「中島貞夫」「チャンバラ」でちょうど50 年前の 1969 年の 『日本暗殺秘録』の冒頭で若山富三郎が桜田門外の変で井伊直弼を襲撃した一人を演じた雪のシーンを思い出し再見した。
1969 年は、全共闘が盛んだったゲバルト時代で、この年は、東大入試が中止になったり、永山則夫の連続射殺事件がおきたり、アポロが月面着陸したり、人工甘味料チクロの使用が禁止されたり、セブンスターが発売されたり、日本の国民総生産がはじめて世界二位になったり、『シネマ 69』が刊行されたり、三沢高校と松山商業が延長 18 回の引き分け再試合をしたり、成田空港の建設が開始されたり、『8 時だヨ!全員集合』や『巨泉・前武のゲバゲバ 90 like 分!!』が放映開始されたりした。
当時の自民党幹事長から製作中止勧告があったというテロリストたちを礼讃するような刺激が強い映画を東映オールスター・キャストで、しかもカラーで豪華に作ったのだから、ちょっと信じられない。日本映画史に残るカルト・ムービーの一つである。惹句は「暗殺は是か⁉︎否か⁉︎」で、いまならバッシングものだろうし、そもそもこんな映画を作る度胸は到底なく、かりに作ったとしても謝罪会見して頭を下げるぐらいが関の山だろう。
オールスターで作れと鶴の一声で指示したのは、経営者の大川博らしい。出演陣をちょっとあげても、若山富三郎、唐十郎、吉田輝雄、菅原文太 、高橋長英、千葉真一 、田宮二郎 、藤純子 、北竜二 、三益愛子、小池朝雄 、桜町弘子、田中春男、村井国夫 、近藤正臣、片岡千恵蔵 、高倉健 、鶴田浩二、里見浩太郎、待田京介、川谷拓三である。均衡を欠くオムニバス映画になったのは、こんなに大勢のスターの配役が元のシナリオでは不可能だったからで、お陰で若山富三郎の殺陣まで見ることができる 。若山富三郎は近衛十四郎と並んで殺陣の名手として知られていた。近衛十四郎の殺陣はたとえば大映、三隅研次監督の『座頭市 血煙り街道』(1967) の雪の中での勝新太郎との決闘シーンなどで見ることができる。テレビでは「素浪人 花山大吉」が好きだった。
当時 40 才だった若山富三郎はこの殺陣の撮影ですっかり息が上がって「中島が俺を、殺そうとしてる…」と言ったらしい。当時の現場力のすごいこと。まさに「哀しいぐらい元気」で無茶苦茶な経営陣の要求に現場が応えて余りがある。
画面は当時、この映画を見て右翼になった人間が続出したといわれるぐらい、異常であると思うほどの迫力がある。なお、脚本のメインは笠原和夫であった。ナレーションは芥川比呂志、音楽は富田勲。
作品の中心となるのは、5・15 事件の先駆けともなった 井上準之助 (世界恐慌という最悪のタイミングで金解禁政策を実施してしまった昭和恐慌当時の大蔵大臣。日銀総裁も務めた) を 1932 年に暗殺した血盟団 (日蓮宗の超国家主義者、井上日召が組織した「一人一殺」の暗殺集団が後にこう呼ばれた) の小沼正を描いた部分で、小沼正を千葉真一が演じている。
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