『さくらんぼの実る頃』(le temps des cerises) を直前の記事に出てきたコラ・ヴォケールで聴く。
この有名な曲は、いろいろな映画で使われたが、ジャック・ベッケル監督の『肉体の冠』(Casque d'or, 1952) でルカが銃で撃たれるシーンでこの曲が流れていたのを強く思い出す。
この映画、冒頭からして、蛇行した川の岸辺に置かれたキャメラによる固定画面の奥からこちらへやってくる四艘の小舟によって胸が痛くなるほどの叙情を感じさせながら、物語の登場人物たちの関係性を説明抜きで一挙に導入していく語り方が素晴らしいと思った。シモーヌ・シニョレが小舟を漕ぐシーンは、この冒頭以外にも田舎でセルジュ・レジアニと落ち合うところであるが、その場面もまた、たとえようもない美しさであった。映画の中で、シニョレは腰に手を当てる仕草をいろんなところでしていたのを覚えているし、普段の冠のような髪型のシニョレが腰まである髪の毛を下ろしているところも震えた。特にシニョレが鎧戸を開けるシーンでは、その下ろした髪が実に印象的だった。そして、あの有名な「平手打ち」。いったい何回出てきただろう。冒頭のワルツのシーンと後半の銃撃戦の部分の構図の反復や、「扉を閉める」主題が最後にいったいどんな意味をもつかなど詳述してみたい気もするが、時間のあるときに見直してからにしよう。
撮影はロベール・ルフェーブル。ニコール・ベルジュが出演したクロード・オータン・ララ監督の『青い麦』(1954) を撮影した人である。