ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

陥没地帯 (71)

以前、港町についてつらつら考えたことがあって記事にも書いたことがあるが、『スパイの妻』(2020) は神戸が舞台で、そのことは前作がウズベキスタンであったのと同じくらい、この作品の内容と関係しているなあと思っている。


カラスウリ。寺田寅彦が昭和七年 (1932 年) に書いた『からすうりの花と蛾』を読んだ。寅彦は 1935 年に 57 歳で亡くなったから、その 3 年前の文章である。青空文庫で読める。キカラスウリの花は撮ったけれどカラスウリの花はとうとう撮れなかった。縁側から見られるなんて羨ましい*1。寅彦は近い将来、「敵国の飛行機が夏の夕暮れにからすうりの花に集まる蛾のように一時に飛んで来る日があるかもしれない」と書いている。

ある日の暮れ方、時計を手にして花の咲くのを待っていた。縁側で新聞が読めるか読めないかというくらいの明るさの時刻が開花時で、開き始めから開き終わりまでの時間の長さは五分と十分の間にある。つまり、十分前には一つも開いていなかったのが十分後にはことごとく満開しているのである。実に驚くべき現象である。

シロノセンダングサ。

*1:当時の寺田寅彦の自宅は文京区本駒込にあったはずである。寺田は、自宅の庭に花を咲かせる植物は九十余種あると書いている。また帝展の絵に現われる花の種類がそれよりもずっと少なそうで、(寺田からみると) 花らしい花の絵が少ないことを指摘している。実際に引用するとこうある。「しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的 (なるべく) 見ないことにして、あらゆる素人 (しろうと) よりもいっそう皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべくわかりにくい形に表現することによって、何かしらたいしたものがそこにありそうに見せようとしている、のではないかと疑われてもしかたのないような仕事をしているのである。」『ジャン・ルノワール自伝』にある父オーギュストが息子ジャンに語った言葉を思い出した。