かねがね不思議なのは、日本はソフト産業が駄目だと思っている人が結構いるってことである。しかし、それは「わかりやすい」嘘の一つであろう。
たとえば、日本の映画産業と音楽産業を例にとってみる。
日本の映画市場というのは総興業収入で 2,300 億円ぐらいの規模で金額ベースで見ると北米、中国に次ぐ世界第三位である。邦画の興業収入市場占有率(シェア)は、2016 年で 63 パーセント、2015 年で 55 パーセントである。2002 年では 28 パーセントまで落ち込んだことを考えると、現在の日本映画は「驚異的」といっていいほど頑張っているのである。たとえば、EU 諸国でもっとも自国占有率が高いのは、国家が自国の映画産業を支援しているフランスであるが、それですら 33 パーセントであり、ドイツは 26 パーセントである。アメリカ合衆国以外の先進国で、これほどハリウッド映画に対して、自国の映画占有率が高い国は他には存在しない。
音楽産業だって、日本のライブ、配信、ソフトの売上合計は、2015 年で 6,200 億円であり、アメリカに次ぐ世界第ニ位の規模である。対 GDP 比では世界第一位である。そして、配信やソフトの売上減少が続く中で、ライブの売上が急速に増えていることが音楽産業の成長を支えているということは、常識として知っておくべきだろう。
すでに述べたように、映画にしろ音楽にしろ「非言語的」なコンテンツである。言葉という記号処理ではなく、感性に直接働きかけるような非言語的なものの表現の価値というものをどれだけ真剣に考えることができるかということが、日本のソフト産業においては非常に重要なんだと思う。もっとも最近の意味のない文字が踊り「非言語的」価値などどんどん切り捨てていっているとしか思えないテレビの画面を見ていると、それすらも楽観視できないと思ってしまうんだが。