ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

太陽は光り輝く

1859 年というから南北戦争前であるが、ダニエル・エメットによって作曲された “Dixie” は、ジョン・フォードの作品でいったい何回使われているのだろうか?

『リオ・グランデの砦』(1950) のフィナーレでは、ジョン・ウェインの傍でこの曲にあわせてモーリン・オハラが日傘をクルクル回して幸せそうにリズムをとっていたし、『若き日のリンカーン』(1939) では、リンカーンを演じた馬上のヘンリー・フォンダが口琴を奏でる次の場面もあった。

※ 追記: 『虎鮫島脱獄』(1936) でも何度も使われている。

『太陽は光り輝く』(The Sun Shines Bright, 1953) は、フォードのウィル・ロジャース三部作の最初の作品である『プリースト判事』(1934) のあくまで緩かなリメイクである。その『プリースト判事』でも最後の法廷の場面で “Dixie” は物語に決定的な役割を果たしている。そして、この 『太陽は光り輝く』ではなんと二度も "Dixie" が使われている。特に、最初の法廷場面で派手に演奏されるシーンは何度見ても最高に楽しい演出である。そこでは、あのラッセル・シンプソンまでが笑っている!“Dixie” の前に演奏されているのは北軍の “Marching Through Georgia” で、日本では「東京節」とか「パイのパイのパイ」とかいわれる曲の元歌である。

前作でウィル・ロジャースが演じていたプリースト判事役は、チャールズ・ウィニンジャーが演じている。あのポール・ロブスンとヘレン・モーガンが出演し、ジェームズ・ホエールが監督したユニバーサル版の『ショーボート』(1936) でアンディ船長を演じていた人である。ウィニンジャーはオリジナルのミュージカル『ショーボート』初演時もアンディ船長役だった。ウィニンジャーが演じる本作のプリースト判事はアルコール好きで南軍のラッパ手だったという設定で、判事の再選のために選挙活動を行なっており巧みに自分の名刺をあちこちで配っている。

『太陽は光り輝く』(The Sun Shines Bright) という作品のタイトルは、スティーブン・フォスターの “My Old Kentucky Home” (ケンタッキーの我が家) の歌詞の最初のところから採られている。ポール・ロブスンの名前が出てきたので、彼が歌ったこの有名な曲 (ケンタッキーの州歌である!) の録音をあげておく。

前作の『プリースト判事』に出演して印象に強く残り、忘れ難いステピン・フェチットとフランシス・フォードという二人の脇役がこの作品で再び出演している。フェチットはプリースト判事の黒人の召使い役である。ジョン・フォードの兄であるフランシス・フォードは、この作品が自身最後の映画出演であり、少女を暴行した悪漢のバック (グラント・ウィザーズ) がルーシー・リー (アーリーン・ウェラン) を連れて馬車で逃げようとするところをライフルで倒す大活躍をする。フランシス・フォードとコンビを組んでコメディ・リリーフをしているスリム・ピケンズは、スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964) のコング大佐を演じた人である。

アシュビー役で出演しているジョン・ラッセルについては、『リオ・ブラボー』(1959) の悪役ネーサンのイメージが強烈なので、てっきりこの作品でも悪役かと思ったら全然違っていて、副主人公のような役柄である。この作品は南北戦争が終わって おそらく40 年程経ったケンタッキーの川沿いの港町が舞台であるが、町の富豪の息子であるアシュビーが故郷であるその町に蒸気船で久し振りに戻って来て、ラッセル・シンプソンが演じている医師の娘 (実は養女) で小学校の教師になったルーシー・リーを見染めるところから作品が始まっている。

手元にある DVD のパッケージには、上映時間 100 分とあるが、ハーバート・J・イェーツが率いるリパブリック社により配給されたもともとの米国公開時のフィルムは 90 分にカットされていた。本作は、『静かなる男』(1952) の大ヒットの後に低予算で作られ、フォードが『幌馬車』(1950) と同様、気に入っていた作品である。

ただし、『幌馬車』に較べてかなりストーリーが複雑であるし、売春に関しては当時の規制コードで完全にぼかされているので、現在、この作品を見る人は少しわかりにくいかもしれない。それにも拘らず、作品最後の部分にある、売春婦であったルーシー・リーの母親の葬儀の行進の場面はやはり胸をうつ。ルーシー・リーは南軍の将軍フェアフィールド (ジェームズ・カークウッド) の孫娘であるが、将軍は売春婦であるリーの母親 (ドロシー・ジョーダン) を許そうとはせず、産まれたリーも養女としてラッセル・シンプソンに預けていたのである。母親は病気で最期は故郷で葬られたいと願い、船で町に戻ってきて売春宿の女将であるマリー・クランプ (エヴァ・マーチ) に自分の葬儀を頼み亡くなる。女将はたびたび訴えられて法廷に出頭しているが、いつも親切に椅子を勧めてくれるプリースト判事に葬儀の協力を頼み、判事は選挙が不利になることを承知で協力を約束する。その葬儀の場面は 『幌馬車』の記事 ですでに述べたように、緩やかな運動が最大の力動を有する場面である。フォードはここではバックの音楽すら最小限に留め (“Deep River” が歌われる)、選挙のパレードとも対照させながら演出をしている。


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