読了。はっきり言って第六章の『病院の世紀の終焉』は俗論だと思う。20 世紀末に特に流行った「〜の終焉」というタイトルはまたこのノリかと思わせ、本当にウンザリである。
第四章の『「医療の社会化」運動の時代』が面白い。1930 年から 31 年にかけて深刻だった農村不況の時期に無医村の数が増えていったのは知っていた。
1923 年: 1,960
1927 年: 2,909
1930 年: 3,231
1934 年: 3,427
実際この時期、都市部で働く医師が増加していったが、それは勤務医の増加がほとんどで、当時の主流であった開業医 (1936 年のデータでは 64.5% を占める) の町村部での数はこの前後の期間でほぼ横ばいであった。勤務医の地域偏差を説明するのは、地域の人口や経済力よりも、まずは勤務医が働ける病院があるかないかということだろうから、勤務医の都市部の増加は当然と思われる。
町村部の開業医数が横ばいにもかかわらず、無医村が増えているのは、近代的な医学教育を受けていない旧世代の医師が急速に減少し、新規開業の医師たちが町村部に流入したことで町村部の開業医数がバランスしたことによる。新規開業の医師は、比較的人口の多い町部で開業したため町村部全体としてはバランスしたが、村部だけ見れば旧世代の医師が廃業することで減少したということになる。新規開業の医師たちが人口の多い町部から開業していくのは当然だし、過去に比べれば交通機関が発達したり道路事情が改良されただろうから、医療機関へアクセス可能な範囲は広がってもいただろう。
農村部の医療提供に公的医療の補完が必要なのは当然だが、当時の日本ではプライベートの開業医の力が主流であったという主張は首肯ける。この前インドの農村に行ったときも、パブリックの PHC (Primary Health Center) はあったが、それ以上にプライベートの開業医が思った以上に多いのが印象的だった。医師のレベルは不明だし、専門医はきわめて少ないんだろうけれども。