ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (96)

花が少なくなったし、塾の方も定期試験対策や受験シーズン到来で忙しくなったので、久しぶりに高校数学でも書こうと思う。高校 2 年生は、数列や三角関数、指数・対数なんかが定期試験範囲である。漸化式を教えて欲しいと言われたので、感覚を取り戻すために、

 \left \{ 
\begin{array}{l}
a_{n+2}=4a_{n+1}-3a_{n}-2\\
a_1=1, \ a_2=4
\end{array}
\right.

を解いてみた。

えーと、線形常微分方程式のように、解の重ね合わせの原理、つまり線形性が成立するので、斉次式の一般解と非斉次式の特殊解を別々に求めて、両者を加えると (非斉次式の) 解であるから、その作業をやればよかったはずである。高校で漸化式の計算をするときに、すでにこの線形性を考えるという重要な見方に出会っていたのだなと初めて気がついた。これを高校生にどう説明すればわかってもらえるのか。

まず、斉次式の方は、

 a_{n+2}=4a_{n+1}-3a_{n}

 r^{n-1} を代入すると、結局二次方程式、

 r^2 - 4r + 3 = 0

を解けば良いから  r =1,3 で、重解ではない。すると斉次方程式の一般解 u_n は線形性から、

 u_n = C_1\cdot3^{n-1}+C_2

である。 C_1, C_2 は最後に初期条件から決める。*1


非斉次式

 a_{n+2}=4a_{n+1}-3a_{n}-2

の特殊解はともかく見つかりさえすればよいのだが、この場合は、教科書に書いてあるような定数で成り立つ特殊解があることを仮定して「特性方程式」という大仰な名称がついているものをつくっても無駄だというのは直ぐにわかるだろう (斉次式の一般解に任意定数がすでに現れている)。それで  p を未知の定数として、  pn を代入してみる。

 p(n+2)=4p(n+1)-3pn-2

これは  n についての恒等式だから、

 2p=4p-2

から  p=1 である。したがって特殊解  s_n として、 s_n= n が見つかった。

以上から、数列の線形性により、

 a_n \\
= u_n + s_n\\
= C_1\cdot3^{n-1}+C_2 + n

となり、個別解をえるには、初期条件を入れて、

 \left \{ 
\begin{array}{l}
C_1 + C_2  + 1 = 1\\
3C_1+C_2+2 =4
\end{array}
\right.

を解いて

 C_1 =1, \ C_2= -1

と決定し、

 a_n = 3^{n-1}-1 + n

とすれば、 n \gt 0 の自然数で成立する。

以上は基本にすぎないが、それでは斉次方程式で重解が出たらどうするのか *2とか、特殊解はどういう方略を使えばうまく見つかる蓋然性が高まるのか、特定の方法はどういうときに上手くいかなくなるのか、いつも特殊解が見つかる万能の方法はあるのかといったことが、線形漸化式を解く際のニュアンスとなる。全部はここには書けないが、もう一問やるとかなり見えてくるのではないだろうか。

 \left \{ 
\begin{array}{l}
a_{n+2}=2a_{n+1}-a_{n}+1\\
a_1=1, \ a_2=2
\end{array}
\right.

まず、斉次式の方は、

 a_{n+2}=2a_{n+1}-a_{n}

 r^{n-1} を代入して二次方程式、

 r^2 - 2r + 1= 0

を解くと  r =1 で重解をえる。すると斉次方程式の一般解 u_n

 u_n = C_1+C_2n

である。

非斉次式

 a_{n+2}=2a_{n+1}-a_{n}+1

の特殊解は、もう見えてきたと思うが、 p を未知の定数として、  pn^2 を代入してみる。

 p(n+2)^2=2p(n+1)^2-pn^2+1

これは  n についての恒等式だから、

 4p=2p+1

から  p=\frac{1}{2} である。したがって特殊解  s_n として、

 s_n= \frac{1}{2}n^2

が見つかった。

以上から、数列の線形性により、

 a_n \\
= u_n + s_n\\
= C_1 +C_2 n + \frac{1}{2}n^2

となり、個別解をえるには、初期条件を入れて、

 \left \{ 
\begin{array}{l}
C_1 + C_2  + \frac{1}{2} = 1\\
C_1+2C_2+2 =2
\end{array}
\right.

