ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

7. 加群 (3)


7-1. 射影加群と入射加群

R 上の二つの左加群  M, N が与えられたとき、 M \to NR 準同型全体を  \mathrm{Hom}_R(M, N) で表すと、 \mathrm{Hom}_R(M, N) は次の演算により「アーベル群」であることがすぐに確認できる。

 (f+g)(x):= f(x) + g(x)

ここで、

 x \in M, f, g \in \mathrm{Hom}_R(M, N)

である。単位元は零写像

 0(x):=0, x\in M

である。

次を証明する。

 R 加群の完全列

と任意の左  R 加群  N に対して、以下は左完全である。

(証明)

 f は単射だから、

 \varphi \in \mathrm{Hom}_R(N, M_1), x\in N

に対して、

 f\circ \varphi(x)= f(\varphi(x))=0

ならば

 \varphi = 0 (零射)

である。したがって、

 \mathrm{Hom}_R(N, M_1) \to \mathrm{Hom}_R(N, M_2)

は単射である。任意の

 \psi \in Hom_R(N, M_1)

について

 g \circ f = 0

から

 g \circ f \circ \psi =0

つまり

 g (f ( \psi(x)))= 0

である。これは、

  \mathrm{Im}\, f\circ - \subset \ker{g} \circ -

を意味する。

また、

 \mathrm{Hom}_R(N, M_2)

に対して、

 g\circ \sigma(x)= g(\sigma(x))=0

なる  \sigma を任意にとると (つまり、 g \circ \sigma \in \ker{g}\circ -) ,

 \sigma(N) \subset \ker{g} = \mathrm {Im}\, f

である。 f は単射なので、終域を   \mathrm {Im}\, f に制限すれば逆射

 f^{-1}: \mathrm{Im}\,f \to N

が定義でき、

 \tau = f^{-1}\circ \sigma \in \mathrm{Hom}_R(N, M_1)

となるものが存在する。つまり、

 \sigma = f\circ \tau \in \mathrm{Im} f \circ -

であり、以上から、

  \mathrm{Im}\, f\circ - = \ker{g} \circ -

がいえた。//

 \mathrm{Hom} の場合右完全性は一般には言えない。例えば、下の例で

 \mathrm{Hom}(\mathbb{Z}/\mathbb{nZ}, -)

の場合が反例になる。

※ 証明は同様なので省略するが、以下の反変関手 (contravariant functor) の\mathrm{Hom} でも左完全である。


任意の左 R 加群の短完全列、

について、

上図の 2 番目の短完全列が得られるような、左  R 加群 M を「射影加群 (projective module)」、1番目の短完全列が得られるような左  R 加群  M を「入射加群 (injective module) 」という。

M が射影加群であるための必要十分条件は、上図の 2 番目の短完全列で任意の準同型  f に対して

 \varphi \circ \bar{f} = f

となる  f の「持ち上げ (lifting)」 \bar{f} が存在することである。これは、 \mathrm{Hom} 集合の列が左完全であるので、短完全列であるためには 、

\mathrm{Hom}_R(M_2, M) \to \mathrm{Hom}_R(M_3 , M)

が全射であることを示せばよいからであり、それを同値に言い換えただけである。すでに 分裂全射について調べたときに「切断」と呼ばれる写像が存在することは示してあるので分裂して直和になるような場合は射影加群の可能性があることはわかる。

これに随伴するものとして、 M が入射加群であることの必要十分条件は、上図の 1 番目の短完全列で、任意の準同型 f に対して、

 \bar{f}\circ \iota = f

となる  f の「拡張」 \bar{f} が存在することである。


//

 R 加群 M が射影的であるためには、 M が自由加群の直和因子である、すなわち、ある左 R 加群  N に対して  M \oplus N が自由であることが必要十分である。特に自由加群は射影加群である (逆は一般には成立しない)。

(証明)

最後の主張からいくと、M R自由加群  F だとすると、基底 (一次独立な生成系)

 \{x_{\lambda}\}_{\lambda \in \Lambda}

を持ち、

 F = \bigoplus_{\lambda \in \Lambda}Rx_{\lambda}

と表せる。 \varphi は全射だから、任意の基底

 x_{\lambda} \in F

に対してある

 y_{\lambda} \in M_2

が存在して

 \varphi(y_{\lambda})  = f(x_{\lambda})

とできる。すると、

 \bar{f}(\sum a_{\lambda}x_{\lambda}) := \sum a_{\lambda}y_{\lambda}

という  R 準同型写像が得られるので、自由加群 F は射影加群である。

今度は、

 F = M \oplus N

が自由であるとする。 f: M \to M_3 に対して、 g: F \to M_3

 g|_N =0, g|_M = f

とすれば、 F は自由であることから射影加群なので  M_2 への持ち上げ (lifting)  \bar{g} が存在する。それを制限して

 \bar{f} = \bar{g}|_M

とすれば  f の持ち上げとなる。したがって M は射影加群である。

次に  M が射影加群であるとする。任意の加群は、ある自由加群の準同型像である (極端ではあるが、 M の全ての要素を生成系に持つ自由加群が考えられる)。 M について、全射準同型  \varphi: F \to M を与える自由加群  Fをとる。そうすると、M は射影加群なので下の図で持ち上げ (lifting)  \bar{f} が存在する。

 id = \varphi \circ \bar{f}

から  \bar{f} は単射であり、

 M \simeq \bar{f}(M)

である。

 F = \bar{f}(M) \oplus \ker{\varphi}

であるので、 M は自由加群  F の直和因子である。


//

すべての  M_\lambda が射影加群であることと、直和

 \bigoplus_{\lambda \in \Lambda}M_{\lambda}

が射影加群であることは同値である。

(証明)

