ここでは、動詞 (主要動詞) の後の目的語として ing-動名詞、 to-不定詞 (まとめて「補語」と呼ぶ) のどちらをとるかという、高校受験勉強 (megafeps!) 以来の古い問題をごく簡潔に考察してみることにする。もちろん、この考察は個人的な仮説でありいつでも成立する正しさを主張するものではない。
結論から書けば、to-不定詞をとる場合は以下の場合であり、それ以外は ing-動名詞をとる。
to-不定詞をとる場合:
主要動詞の存在が、主語と補語で示される状態の間に全的関与を生じさせ、補語が示す状態に出来事 (確定的、個別的な質的変化) が具現化するとみなされる。
以上だが、何が言いたいのかは例文で確認することにする。
He tried to open the door.
⇒ try の存在が、「彼」と「ドアの状態」に関与を生じさせ、「ドアの状態」が閉まった状態から開いた状態へ至る確定的、個別的な事象の全過程を主語が支配するべきものと見なされており、したがって to-不定詞をとる。
Try adding some more sugar to the cake.
⇒ この文章は、「試しにケーキにもっと砂糖を加えてみたら」という意味である。ここで問題なのは、try の持つ「試行的」意味が強調されていることで、どんな結果を確定させるかはわからない。
I'm willing to risk losing everything.
⇒ risk が「危険を冒す」という動詞で用いられており、この動詞は 私と「すべてを失うこと」に深い関与を導入しているものの、その変化は確率的であり確定的な変化として生起するとみなされていない。
You need to practice parking the car in the garage.
⇒ practice は試行的な複数の成功、失敗を問わない試みを意味する動詞であり、parking に対する個別的な事象を引き起こすとはみなされない。
I advised starting early.
⇒ "starting early" するのは、「私」ではないのだから、事象の具体化への全過程に関与しているとはいえない。
They prohibited picking flowers in the park.
⇒ 上と同じ
She does not allow smoking in the room.
⇒ 上と同じ
I suggested his resting for a while.
⇒ 上と同じ
※ suggest は「控えめ」なので主語を明示してすら例文のような形しかとらない。
I cannot imagine marrying Tom.
⇒ imagine は確かにわたしにある想念を導入するが、それは確定的に具体化されうるとみなされる事象とは言えない。
He acknowledged having broken the law.
⇒ “having broken the law” はすでに過ぎ去った確定的事象で、acknowledge がその事象に He を関与させてもその状態に質的変化が生じるはずもない。
I shall never forget hearing the President's address.
⇒ 上と同じ
I can't help eating everything she serves.
⇒ eating everything という事象が生起するとみなされるのは、「私」の全的関与によるものではなく、そもそも彼女が出す料理がおいしいことに端を発している。
J.P. Saltre refused to accept the novel prize.
⇒ refuse という動詞が、サルトルとノーベル賞を受けることに全的関与をもたらし、賞を受ける前提そのものを恒久的に消滅させることで確定的な状態変化を生じさせている。
He failed to stop his car after causing a traffic accident.
⇒ fail とは前提とされている期待が本人の全的関与によって背かれることである。
I ended up getting a cold today.
⇒ 想定した状態に主語が落ち着くべくして落ち着いたという感じで関与感が薄い。
I missed seeing the film.
⇒ miss の場合は、主語との関与ではなく、むしろ外部的、偶然的な外部要因の関与によって「見逃した」のである。
The moment you doubt whether you can fly, you cease forever to be able to do it.
⇒ cease というのは to 不定詞が使えるので、恒久的に放棄するというような決定的な事態を表現できる。ここでは forever という語があるが、たとえこれがなくても to 不定詞が使われることで「二度とできなくなる」という決定的な事態が生じるニュアンスは伝わると考えられる。飛ぶことを doubt するという否定的な疑いは、「二度と飛べなくなる」という確定的、個別的な変化への端緒になっている。
※ 参考までに上の例文は、最初に Peter Pan というキャラクターが登場した J. M. Barrie の作品 “The Little White Bird or Adventures in Kensington Gardens” (1902) の “Peter Pan” と題された第 14 章にある。なお、1906 年に出版され、Arthur Rackham の挿絵で名高い “Peter Pan in Kensington Gardens” にも同じ文章がある。//
The bank strongly resisted cutting interest rates.
⇒ cutting interest rates という事象は、外部事象と考えられ、the bank が抵抗によって関与したところで、その事象自体が変化するわけではない。
A lazy person delays starting a job.
⇒ delay によって、時間的差異は生じるかもしれないが、starting a job という事象の前提自体には本質的変化は生じない。
We have to postpone going to France.
⇒ 上と同じ。
The government should promote using the alternative energy.
⇒ 上と同じ
I finished doing my homework.
⇒ doing homework という事象生成への全過程での関与ではなくそのうちの特定の局面における関与に触れているだけである。
Let's avoid wasting time.
⇒ avoid は、主語の側が wasting time という状態から遠ざかる escape の類の動詞であり、ということは wasting time は一定の前提として変化せず存在していると見做されている。つまり主語が補語に深い関与をして質的変化を具現化するということではない。
The boys pretended to be Indians.
偽装によりインディアンの具体化に少年たちが全的に関与している。
※ Nice to meet you. とか I’m glad to hear that. の to は向き合っているという意味しかない。to が未来志向というならそれは主要動詞の関与があるからだろう。大まかにいうと、to 不定詞と ing 動名詞の選択の違いは具体的、本質的な出来事をもたらすことに重きをおくか、通時的に保持されていると見做されている事象に対するある局面での (主要動詞によって示される) 行為に重きをおくかという視点の違いが対応していると思う。しかし、例文をみるとわかるように to 不定詞の適用はかなり厳格で、ing 動名詞は逆に適用の幅が広いように感じる。