この映画の DVD を発売して欲しいと真剣に思っているのは、日本では青山真治監督が八年がかりで Twitter しているのを見たぐらいなので、もう少し書いておこう。
青山監督も書いているけれど、この映画、デビー・レイノルズ (『雨に唄えば』(1952) の女優といって通じない人には、「スター・ウォーズ」(1977 〜) でレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーのお母さんであるといっておこう) が店でイチゴとピクルスを一緒に注文して食べるシーンがあって、それを見ていたディック・パウエルの友人である弁護士が、その食の組み合わせから彼女が妊娠していると勘違いして、ディック・パウエルへ電話するシーンがある。
身に覚えのないディック・パウエルはあいつが手を出したに違いないとカンカンになって、絵に書いたように物語が進行し、最後はその誤解がとけて大団円になるという物語である。
デビー・レイノルズはこの映画に出演したときには 22 歳ぐらいで、「芳紀」というよりは「妙齢」だし、ディック・パウエルに至っては、役が 30 代を少し超えた年齢にもかかわらず、もう 50 代に入っていた (実際、この作品は彼の最後の出演作で唯一のカラー映画である)。そういった意味では配役にかなり無理があるが、当時の RKO のお家事情から考えて役者を他のメジャーからレンタルするのに苦労したんだと思う。
それにもかかわらず、画面の構成はとても斬新で、ゴダールが激賞するのもわからないではない出来だと思う。たとえば、同時期のキネマ旬報ベストテンの同時代におもねっているとしか思えず、いまから見ればその限界が決定的に明らかな外国映画ベストテンの選出内容を見れば、ゴダールの先見性は明らかである *1。ゴダールはこの時期に映画が決定的に変質したことを了解しており、タシュリンのような映画に未来を明らかに感じている。
同じタシュリンの作品でもジェーン・マンスフィールドの胸ばかり強調する『女はそれを我慢できない』(1956) より、遥かに面白いと思う。ジーン・ケリーのダンスを思い出させる部分もあって、素直にタシュリンの上手さと 50 年代の最良の部分が伝わってくるのだ。
※ 『奥様は芳紀十七才』は、1954 年のフランク・タシュリン監督の RKO テクニカラー作品。原題は “Susan Slept Here”。ディック・パウエル、デビー・レイノルズ、アン・フランシスが出演していて、撮影は、ニコラス・ムスラカ *2。//
※ タイトル・シーケンス
アカデミー賞のオスカー像*3が物語のナレーションをするので、その断り書きがある (オスカー像はスーザンによって胡桃を割るためにも用いられる)。
※ クリスマスの朝のシーンで、Don Cornell の “Hold My Hand” がラジオから流れる。
*1:この作品は 1955 年 3 月に日本公開されたが、この年のキネマ旬報の 30 位以内にも『三つ数えろ』『無頼の谷』『黄金の腕』『東京暗黒街 竹の家』『彼奴は顔役だ!』『泥棒成金』『キッスで殺せ!』と同様、ランクインしていない。ちなみに 『エデンの東』が、『夏の嵐』『裏窓』『現金に手を出すな』『フレンチ・カンカン』『悪魔のような女』『長い灰色の線』などを抑えて第 1 位という凡庸さの極みである!これだけの目が眩むような作品が現実に公開されていながら『エデンの東』を選択してしまう怖さ!
*2:ヴァル・リュートン製作、ジャック・ターナー監督の『キャット・ピープル』 (Cat People, 1942) やドーリ・シャーリ製作、ロバート・シオドマーク監督の初の A 級作品である 『らせん階段』(The Spiral Staircase, 1945) など数多くの傑作の撮影で名高い
*3:MGM の美術監督であったセドリック・ギボンズによってデザインされた