まず、すべての  M_{\lambda} が射影加群であるとする。設定としてはこうなる。

 \iota_{\lambda} は包含写像とか埋入写像とか言われるものである。 g \circ \iota_{\lambda} M_{\lambda} から、 Q への準同型を与えている。それで、 M_{\lambda} には lifting が存在するので、

そうすると、「直和の普遍性」により、

※ あるいは、同じことであるが、直和は圏論のいう「余極限 (colimit)」であるということである。射影極限とか余極限とか定義を見ているだけだと、なんかよく分からないんだが結局普遍性のことだと思う。すべての  M_{\lambda} は、 P \bigoplus M_{\lambda} の両方に射を持っている。直積的なものが極限、直和的なものが余極限と理解しているんだけど、少なくとも加群だったらそれでいいんじゃなかろうか? つまり、極限や余極限の定義で  M_{\lambda} の間の射を具体的に構成することはまったく要求されておらず、ただ  M_{\lambda} の間の射が加えられた図式で射が可換になるという条件でしかない。
//

したがって、直和  \bigoplus_{\lambda \in \Lambda}M_{\lambda} は射影加群である。

逆は、簡単で、直和

 \bigoplus_{\lambda \in \Lambda}M_{\lambda}

は射影加群であるとすると、

なので、当然、射の合成はできるので、

となる。//


射影加群は、上の図で  f id (恒等写像) にとっても lifting  \bar{f} が存在し、単射になるので、分裂全射 (下の図) で  N を射影加群に取ることができ、その場合の切断 s が 射影加群の lifting である。

任意の R 加群  M に対して、射影加群  P_0, P_1, \cdots で、

 0 \leftarrow M \leftarrow P_0 \leftarrow P_1 \leftarrow \cdots

が完全列になるものを  M の射影的分解 (projective resolution) という。もちろん、この場合、射影加群を自由加群とすることができる。

一方、入射加群は、上の図で  f を.  id (恒等写像) にとっても 拡張  \bar{f} が存在し全射になるので、分裂単射 (下の図)で  N を入射加群に取ることができる。

任意の R 加群  M に対して、入射加群  I_0, I_1, \cdots で、

 0 \rightarrow M \rightarrow I_0 \rightarrow I_1 \rightarrow \cdots

が完全列になるものを  M の入射的分解 (injective resolution) という。

入射加群は、可除加群 (divisible module) の概念が必要となる。

(定義)

 R 加群  M について、任意の  x \in MR の非零因子でない要素  a が与えられたとき、

 ay = x

を満たす

 y \in M

が存在すれば、 M を可除加群という。//

※ 非零因子 (non zero divisor) とは、任意の

 b \in R \backslash \{0\}

に対して、

 ab \neq 0, ba \neq 0

となる  a \in R をいう。//

 \mathbb{Q} は可除加群である。また、 \mathbb{Q}/\mathbb{Z} も可除加群である。//

入射  R 加群は可除加群である。

(証明)

 I を入射加群とし、 x \in Iとする。また  a \in R を非零因子とする。

 f(b) = ba

は明らかに単射準同型。

 g(b) = bx

とする。そうすると

 g=h \circ f

となる  h が存在する。

 h(f(1))=h(a)=ah(1)=x

であり、任意の  x \in IR の任意の零因子でない要素  a が与えられたとき、

 ay = x

を満たす

 y = h(1) \in I

が存在する。//

※ 次の証明は、「Zorn の補題」を使う。つまり、順序集合  (X, \leq) の空でない任意の全順序部分集合が  X において上に有界なとき、 X は少なくとも一つ極大元  x_0 を持つ。つまり  x_0 \leq x ならば  x = x_0 ということ。//

アーベル群 ( = \mathbb{Z}加群)  \mathbb{Q}/\mathbb{Z} は、入射加群である。

※ 環が PID (単項イデアル整域) の可除加群であれば、入射加群であるということが実は言える。//

(証明)

「Baer の判定法」として知られている次の内容を示せばよい (要するに入射加群の定義を確認すればよい)。

単射準同型  N \to M が与えられたとき (このとき、この単射を通じて  NM の部分群とみなせる)、準同型  f: N \to T \bar{f}: M \to T に拡張できる。

いま、集合  X

 X := \{(f_i, M_i)_{i \in I}| N \subset M_i \subset M, f_i|_N = f\}

として定めると、 N X に含まれているので、 X は空集合ではない。いま

 M_i  \subset M_j かつ  f_i = f_j|_{M_i}

のとき、

 (f_i, M_i) \leq (f_j, M_j)

として X の順序を定める。また  Y X の全順序部分集合とする。f_{sup} をそれぞれの  M_i において

 f_{sup} := f_i

と定め、

 M_{sup} := \bigcup_{i \in I} M_i

とすれば、

 (f_{sup}, M_{sup}) \in X

で、この組は、 Y の上界を与える。したがって、Zorn の補題により、 X には極大元  (f_0, M_0) が存在する。

次に、 M_0 = M であることを示すために、

 M_0 \subsetneq M

と仮定して矛盾を導くこととする。

仮定より、

 x \in M \backslash M_0

となる元が取れるので、その元を使って

 M_1 := M_0 + \mathbb{Z}x

とおく。

 \mathbb{Z}x \cap M_0

は (単項) イデアルなので、ある  n \in \mathbb{Z} によって、 \mathbb{Z}nx と書ける。

 a= f_0(nx)

