言わずもがなとは思うものの見田さんの最新刊が良いと思ったのは、その肯定的な語り方にある。善意からきているとは思うが、高度資本主義の「成長の限界」の物語に操作されて語るものの上辺だけに思える「悲観主義」の警鐘によって、事態は改善されるどころか、日々強化される「管理社会」により、人々の閉塞感は一層募り、本格的な「不寛容社会」を迎えている。見田さんの書物はその無自覚に装われたペシミズムの悪意とも思える政治性からは思いきり遠ざかっている。ヘーゲル主義というのは凡庸な人間が真似すると事態を悪化させるばかりだが、見田さんぐらいの碩学が語ると全然違うんだなあ、物理的年齢と「若さ」「柔軟さ」はまったく無関係なんだなあと、今更ながら感心したのである。
もちろん、若者は若者で、見田さんの書物にあるように、高度資本主義経済 (経済成長至上主義) に対する「破壊的イノベーション」をとうの昔に始めている。学問や芸術や文化やスポーツで、これだけ日本人が個として活躍している時代はかつて存在しない。経済成長至上主義に未だに取り憑かれた精神的オヤジが、女性や子供や老人を抑圧せず、適正な資源配分を無視して格差 (国内もグローバルも) を助長して健全な中間層を没落させ、米国の二の舞に陥いらないことを願うばかりである。
現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと (岩波新書)
- 作者: 見田宗介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/06/21
- メディア: 新書
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