ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

リバティ・バランスを射った男


ジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを射った男』(The Man Who Shot Liberty Valance, 1962)。

蓮實重彦の初期評論で一番好きな箇所は、この映画で白いエプロンをつけてリバティ・バランス (リー・マーヴィン) と決闘するジェームズ・スチュワートについて書いた『映像の詩学』にある次のくだりである。学生時代、これを読んで痺れてしまった。

ジョン・ウェインは、エプロン姿で拳銃を握る男のイメージをその瞬間に永遠化しようとして引き金を引いたのだ。

今回、この作品を見直してとりとめなく思ったのは、まず、ジェームズ・スチュワートが左眼の上に斜めに貼る絆創膏の位置は微妙な違いがあるとはいえ、『リオ・グランデの砦』(1950) のクロード・ジャーマン・ジュニアや『俺は善人だ』(1935) でエドワード・G・ロビンソンが貼る場所とほぼ同じである。
※ 『荒鷲の翼』(1957) のジョン・ウェインは右に貼っている。

それから、これは前から思っていることなんだけど、ヴェラ・マイルズが厨房で保安官 (アンディ・デヴァイン) の帽子を蹴飛ばすところは、メガン・ラピーノのロング・パスに匹敵する素晴らしさだと思う。ヴェラ・マイルズは『捜索者』(1956) でも、ジェフリー・ハンターが入浴している場面で脱いだ靴かなんかを蹴飛ばしていたけれど、「リバティ・バランス」のキックの方が断然素晴らしいと思う。そもそも、この「リバティ・バランス」の場面は、厨房に入って来て帽子も取らずに食事を始めた保安官の帽子をジョン・ウェインがとって床に落とし、それをバランス逮捕に及び腰の保安官の態度に腹を立てているヴェラ・マイルズが蹴飛ばし、ジェームズ・スチュワートが横たわっている場所へ正確に飛んでいくというものである。なお、作品の冒頭の列車が到着する場面では、元保安官は帽子をちゃんと脱いでスチュワートとマイルズを迎えている。

ヴェラ・マイルズは、1929 年 8 月 23 日生まれというから、90 歳の誕生日を迎えたばかりなんだなあ。二人の巨匠、アルフレッド・ヒッチコックとジョン・フォードの作品に出演したマイルズは、テレビのヒッチコック劇場でも、ヒッチコック自身が監督したシリーズ第一作目の『復讐』(1955) に出演しているし、同じ年にフォードがテレビ向けに監督した『新人王』でもジョン・ウェインと共演してジョン・ウェインに拳銃を向けている。フォード映画にマイルズが出演したのは「ウィリーが凱旋するとき」(1950) での端役が最初だと思う。

それから、フォードの映画では『新人王』ですらそうだったが、ジョン・ウェインが何かを燃やして炎をたてる場面が多々あるけれど、この作品では家を燃やすので、そのもっとも大がかりなものといえるかもしれない (『リオ・グランデの砦』で、ジョン・ウェインはキャサリンの実家の農園をかつて焼き払うことを命じたことになっているけれど、これは物語上だけで実際に画面には現れない)。

この作品、とにかく厨房の場面が好きである。壁にかけられて並んでいるフライパンや、大きなステーキをマイルズが焼いているところや、スチュワートがエプロンをつけて皿洗いしているところの細部は何度見ても飽きない。なお、リー・マーヴィンが初めて登場する駅馬車の場面にはアンナ・リーが出演している。また、ジョン・ウェインとジェームズ・スチュワートはドン・シーゲル監督の『ラスト・シューティスト』(1976) で再び共演することになる。


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