とおく。このとき、写像を

 f^{\prime}|_{M_0} :=f_0

 m \in Z について

 f^{\prime}(mx) := (m/n)a

として定義してやれば、この写像は  M_1 全体で定義される  T への準同型写像となることが確認できる。  (f^{\prime}, M_1) の組の存在は、 (f_0, M_0) が極大元であることと矛盾する。//

「双対加群」を少し見る。

 R 加群  M に対して、線形空間の双対空間を考えたときと同じように、加群

 M^* =\mathrm{Hom}_R (M, R)

を「双対加群」と呼ぶ。以下の  a \in R の (右) 作用を定義することによって、 M^* は、右  R 加群となる。

 x \in M, f \in M^*

に対して、

 (fa)(x) := f(x) a

 M が有限生成な射影加群であるならば、 M^* も有限生成な射影加群である。

(証明)

射影加群  M は有限生成なので、ある有限生成な (階数を  n とする)  R 自由加群  F の直和因子となり、

 F = M \oplus N

と書ける。直積の普遍性から、

 \mathrm{Hom}_R (M \oplus N, R) \\\simeq \mathrm{Hom}_R (M, R) \times \mathrm{Hom}_R (N,R)

となるが、有限生成であるので直積と直和は一致し、

 \mathrm{Hom}_R (M \oplus N, R) \\ \simeq \mathrm{Hom}_R (M, R) \oplus \mathrm{Hom}_R (N,R)

となる。

 F \simeq R^n

であるので、

 \mathrm{Hom}_R (M \oplus N, R) \\= \mathrm{Hom}_R (F, R) \simeq \mathrm{Hom}_R (R^n, R) \simeq R^n

となり、 \mathrm{Hom}_R (F,R) も階数  n の自由加群である。

 M^* = \mathrm{Hom}_R(M, R)

はその直和因子なので、(有限生成な) 射影加群である。//

 F F^{**} は自然 R 同型であることから、

 M \simeq M^{**}

である。//

今度は、アーベル群 (\mathbb{Z} 加群)  T = \mathbb{Q}/\mathbb{Z} について、

 M^* := \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}} (M, T)

とする。

1)  M \to M^{**} の標準単射 (自然な準同型) がある。

2)  M が射影加群ならば、 M^* は入射加群である。

(証明)

1)

任意の a \neq 0, a \in M について、 f(a) \neq 0 となる、準同型  f \in \mathrm{Hom}(M, T) があればよいことがわかる。そこで、イデアル

 (a) \subset M

から、 T への射  f_a を次のように定める。もし、 a の位数が有限であれば、その位数を nとして  ka \in (a) について、

 f_a(ka) = k/n + \mathbb{Z}

と定めればよい。また、 a の位数が無限であれば、零にならないよう適当に f_a を定めればよい。 f_a は明らかに準同型である。そうすると

 T= \mathbb{Q}/\mathbb{Z}

は入射加群なので、上の図式を可換にするような  f が存在する。 f が定まると直積の普遍性により、

 f^{\prime}: M \to \prod_{a \neq 0, a \in M} (\mathbb{Q}/\mathbb{Z})_a

が同型を除いて唯一定まり、 a \neq 0 ならば

 f^{\prime}(a) \neq 0

なので、単射を与える。

(2)

これを調べればよい。

双対を取って (1) の結果を使い、M が射影加群であることも使う (注: T は入射加群なので、 \mathrm{Hom}(-,T) の完全函手化 = 完全列化による定義から単射と全射は交代する)。

これの双対を取る。

あとは (1) の結果を使って N, L を書き足して矢印を加えて合成すれば良い (面倒なので省略)。なお、LL^{**} に埋め込まれていると考えて制限写像を構成すればよい。拡大が得られるので、 M^* は入射加群。//

任意の  R 加群は、ある入射加群の部分群となる。

(証明)

任意の左 R 加群を  M とし、自由加群  F の全準同型  F \to M^* を取る。これの双対をとると
 M^{**} \to F^* は単準同型である。自由加群  F は射影加群であることから、 F^* は入射加群である。 M \to M^{**} となる単準同型が存在する。すると、 M \to F^* は単準同型になる。//

7-2. テンソル積

まず、テンソル積を理解する前に、バランス写像 (双線型写像) を理解しておくことが必要である。それがどんな「写像」かというと、まず一番シンプルな例として、

 f:  V \times V \to R

のように、K 有限次元線形空間  V の直積から 実数  R への写像があるとする。さらに  V \to R である二つの  K 線形写像  \phi, \psi を用意する。それで、 \forall (a, b) \in V \times V について

 f(a, b) = \phi(a)\psi(b)

を定義する。 \phi, \psi K 線形写像なので、以下が成立する。

 f(a+c, b) \\
= \phi(a+c)\psi(b) \\
= (\phi(a) + \phi(c)) \psi(b) \\
= \phi(a)\psi(b) + \phi(c)\psi(b)\\
 = f(a, b) + f(c, b)

 f(a, b+c)\\
 = \phi(a)\psi(b+c) \\
= \phi(a) (\psi(b) + \psi(c)) \\
= \phi(a)\psi(b) + \phi(a)\psi(c)\\
 = f(a, b) + f(a, c)

 f(\alpha a, b)\\
 = \phi(\alpha a)\psi(b) \\
= \alpha \phi(a) \psi (b) \\
= \alpha f(a, b)

 f(a, \alpha b)\\
 = \phi(a)\psi(\alpha b) \\
= \alpha \phi(a) \psi (b) \\
= \alpha f(a, b) = f(\alpha a, b)

