 問題 8 に倣って考えよ.