なんとはなしに、平成最後の東京大学卒業式の総長式辞なるものを読んでいると、見田宗介さんの名前が出てきて、2018 年に唯一読んだ岩波新書である 『現代社会はどこに向かうか——高原の見晴らしを切り開くこと』が引用されていた。
そこに出てくる consummatory (コンサマトリー) という言葉を見ていると、ドゥルーズのセルフ・エンジョイメントを思い出し、それから老年の志賀直哉が竹馬にのっている写真を思い出した。かつて蓮實重彥が目白界隈に住む政治家が庭の池に泳がせている鯉が一匹何百万円と聞いてもまったく羨望を覚えないが、この志賀の写真にある、ある名状しがたい「豊か」としかいいようがないものに嫉妬を覚えると書いていたのを思い出す。