これだけだと、まだよくわからないかもしれないので、次の例をみる。

 f(x_{11} e_1 + x_{12}e_2 + x_{13}e_3,x_{21}e_1 + x_{22}e_2 + x_{23}e_3)
 = (x_{11}\phi(e_1)+x_{12}\phi(e_2) + x_{13}\phi(e_3)) (x_{21}\psi (e_1)+x_{22} \psi(e_2) + x_{23}\psi(e_3))

後の式の展開は長くなるので書かないが、結局 9 個の項に展開できる。

 f(e_i, e_j) = \phi (e_i) \psi(e_j)

なので、結局、  f は 9 個の成分  f(e_i, e_j ) が決まれば計算できてしまう。そして、このことが

 f(e_i, e_j) := e_1 \otimes e_j

を基底とする線型空間 (次元は 9 ) としてのテンソル積  V \otimes V を考えたくなる理由である。


上の図を矯めつ眇めつ眺めてみる。ここでは、M は右 R 加群、 N は左  R 加群、 T は「テンソル積」といわれる加法群、 G は任意の加法群である。 \tau, \varphi R バランス写像で  \varphi: M \times N \to G について書くと、

 \varphi(x+y, z) = \varphi(x, z) + \varphi(y, z)
 \varphi(x, z+w) = \varphi(x, z) + \varphi(x, w)
 \varphi(xa, z) = \varphi(x, az)
 (x, y \in M, z, w \in N, a \in R)

である。まず、圏論はモノと射は必ずセットで考えないといけないので、ここで定義している「テンソル積」とは、 (T,  \tau) が一緒になった概念の筈である。 T は、

 T = M \otimes_R N

と表記し、

 \tau(x, y) := x \otimes y
 (x \in M, y \in N)

と書く。 \tau R バランス写像なのだから、次の関係は書き方が変わったに過ぎず、 R バランス写像の性質と同値である。

 (x+x^{\prime})\otimes y = x \otimes y + x^{\prime} \otimes y
 x \otimes  (y+y^{\prime}) = x \otimes y + x \otimes y^{\prime}
 xa \otimes y = x \otimes ay


 \ker{\tau} を考えてみると、

 T \simeq (M  \times N)/\ker{\tau}

であり、 \ker{\tau} は、 R バランス写像の諸性質がもつ同値関係によって与えられることがわかる。

 \varphi M \times N から  G への「任意の」R バランス写像であったから、この図式が主張しているのは、もし仮に、 (T,  \tau) が存在するならば、  \varphi は、必ずある群準同型写像  f がただひとつ (同型を除いてひとつ = 同型なものは区別しないという前提でただひとつ = 一意的に) 定まり

 \varphi=f \circ \tau

とできるということである。それで、 f が「同型を除いてただ一つ」決まると何がうれしいかというと、結局  f が群同型写像であることが示せるのである。そうすると、あら不思議、 T と 任意の  G は同型であったのだ。つまり「同型を除いてただひとつ」のものである。しかも、同型を決める  f はただひとつなのである。特殊だと思っていたものが、実はあらゆるものに遍く存在していることへの驚き、その感動を数学者は忘れないためにこれを「普遍性」と名付けている。

よく、ベクトルはテンソルであるとか言う言明を見かけるのであるが、その説明に感じられる、より簡単なものをより複雑なものに帰着させる発想は、普遍性とは真逆の考え方であると感じる。普遍性とは単純なことが見かけは違っていても遍く存在することの驚きである。上の図で、ただ一つ存在することが証明できる  f は準同型写像、つまり線型空間に即していえば線型写像である。//

テンソル積の直前の定義では、右  R 加群  M, 左  R 加群  N の直積集合  M \times N から加法群  G への任意の R バランス写像に対する普遍的な「加法群」であるとしている。このとき、R バランス写像の性質としては

 \varphi(xa, y) = \varphi(x, ay)

であり、この段階では、テンソル積は加法群なので  a\varphi(x,y) は定義できないことに注意する。

R 加群  M が「同時に」他の環  S に対して左  S 加群にもなっており、互いの作用が以下のように可換であるとき、M を両側 (S, R) 加群という。

 b(xa) = (bx)a \, (x \in M, a \in R, b \in S)

このとき、左 R 加群 N とのテンソル積  M \otimes_R N は、自然に左  S 加群になる。つまり、  b \in S としたとき、加法群の要素  x \otimes y への  b による左作用を

 b (x \otimes y) = (bx) \otimes y

と書くと、 M \otimes_R N は左  S 加群である。同様に、 M は左  R 加群で、N が両側  (R, S) 加群であるならば、 M \otimes_R N は、右  S 加群である。

 R が、可換の場合、 R 加群は、両側  (R, R) 加群とみなされる。したがって、可換環  R 上の加群  M, N のテンソル積  M \otimes_R N は、 R 加群とみなされる。このとき、 R バランス写像  \varphi は、

 \varphi(xa, y) = \varphi(x, ay)= a\varphi(x,y)

とできる。//

以下、断らない限り  R を可換環とする。

1) 任意の  R 加群  M, N について、

 M \otimes_R N \simeq N \otimes_R M

である。

(証明)

上図で  \varphi は双線型写像であるので、普遍性から、

 f(m \otimes n) = n \otimes m

となる準同型写像  f が唯一存在する。同様にして、

 g(n \otimes m) = m \otimes n

であり、これから、

 f \circ g = g \circ f = id

を得る。//

2) 任意の  R 加群  M について、

 M \otimes_R R \simeq M

(証明)

