ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

bio + topos

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座間市の栗原遊水地周辺を散歩した。この遊水地は下流で相模川に注ぎ込む目久尻川が氾濫する怖れがあるときのために人工的に造られた三つの調節池だが、そのうちのひとつは、いわゆるビオトープ (biotop, bio と topos の合成語) として、普段も水をたたえつつ生きものたちの生息に配慮されており、人間も護岸の傾斜を降りて水辺へ近づくことが許されている。そこには釣りをしている人の姿も見うけられる (写真)。

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前に、唐木順三が同じ町内に住んでいたと書いたが、唐木は随筆集の題名になっている「朴の木」について昭和三十二年にこう書いている。

ここには朴の木が多い。あの木も私はすきである。すくすくと素直に延びてゆくのがすきである。筆の穂先のような芽がほころびるときが美しい。花はもろい。葉の落ちたあとに大きな蒴果 (さっか) が残る。堅固な網にかこまれた中に小粒の赤い実が美しい。この赤い実をとりにヒヨドリが群れてくる。私の家の周囲にこの朴の木が六本ある。

戦時中、自分で「天地根元造り」の家を建て、それに臼井吉見が「朴雨亭」と名付けたとも書いているのだから、朴の木は唐木にとって特別なものだったに違いないと思われるが、わずか 60 年あまり前のトポスとしての記憶すら喪ってしまった現在に朴の木が残されているはずもない。五月〜六月には、昔小学校の校庭にあって毎年花をつけるのを見ていた泰山木——北米原産の常緑樹で英語名は southern magnolia 。米国南部のミシシッピ州とルイジアナ州の州花である——に似た大きな白い花を咲かせるこの落葉樹を、それまでにどこか近くで見つけないといけないと考えている。


Southern Magnolias



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※ イチリンソウ (一輪草)