ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

母音図

言語によって母音をいくつ区別するかは、本来連続スペクトルである虹の色を 3 色に分けるか、7 色に分けるかのようなものである。ベトナム語では、日本語の「え」に相当する母音として /e/ と /ɛ/ を区別し、「お」に相当する母音として /o/ と /ɔ/ を弁別する。この母音の発音の区別はそれほど難しいものではなく、かなり直感的な区別ができるということを主張するのが、この記事の目的である。

母音図にあまり慣れていない人のために少し解説しておく。まず、舌を自然に下顎に載せた状態にすると、舌先は下の歯の裏側あたりにくるのがわかる (舌先の位置は常にこのあたりをキープしておく)。その状態で日本語で「い」と「う」を明瞭に何度も何度も繰り返しゝ発音してみる。それで「い」のときには唇が横に拡がって、かつ舌が前に出ており、「う」のときは舌根が緊張して舌が後ろに下がり、唇が少し丸まるのがわかるはずである。このとき、母音の音質を変えるのに、二つの制御手段が使われている。一つは舌を前に出すか、後ろに引っ込めるかの前後の制御である。もう一つは唇を前に突き出して丸めるか、横に平たくするかの唇の形の制御である。

次に、「あ」を発音すると下顎が一番開くのが確認できると思う。下顎を開くというのが三つ目の母音の制御手段である。下顎を大きく開けば開くほど、舌を前に出そうが、後ろに出そうが、唇を丸めようが平たくしようが、音質の差が「い」と「う」のときのような大きな違いを生じないことがわかると思う。だから母音図は下の方が短い台形の形をしている。日本語、現代のフランス語、ベトナム語などでは、口を一番大きく開いた「あ」に類する音をもはや区別しない。つまり台形ではなく、台形の短い辺の二点がくっついて逆三角形のように知覚している。ここで大事なのは「あ」の音が喉の奥から何も邪魔されないで出ている空気の流れの感覚を掴むことである。

次に、「い」と「う」の音と「あ」の音の出方の違いを確認する。重要なのは「い」と「う」では舌が一番盛り上がって上の口蓋との間でもっとも狭まった位置から先の気流が、より高い音 (高調波) で共振しているという感覚である。舌の盛り上がった位置は、「い」よりも「う」の方がずっと奥にあり、その先の空気の通り道が長くなっているので、「い」よりも「う」の方が低い音に聞こえる。より厳密には唇の形状を揃えて確認する方がよく、そのためには /i/ の発音から唇を前につきだした /y/ (フランス語などで使われる狭前舌円唇母音) と /u/ のペアで確認するか、/u/ から円唇性を解いた /ɯ/ (ベトナム語の ư の音) で確認するとよいと思う。ついでに、唇を前につきだして円唇をつくると気道の長さが少し長くなるので、音が少し下がり、響きが増えるのが確認できると思う。

それでようやく、日本語の「え」に相当する母音、/e/ と /ɛ/ を区別し、「お」に相当する母音、/o/ と /ɔ/ を区別するのであるが、感覚的にいえば、「え」と「お」に相当する音は、「あ」に相当する音 50 %、 「い」または「う」における舌の前の部分の気道が共振する高調波 50 %のミックスである。そこから、「あ」の方の割合いを増やせば、/ɛ/ または /ɔ/ であり、「い」または「う」の音の割合いを増やせば、/e/ または /o/ なのである。説明すると難しそうだが、実際に発音してみると、この境界というのは結構デジタル的に区別されて明確に感覚できると思う。