双線型性写像

 \varphi: M \times R \to M,  \varphi(m, a) = am

に対して、普遍性から、

 f(m \otimes a) = am

となる  f が唯一存在する。写像

 g: M \to M \otimes R, g(m) = m \otimes 1

を考えれば、

 f(g(m))=f(m \otimes 1) = m
 g(f(m \otimes a)) =g(am)=am \otimes 1 = m \otimes a //

(3) 任意の  R 加群  M, N, P について、

 (M \oplus N) \otimes P  \simeq  (M \otimes P) \oplus  (N \otimes P)

(証明)

双線型性写像

 \varphi: (M \oplus N) \times P \to (M \otimes P) \oplus (N \otimes P),
 \varphi( (m, n), p) = (m \otimes p, n \otimes p)

に対して、普遍性から、

 f( (m, n) \otimes p) = (m \otimes p, n \otimes p)

が存在する。

 x( m \otimes p, n \otimes p) = (m,0) \otimes p
 y( m \otimes p, n \otimes p) = (0,n) \otimes p

と定めると、

 (x + y)f( (m, n) \otimes p) \\
= (x + y) (m \otimes p, n \otimes p) \\
= (m, n) \otimes p

 f( (x+ y)( m \otimes p, n \otimes p))\\ = f ( (m, n) \otimes p) = ( m \otimes p, n \otimes p)
//

※ その他、基本的な事柄

1)

 m \otimes 0 = m \otimes (0+0) = m \otimes 0 + m \otimes 0

したがって、

 m \otimes 0 = 0

2)

 \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \otimes \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}=0

 \forall x \in  \mathbb{Z}/2\mathbb{Z},  x \otimes y = 3x \otimes y = x \otimes 3y = 0

3)

 \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \otimes \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \simeq  \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}

 0 \otimes 0 = 0 \otimes 1= 1 \otimes 0 = 0

4)

 \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \otimes \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \simeq  \mathbb{Z}/\gcd(m,n)\mathbb{Z}

 x \otimes y = (xy)(1 \otimes 1)
 \gcd(m,n) = d =mx + ny
 d(1 \otimes 1) \\
= (mx + ny)(1 \otimes 1) \\
= mx \otimes 1 + 1 \otimes ny = 0

5)

 \mathbb{Q}/\mathbb{Z} \otimes \mathbb{Q}/\mathbb{Z} = 0

 \frac{a}{b} \otimes \frac {c}{d}\\
= d(\frac{a}{bd}) \otimes \frac {c}{d}\\
= \frac{a}{bd} \otimes c=0
//

以下、 M は右  R 加群、 N は左  R 加群とする。

テンソル積  M \otimes_R N は、

 x \otimes y \quad (x \in M, y \in N)

の形の要素によって生成される。すなわち、 M \otimes_R N の要素は有限和

 \sum x_i \otimes y_i \quad (x_i  \in M, y_i \in N)

の形をしている (ただし、表示は一意的ではない)。

(証明)

テンソル積の要素、

 x \otimes y \in M \otimes_R N \quad
(x \in M, y \in N)

で生成される  M \otimes_R N の部分群を  T とする。双線型写像

 M \times N \to T, (x,y) \mapsto x \otimes y

に対して準同型

 f: M \otimes_R N \to T

が唯一存在するが、 T から  M \otimes_R N への包含写像が存在していることから、矛盾しないためには、

 f = id_{M \otimes_R N}

である。そうすると、

 T = M \otimes_R N

である。//


 \varphi: M \to N, \varphi^{\prime}: M^{\prime} \to N^{\prime}

をそれぞれ  R 加群の準同型とする。そのとき、

 M \times M^{\prime} \to N \otimes N^{\prime}, (m, n) \mapsto \varphi(m) \otimes \varphi^{\prime}(m^{\prime})

は双線型性であり、テンソル積の普遍性によって、以下のような準同型がただひとつ存在する。

 \varphi \otimes \varphi^{\prime}: M \otimes M^{\prime} \to N \otimes N^{\prime}, \\( \varphi \otimes \varphi^{\prime})(m \otimes m^{\prime}) = \varphi (m) \otimes \varphi^{\prime}(m^{\prime})
 (\forall m \in M, m^{\prime} \in M^{\prime})

 \varphi \otimes \varphi^{\prime} を写像  \varphi, \varphi^{\prime} のテンソル積という。//

 F = \bigoplus_{i \in I}x_i R

 (x_i)_{i \in I} を基底とする右  R 自由加群とすると、

 F \otimes_R N \simeq N^{\oplus I}

である。また、 F \otimes_R N の要素は、一意的に

 \sum_i x_i \otimes y_i \quad (y_i \in N)

と書ける。

(証明)

すでに証明した結果から、

 F \otimes_R N \\= (\bigoplus_{i \in I}x_i R  ) \otimes R \simeq \bigoplus_{i \in I} (x_iR \otimes_R N)

である。各  i について、双線型写像

 x_i R \times N \to N, (x_ia, y) \mapsto ay

に対して、普遍性から準同型

 f: x_iR \otimes_R N \to N, f(x_ia \oplus y) = ay

が存在し、さらに

 g(y) = x_i \otimes y

を定義すると、

 f(g(ay)) \\
= f(x_i \otimes ay)\\
= f(x_ia \otimes y)\\
= ay

 g(f(x_ia \otimes y)) \\
= g(ay)\\
= x_i \otimes ay\\
= x_ia \otimes y

したがって、

 f \circ  g = g \circ f = id

から

 x_iR \otimes_R N \simeq N

である。//

 R 加群の完全列と任意の左  R 加群 N に対して、

以下は、右完全列をなす。

(証明)

