ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

Goldwynism

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大きな英語辞書であれば必ず載っている Goldwynism という単語は、「ゴールドウィン風の言い回し」ぐらいの感覚で理解すればよく、「言葉の滑稽な誤用」を意味する単語である。この「ゴールドウィン」はすぐに推察されるように、MGM (Metro Goldwyn Mayer) の社名の一部に、Goldwyn として名前を残しておきながら、実際には MGM では一本も作品を製作しなかったサミュエル・ゴールドウィンその人である。彼は、一匹狼の独立プロデューサーとして、ハリウッド黄金期に数々の傑作を製作しているのは周知のとおりである。

おそらく1879 年に、ポーランドの非常に貧しいユダヤ人家庭の 6 人兄弟の長男として生まれ、当時は Shmuel Gelbfisz という名前だったゴールドウィンは、1895年に親戚の一人を頼ってロンドンに渡る。そこで、彼は Samuel Goldfish と名乗るようになったという(Goldfish は、もちろん「金魚」のこと)。もう一つの説としては、彼が後にイギリスからアメリカに渡った際に、入国審査官が彼の姓である Gelbfisz の英語訳として Goldfish を記載したのだという。しかし、この説が怪しくも思えるのは、彼がアメリカ合衆国へ正式に入国したという公的記録は存在していないからである。現在知られているゴールドウィン(Goldwyn) という surnameは、伝説的なプロデューサー 、 Edward Selwyn と共同経営をしていたときに Selwyn の -wyn と Goldfish の Gold- を合成して新たに作り直した姓である。

ゴールドウィンは、少なくとも映画に関しては洗練された趣味のよさに達した人だと思う。同じ独立プロデューサーで『風と共に去りぬ』(1939, Gone with the Wind)、『レベッカ』(1940, Rebecca)、『君去りし後』(1944, Since You Went Away) などを製作したことで知られるデビッド・O・セルズニックよりは、はるかに趣味がよい人だと感じる。しかし、英語に関してはそうでなかったとされている。短期間であるが、ゴールドウィンの秘書をやっていたヴァレリア・ベレッティという女性が友人に宛てた私信が残されており、そこには以下に引用するようなことが書かれている。

ゴールドウィンさんの手紙は、ほとんどぜんぶ私が書かなくてはならないの。あの方はホント、英語の文法なんてまったく知らないのよ。私が代筆した手紙すべてにただサインするだけなの。いままでのところ、文句はいわれていないから、お気に召されているのだと思うわ。

「ゴールドウィン風の言い回し」(Goldwynism) として、よく引き合いに出される例としては、

Include me out.

であるとか、

I don’t think anybody should write his autobiography until after he’s dead.

とか、

In two words: im-possible

とか、

A verbal contract isn’t worth the paper it’s written on.

とか、

What we need now is some new, fresh cliches.

とか

For your information, I would like to ask a question.

とかである。その他にも、勇敢に頑張ること(不屈の精神)を “keep a stiff upper lip” といったり “keep your chin up” といったりする慣用句があるが、ゴールドウィンは、その二つの慣用句における “lip” と “chin” をごっちゃにして “keep a stiff upper chin” といったという逸話も残っている。しかし、これらのどこまでが本当にサミュエル・ゴールドウィン自身によるものなのかはわからない。

一方で、次のようなゴールドウィンが映画に関してした発言も数多く残されている。まるで映画のように自身を虚構として作りあげていったゴールドウィンだが、こと映画については優れた感覚で極めて的確なことを言っていると思う。

It’s a mistake to remake a great picture because you can never make it better. Better you should find a picture that was done badly and see what can be done to improve it.

Pictures are for entertainment, messages should be delivered by Western Union.

A wide screen just makes a bad film twice as bad.

【サミュエル・ゴールドウィンのプロデュース作品 (ごく一部)】

1925
『ステラ・ダラス』ヘンリー・キング監督 
『フーピー』ソートン・フリーランド監督

1930
『街の風景』キング・ヴィダー監督

1931
『突貫勘太』エドワード・サザーランド監督
『シナラ』キング・ヴィダー監督

1932
『結婚の夜』キング・ヴィダー監督

1935
『孔雀夫人』ウィリアム・ワイラー監督

1936 
『大自然の凱歌』ハワード・ホークス/ウィリアム・ワイラー 
『ステラ・ダラス』キング・ヴィダー監督

1937
『ハリケーン』ジョン・フォード監督
『教授と美女』ハワード・ホークス監督

1941
『我等の生涯の最良の年』ウィリアム・ワイラー監督

1948
『ヒットパレード』 ハワード・ホークス監督 

 

 

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