ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

My Melancholy Baby

サルトルの『嘔吐』はモデル小説でもなんでもないのだから、小説の中の “Some of These Days” の演奏に実在のモデルが存在するかなどどうでもよいことだが、レコードの針が飛ぶことに関する小説の記述とか、実際にレコードの針が飛んだんじゃないかと思うような歌い方をしている下のような例を聞いているうちに、“My Melancholy Baby” を思い出してしまった。

“My Melancholy Baby” は、プリシラ・レインが『彼奴は顔役だ!』(1939) で歌っていたし、ジョージ・キューカー監督の 1954 年版の『スター誕生』(A Star Is Born) では、ジュディ・ガーランドが歌っていた。しかし、印象的な使われ方をしたのは、フリッツ・ラング監督の『スカーレット・ストリート』(Scarlet Street, 1945) であろう。この映画、主演は、ジョーン・ベネット、エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネットのヒモの役は、ダン・ドゥリエイでアンソニー・マンの『ウィンチェスター ’73』(1950) に出演している人である。そこでは二つのイメージが反復される。

第一のイメージ:

情夫(ダン・ドゥリエイ)と女(ジョーン・ベネット)の関係を最初に提示する場面であり、ジョーン・ベネットがレコードをかけると、レコードの針がとんで、音楽 (Melancholy Baby) が同じ箇所を繰り返す。

“In love, in love, in love ……”

情夫が針の位置を直し、傍に横たわったままで動こうとしないジョーン・ベネットのことを “lazy legs” と呼ぶシーン。

第ニのイメージ:

主人公(エドワード・G・ロビンソン)が、女の部屋に入ると、鳴っている音楽が、突然 “In love, in love, in love …”

と繰り返す (“Love me, love me …” のように聞こえる)。レコードの針を直すために情夫が部屋に入ってくるのが見える。そこで、ロビンソンは、情夫と女にだまされていたことを知るシーン。

この作品は、米国時代のフリッツ・ラングがいかに充実していたかを示す一本で、公開当時から大ヒットしただけでなく、フィルム・ノワールの代表作である。撮影は、ジョセフ・L・マンキヴィツの『イヴの総て』(1950) でキャメラを担当したミルトン・クラスナー。美術は、『忘れじの面影』(1948) のアレクザンダー・ゴリツェン。脚本は『駅馬車』(1939)、『赤ちゃん教育』(1938) のダッドリー・ニコルズ。製作はウォルター・ウェインジャーとラングが設立したダイアナ・プロで、米国時代のラングにとって製作面でかなりの自由度がもて、ジャン・ルノワール監督の『牝犬』(1931) をリメークした。 初期のルノワール作品を見れば影響が一目瞭然であるように、ラングを尊敬していたルノワールによる監督作品を今度は、ラングが終戦時期のハリウッドでフィルム・ノワールとしてリメークするという事実は感動的である。しかも、『牝犬』も『スカーレット・ストリート』も傑作だと思う。 さらにラングは、『飾窓の女』(1944) という、『スカーレット・ストリート』と同型の傑作も残している。 『牝犬』とそれに続くルノワールの『十字路の夜』(1932)は、フランスの 30 年代暗黒街映画のはしりであると同時に、20 世紀の神話であるハリウッドのフィルム・ノワールの源流でもあったのだ。

ここからは、例によって音楽の紹介。

1915:
Walter Van Brunt:

1927:
The Willard Robison’s Orchestra:

1928:
Gene Austin:

The Dorsey Brothers:

The Charleston Chasers:

Paul Whiteman:

1934:
Al Bowlly:

Jane Froman:

1936:
Ella Fitzgerald & Teddy Wilson:

The Benny Goodman Qualtet:

1938:
Larry Adler, Django Reinhardt:

Mildred Bailey:

Bing Crosby:

1941:
Earl Hines:

Bing Crosby:

Harry James:

1945:
Joe Marsala Sextet:

Don Byas All Stars:

1949:
Frank Sinatra:

1950:
Charlie Parker & Dizzy Gillespie:

1954:
Judy Garland:

1957:
Lee Wiley:

Coleman Hawkins:

1959:
Tommy Edwards:

The Crew Cuts:

1960:
Jimmy Rushing, Dave Brubeck:

1962:
The Marcels:

1963:
Barbra Streisand:

1964?:
Dean Martin:

1965:
Bill Evans, Lee Konitz:

 

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