明らかなのは、 − \otimes  N は全射を全射のままにしておくということである。 g は全射であり、したがって  g \otimes id は全射である。

 x \in M_3, y \in N とし、

 g(z) = x

なる  z が必ず取れ、

 \varphi(x,y) = z \otimes y + \mathrm{Im}(f \otimes id)

 \varphi を定義し、well-defined であることを以下に確認する。

 x=g(z)=g(z^{\prime})

だとすると、

 z - z^{\prime} \in \ker{(g)} = \mathrm{Im}(f)

から、

 z \otimes y - z^{\prime} \otimes y\\
= (z - z^{\prime})\otimes y \in \mathrm {Im}(f \otimes id)

さて、 \varphi

\bmod{\mathrm{Im}(f \otimes id)}

で双線型であるから、テンソル積の普遍性によって

 \psi (x \otimes y) = z \otimes y + \mathrm{Im}(f \otimes id)

となる  R 準同型がある。この準同型の逆写像として  g \otimes id が取れることは明らか (準同型定理から, また

 \mathrm{Im}(f \otimes id) \subset \ker{(g \otimes id)}

は明らかである)。したがって

  \mathrm{Im} (f \otimes id) = \ker{(g \otimes id)}

である。//

下のテンソルの右完全列が短完全列を短完全列に移すとき、左  R 加群  N を「平坦加群 (flat module)」と呼ぶ。

射影加群は平坦加群になる。また、ここでは証明しないが、局所環 (ただ一つの極大イデアルしか持たない可換環であった) 上の有限生成加群では、自由加群、射影加群、平坦加群の概念はすべて同値となる。

射影加群について、もっとも大事なことであると思っているのは、ある未知の (よくわからない) 加群  Q があって、そこから射影加群  P への全射準同型  \varphi が存在しているならば、以前の記事で証明したことから容易にわかるように、

 Q \simeq P \oplus \ker{\varphi}

というように、二つのコンポーネントの直和に  Q が分解されることである。すでに見たように、自由加群は射影加群であり、この性質をもつのであるが、逆は一般には成立しないことから、射影加群というクラスが存在しているのだと思う。

なお、ノート 5 で可換環  R が PID (単項イデアル整域) であるとき、有限生成の  R 自由加群の部分加群はまた有限生成で自由加群であることは、証明してある。 また、射影加群は、有限階数の自由加群の直和因子であることもすでに証明済みだから、結局、可換環  R が PID (単項イデアル整域) であるときは、射影加群は自由加群である。また、射影加群  N は以下のように表現可能函手  \mathrm{Hom} (N, -) を完全函手にするのであった。

前置きはこれぐらにして、「射影加群は、平坦加群である」を証明する。

(証明)

射影加群  N は、ある自由加群  F の直和因子であったから、

 F = N \oplus Q

とする。上図で、 f は単射であるが、 M_1 \otimes F から  M_2 \otimes F は単射になる (つまり、自由加群は平坦加群である)。なぜならば、 F の基底を

 (x_i)_{i \in I}

とすれば、前の結果から、

 M_1 \otimes F \simeq M_1^{\oplus I}, \\ M_2 \otimes F \simeq M_2^{\oplus I}

だからである。

次に、

 M_1 \otimes F = M_1 \otimes (N \oplus Q) \\= (M_1 \otimes N) \oplus (M_1 \otimes Q)

 M_2 \otimes F = M_2 \otimes (N \oplus Q) \\= (M_2 \otimes N) \oplus (M_2 \otimes Q)

が成立するが、下の図で、 \varphi, \psi はそれぞれ上で与えた自然変換であり、任意の  F の直和分解に対して成立する。可換であることから、上の水平な部分の準同型写像が単射ならば、下の水平な部分の準同型写像も単射でなければならず、しかも、自然同型であることから、各  f_i \otimes id_{F_i} で単射でないといけないことがわかる。

したがって、 M_1 \otimes N から  M_2 \otimes N も単射になる。//

 R の両側イデアルを  I とし、 N を左  R 加群とする。ここで、 IN

 ax \quad (a \in I, x \in N)

の形の要素によって生成される  N の部分  R 加群とすると、

 (R/I) \otimes_R N \simeq N /IN

という、左  R 加群としての自然な同型が得られる。

(証明)

 R バランス写像、

 (R/I) \times N \to N/IN; \\ (r + I, n) \mapsto  rn + IN

に対して、テンソル積の普遍性により

 f : (R/I) \otimes N \to N/IN

を満たすものが唯一存在して、

 f( (r + I) \otimes n) = rn + IN

となる。

 g(n + IN) = (1 + I) \otimes n

は明らかに準同型である。

 f(g(n + IN))\\= f((1+I) \otimes n)\\ = n + IN

 g(f( (r+I) \otimes n) )\\=g(rn + IN)\\=(1 + I) \otimes rn \\= (r + I) \otimes n

したがって  f は同型写像である。//


 \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \otimes 
 \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}  \\
\simeq  (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})/  m\mathbb{Z}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})
 = (\mathbb{Z}/ n\mathbb{Z})/  ( (m\mathbb{Z}+n\mathbb{Z})/ n\mathbb{Z})\\
\simeq  \mathbb{Z}/  (m\mathbb{Z}+n\mathbb{Z}) \\
=  \mathbb{Z}/  gcd(m, n) \mathbb{Z}

ここで、

 I(M/N) = (IM + N)/N

という関係を使った。 a_i \in I, x_i \in Mについて、

 \sum a_i \bar{x_i} = \sum a_i x_i + N

であることから、すぐにわかる。
//


 M を右  R 加群、 N を両側 (R,S) 加群、 L を左  S 加群とする。このとき、

 (M \otimes_R N) \otimes_S L \simeq M \otimes_R (N \otimes_S L)

