トコナツ (常夏)。中国から伝わった石竹 (唐撫子) が江戸後期に品種改良されたものがトコナツ(常夏)であるが、現在見る「トコナツナデシコ」が江戸後期に品種改良されたものと同じかどうかはわからない。ともかく写真の開花期間の長い花は一般的にトコナツと呼ばれている。
ややこしいのは特定の品種名である「トコナツ」とは別に、源氏物語の第二十六帖「常夏」の源氏の有名な歌、
撫子の とこなつかしき 色を見ば
もとのかきねを 人やたづねん
があるように「常夏」は、撫子の別名としても昔から用いられているということである。ここでは玉鬘 (たまかずら) の母親である夕顔 (父親は頭中将) が「常夏」の呼び名で喩えられ、娘の玉鬘は「撫子」で喩えられている。「なでしこ」の「こ」には子供の「こ」が掛けられるし、「とこなつ」には上の歌にあるように「懐かし」や「床」に掛けられるためで、源氏物語の範囲ではこの使い分けは一貫している。
※ 歌の意味は、「母である夕顔似の玉鬘の昔懐かしい容色を見れば、頭中将も(夕顔の居る) 旧の垣根を尋ねたくなるであろう」ということ。
撫子の別名である「常夏」がいつ頃から使われ始めたのかはよくわからないが、源氏物語より百年ぐらい前の古今集の夏歌ではすでに使われた例が一つある。
塵をだに すゑじとぞ思ふ 咲しより
妹(いも)とわが寝る とこなつの花
歌の意味は、「咲き始めてから塵一つ付けないよう大切に思っています。妻と私が共に寝る床という音をもつ常夏の花を」だと思う。
撫子は記録に残る日本最初の園芸植物——萬葉集には撫子の種を播くという歌がある——であり、歴史が長いだけに調べると面白いことがたくさん見つかると思う。もちろん、日本だけでなく世界的に見てもそうであろう。
ハナミズキの花が終わったなあと思ったらヤマボウシの花の盛りである。この近所の街路樹はハナミズキが多いがヤマボウシもある。この時期に葉が茂って咲くのと萼の先がピンと尖っているのが美しくハナミズキとはすぐに見分けられる。前にも書いたけれど、ハナミズキはもともとアメリカ原産で日本がサクラを米国に贈った返礼としてもたらされたものであるが、ヤマボウシはもともと日本に自生している種である。ヤマボウシにも園芸種があって「薄紅色」の花のものもあるし、おまけに実は食べられるし、見るだけでもハナミズキの実とは違って味わいがある。
ブラシノキの咲き始めのところをじっと見た。
バクヤギクだと思う。葉はマツバギクを巨大にしたような感じ。家の人が名前はわからないけれど三年目で初めて花をつけたといわれていた。夕方になると花が閉じるともいわれていたが、バクヤギクはそういう性質をもっている。原産は南アフリカである。