ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

若き日のリンカーン

『若き日のリンカーン』(Young Mr. Lincoln, 1939) は、ジョン・フォード監督が『駅馬車』(1939) に続いて撮った作品で、この年のフォードはさらに『モホークの太鼓』(1939) まで演出しているのだから、この 1939 年という年は、二度目の世界大戦が始まった禍々しさとともに、フォードの「奇跡の年」として 20 世紀が驚嘆しつつ記憶にとどめているものである。なお、ヘンリー・フォンダがフォード作品に出演するのは、この「リンカーン」が最初である 。フォンダが出演しているフォード作品は、「リンカーン」を含み 七本は記憶の底からでてくるが、それ以上は出てこないので多分七本だと思う。

冒頭のポーリーン・ムーアが演じている夭折したアン・ラトレッジのシーンは何度見てもせつなく美しい。墓に語りかける存在も、たとえば『プリースト判事』(1934) のウィル・ロジャースや『黄色いリボン』(1949) のジョン・ウェインのようにフォード映画には繰り返し出現している。アルフレッド・ニューマンが作曲した「アン・ラトリッジのテーマ」は、『リバティ・バランスを射った男』(1962) でも再び使われており、その曲が流れる場面を集めてクリップしてくれている YouTube があったので、下に「リンカーン」の冒頭のシーンと一緒に掲載しておく。なお、「ディクシー」がフォンダの口琴で奏でられることはすでに書いたが、それはこの作品に二度登場する。


殺人の容疑者となったクレイ兄弟の母親である未亡人を演じ、法廷で悲痛な証言をするアリス・ブラディ (冒頭 2 番目の写真中央の女性) はこの映画が最後の出演作で、彼女はこの年、癌で亡くなってしまう。また、この映画も殺人の容疑者となったクレイ兄弟をリンカーンが弁護して無罪を勝ちとり、家族である三人の女性の元へと無事返すというフォード映画の「帰還」の主題を反復している作品である。

ヘンリー・フォンダは、ジョン・ウェインのようにフォード的身振りを運動神経として有している役者ではないが、そのフォンダをフォードは横たえることで演出しており、いつにもまして足の裏がよく見える。最近、川島雄三の『幕末太陽傳』(1957) を見直したが、高杉晋作を演じる石原裕次郎に対する演出がこんな感じであった。


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