(証明)

 R バランス写像

 M \times N \to M \otimes_R (N \otimes_S L); \\(m, n) \mapsto m \otimes (n \otimes l)

に対してテンソル積の普遍性から、

 f_l (m \otimes n) = m \otimes (n \otimes l)

が存在する。

 \Phi: (M \otimes_R N) \times L \to M \otimes_R (N \otimes_S L)

について、

 \Phi(m \otimes n, l) =f_l(m \otimes n)

と定め、 f_l l を固定したときには、バランスしているのは明らかなので、 m \otimes n の方を固定して  l についてバランスしていることを確認する。

 f_{x+y}( m \otimes n) \\
= m \otimes (n \otimes (x + y) )\\
= m \otimes (n \otimes x + n \otimes y)\\
= m \otimes (n \otimes x) + m \otimes  (n \otimes y)
 = (f_x + f_y)(m \otimes n)

 f_{sl}(m \otimes n)\\
= m \otimes (n \otimes sl)\\
= m \otimes (ns \otimes l)\\
= f_l (m \otimes ns)

 \Phi S バランス写像であることがわかったので、テンソル積の普遍性から、

 f( (m \otimes n) \otimes l)=m \otimes (n \otimes l)

が 同型を除いて唯一存在する。逆写像は

 g(m \otimes (n \otimes l) )=(m \otimes n) \otimes l

であることは明らかである。//


 P を左  R 加群、 M を両側 (R, S) 加群、 N を左  S 加群とする。このとき、次が成り立つ。

 \mathrm{Hom}_R(M \otimes_S N, P) \simeq \mathrm{Hom}_S(M, \mathrm{Hom}_R(N, P) )

(証明)

 M \times N \to P R バランス写像全体の集合  \mathrm{Bil}(M, N; P) は、 \mathrm{Hom}_R(M \otimes _S N, P) と同型であることはテンソル積の普遍性からわかる。

二番目の方は、 M の要素を固定したときの  N \to P R 準同型写像の集合をすべての  M の要素について更に集合にしたものが、 R バランス写像全体であるということを意味しているので、 \mathrm{Bil}(M, N; P) と同型であることは明らかである。//

 R を環とし、環  S R 代数とする。すなわち、

 \varphi: R \to S

という環準同型があるとする。 M を 左  R 加群とし、 N を左  S 加群とする。このとき、 n \in N に対して  r \in R の作用を

 r\cdot n \to \varphi(r)n

と定めれば、 N は左  R 加群とみなすことができる。このように  S 加群を  R 加群に変えることを「係数制限」という。

また、環  S は、それ自身左  S 加群とみなせるが、右からの  R の作用を  \varphi によって与えれば、 (S, R) 両側加群とみなせる。このとき、 s, s^{\prime} \in S, r \in R について、両側加群の定義から、

 (ss^{\prime})\cdot r = s\cdot (s^{\prime}\cdot r)

である。テンソル積、 S \otimes_R M を考え、 m \in M に対して、

 s\cdot(s^{\prime} \otimes m) = (ss^{\prime}) \otimes m

と定めれば、テンソル積  S \otimes_R M は左  S 加群となる。  S \otimes_R M を 左  R 加群  M S への「係数拡大」という。

 N R 加群に制限することによって、  R 準同型

 f \in \mathrm{Hom}_R(M, N); f(m) =  n

が与えられたとすると、これから、

 id_S \otimes_S f: S \otimes_R M  \to S \otimes_R N;
 (id_S \otimes_S f) (s \otimes m) = s \otimes n

という  S 準同型が定義でき、さらに

 g: S \otimes_R N  \to  N;
 g(s \otimes n) = s \cdot n

を合成すれば

 h: S \otimes_R M  \to  N;
 h(s \otimes m) = s \cdot n

という  S 準同型が得られる。

つまり、

 F: \mathrm{Hom}_R(M, N) \to \mathrm{Hom}_S (S \otimes_R M, N);
 f \mapsto h

が得られる。逆に、

 h: S \otimes_R M  \to  N;
 h(s \otimes m) =  n

となる  h があったとすると、

 M S \otimes_R M の係数拡大  M \to S \otimes_R M を考えることで、

 f: M \to N;
 f(m) = n

という  R 準同型が得られる。

つまり、

 G: \mathrm{Hom}_S (S \otimes_R M, N) \to \mathrm{Hom}_R(M, N);
 h \mapsto f

が得られる。以上から、

  \mathrm{Hom}_S (S \otimes_R M, N) \simeq \mathrm{Hom}_R(M, N)

である。//

 R を可換環として、環準同型  \varphi: R \to S によって定まる  R 代数を  S とする。 S において  R の元は中心的とする。すなわち、

 \varphi(r)s = s\varphi(r)
 (r \in R, s \in S)

が成りたち、 \varphi による  R の像が  S の「中心」に含まれるとする。別の環準同型

 \phi: R \to T

によって定まる  R 代数を  T とする。 T においても  R の元は中心的とする。このとき、テンソル積

 S \otimes_R T \simeq T \otimes_R S

は、乗法を

 (x_1 \otimes y_1)(x_2 \otimes y_2) =x_1x_2 \otimes y_1y_2

と定義することによって、やはり  R 代数となる。環準同型、 R \to S \otimes_R T は、

 r \mapsto \varphi(r) \otimes 1 = 1 \otimes \phi(r)

によって与えられる。

例: 多項式環について

 R[X] \otimes_R R[Y] \simeq R[X, Y]

となる。

7-3.「米田の補題」について

「米田の補題 (Yoneda Lemma)」とは、

 \mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(A, -), F) \simeq F(A)