を解いて

 C_1 =1, \ C_2= -\frac{1}{2}

と決定し、

 a_n = 1-\frac{1}{2}n + \frac{1}{2}n^2

とすれば、 n \gt 0 の自然数で成立する。

ついでに書いておくと、数列のところで数学的帰納法を勉強するなあ。たとえば実数の開区間 (1, 2) を考えて見ると、この区間は、最大値も最小値も存在しない。ところが、「自然数の (有限であれ可算無限であれ) 任意の空でない部分集合は、必ず最小値をもつ」 というのは、公理として、いつも忘れてはいけない偉大な原理である。空集合だけが例外なのは、もし空集合に最小値をもったら、空集合でなくなってしまうからである。

それで、自然数 n を用いた命題  P(n) が、数学的帰納法、すなわち

(1)  P(1) が成立する。
(2) 任意の  n について  P(n) が成立するならば、 P(n+1) で成立する

ならば、すべての  n  P(n) が成立することを、数学的帰納法を使わずに証明しておこう。

【証明】

上記の (1), (2) が成立するにもかかわらず、 命題  P(n) を真にしないある自然数  n' が存在するとする。そして、そのような自然数  n' をすべて集めて部分集合  USO を作る。 つまり、

 USO = \{n'| P(n')\ is \ not\ true.\}

である。すると、自然数の集合  USO n' が存在すると仮定したのだから、空集合ではない。すると先程の話から集合  USO には、必ず最小値がある。その最小値を  m としよう。 (1) が成り立っているので、

 m \neq 1

で、 m \geq 2 なので、

 m = k + 1

となる自然数   k \lt m が存在する。  m USO の最小値であったので、 k \notin USO である。ということは、 P(k) は真である。

(2) の条件から P(k) が成立するならば、 P(k+1) = P(m) でも成立するので、 P(m) は真である。「  P(m) は偽かつ真である」ことを「 P(m) は矛盾している」という。この矛盾は、(1), (2) を満たしながら  P(n') が偽になるものが存在すると仮定したためである。矛盾をおこさないためには、この仮定を否定する必要がある。つまり、(1), (2) を満たすならば、すべての 自然数  n P(n) は真である。//

*1:大学初学年で習う線形代数を知っていればもう少し厳密に述べることができる。漸化式を満たすすべての数列を要素とする集合を考えると、この集合は実数上のベクトル空間 ( W としておく) になることが証明は省略するがすぐにわかる。いま、  f(a_1, a_2,\cdots) = (a_1, a_2) を考えると、 f: W \rightarrow R^2 は線形写像であり、しかも全射であることは漸化式が与えられていることから明らかである。さらに a_1=a_2=0 を満たす数列は項がすべて 0 の零数列しかないことがわかるので単射でもある。したがって数列を要素とするベクトル空間  W R^2 と同型なので  W の次元は  2 である。 3^{n-1},\ 1 が基底であることは一次独立であることを証明すればよいが、  C_1\cdot3^{n-1}+C_2 = 0 ならば C_1=C_2=0 であることは明らかである。

*2:この段階では微分を習っていないが、  x^2 + px + q = (x - \alpha)^2 から  x^{n+2}+ px^{n+1}+ qx^n= (x - \alpha)^2x^n で、両辺を x で微分し、 x = \alpha を代入すれば、  (n+2)\alpha^{n+1}+ p(n+1)\alpha^{n}+ qn\alpha^{n-1}= 0 なので、 n\alpha^{n-1} も漸化式を満たす。したがって重解のとき、斉次式の一般解は、 C_1\alpha^{n-1} + C_2n\alpha^{n-1}となる。