あるいは、この双対表現として

 \mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(-, A), F) \simeq F(A)

知られているものである。

 \mathcal{C} を考える。それで、その圏  \mathcal{C} には、どんな魔物が住んでいるかもわからない「決死圏」かもしれないので、わかりやすく慣れ親しんだはずの「集合と写像」圏で考えたい。「集合と写像」圏のことを  \mathcal{Set} と書くことにする。 なお、 圏  \mathcal {C} の任意の対象  A, B は集合にすることができるし、写像の集合

 \mathrm{Hom}(A, B) \in \mathcal{Set}

も必ず作れるものとする。

いま、 圏  \mathcal{C} の対象  A をひとつ固定して考えることにする。圏から圏に対象と射を移動させるものが、関手 (functor) である (関手は「対象」と「射」の両方に作用することがポイントである)。今、考えているのは、圏  \mathcal{C} から、圏  \mathcal {Set} への移動である。任意の関手

 F: \mathcal{C} \to \mathcal{Set}

を考えて、圏  C の対象 A に作用させて  A を集合にする。それが右辺の  F(A) で対象  A が集合になったものである。したがって、人は、右辺を対象 A をその属性データとして集合にしたもののようなイメージで捉えることができる。

驚くべきは、左辺である。双対な二つの式があるが、どちらをとっても同じなので、ここでは  \mathrm{Hom}(A, -) の方を例にとると、これは、関手

 \mathcal{C} \to \mathcal{Set}

であることがわかる。なぜなら、対象  X \in \mathcal{C} をとると、対象 X

 Hom(A, X) \in \mathcal{Set}

で圏  \mathcal{Set} の集合になっている。圏  \mathcal{C} の対象  X, Y の間の射   f: X \to Y は、「集合と写像圏」 \mathcal{Set} では、

 g \in \mathrm{Hom}(A, X) だとすると、

 f \circ g  \in \mathrm{Hom}(A, Y)

に変換される。 人は関手  \mathrm{Hom}(A,-) によって、圏  \mathcal{C} の世界が  A の外在的な関係表現に  \mathcal{Set} の世界では置き換えられたと考えることができる。

\mathrm{ Nat} は二つの関手  \mathrm{Hom}(A,-), F の間の自然変換となる射の集合であることを表す。この  \mathrm{Nat} 集合が右辺の対象  Aの集合と同型だと主張しているのである。

米田の補題 (Yoneda Lemma)  \mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(A, -), F) \simeq F(A) の証明。

(証明)

まず自然変換の射の集合

\mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(A,-) \to F)

から、自然変換

 s: \mathrm{Hom}(A, -) \to F

を一つ取り出す。

自然変換はそもそもは、「それぞれの対象に対してそれぞれの射を定める」対応のことだから*1、圏  \mathcal{C} の対象 A に対応する射、

 s_A : \mathrm{Hom}(A, A) \to F(A)

は当然、定義することができる。

恒等写像

 1_A \in \mathrm{Hom}(A,A)

だから、

 s_A(1_A) \in F(A)

である。したがって、同型を与える写像の候補として、

 \Phi: \mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(A,-) \to F) \longrightarrow F(A)

 s  \mapsto s_A(1_A)

として、写像  \Phi を定め、これが全単射であることを証明する。

1) 単射であること

 s, t \in \mathrm{Nat}(\mathrm{Hom}(A,-) \to F)

とし、

 \Phi(s) = \Phi(t)

を仮定する。そうすると

 s_A(1_A) = t_A(1_A)

である。

 \mathcal{C} において

とする。ここで  B は任意の対象、 f は任意の射である。これを二つの関手、 \mathrm{Hom} (A,-), F で変換する。

上図の自然変換の可換性から、

 s_B(f) \\
= s_B \circ f \circ 1_A\\
= F(f) \circ s_A \circ 1_A

 s_A(1_A) = t_A(1_A)

から

 s_B(f) \\
= F(f) \circ t_A \circ 1_A\\
= t_B \circ f \circ 1_A\\
= t_B(f)

となり、

 s_B(f) = t_B(f)

がいえ、 B, f は任意だったので

 s = t

となる。以上、

 \Phi(s) = \Phi(t) ならば  s = t

なので、 \Phi は単射である。

2) 全射であること

 x \in F(A)

とする。自然変換  s: \mathrm{Hom}(A, -) \to F で、

 x = s_A(1_A)

なる  s が存在することを示す。

 s_B(f) = F(f)(x) とすると、

 s_A(1_A)=F(1_A)(x)=1_{F(A)}(x) = x

である。この定義が、自然変換の可換性を満たすことをチェックする。

 F は関手だから、

 F(g)(s_B(f))=F(g)(F(f(x))=F(g \circ f)(x)

また、

 s_C(g \circ f)=F(g \circ f)(x)

なので可換である。以上から、自然変換  s: \mathrm{Hom}(A, -) \to F で、

 x = s_A(1_A)

なる  s が存在するので  \Phi は全射である。//

代数入門―群と加群 (数学シリーズ)

代数入門―群と加群 (数学シリーズ)

*1: F,G が圏  \mathcal{C} から 圏  \mathcal{D} の関手だとすると、 t F から  G への自然変換であるとは、 1)  t は、圏  \mathcal{C} の各対象  X に対して 圏  \mathcal{D} の射  t_X: F(X) \to G(X) を対応させる。 2)圏  \mathcal{C} の各射  f: X \to Y について、 F(X) \to G(Y) の射として、  t_Y \circ F(f) = G(f) \circ  t_X が成り立つことをいう。