ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

ドロレス・デル・リオについて(7)

ドロレス・デル・リオが出演したハリウッド映画で、比較的簡単に見られる四作品をまとめて紹介しておきたい。

栄光 

最初は純粋で高貴とさえいえる活劇を呈示し続けた「不断の運動の人」ラオール・ウォルシュ監督の『栄光』(What Price Glory, 1926)。

 無声映画史上空前の大ヒットを記録し、かつもっとも高収益であったキング・ヴィダー監督の『ビッグ・パレード』(1925) とほぼ同じ時期に公開されたこのフォックス作品は、『ビッグ・パレード』に勝るとも劣らない出来で、ヴィクター・マクラグレンとエドモンド・ロウの兵隊コンビが、競い合って女性にちょっかいをかけるのを延々とやる爽快なまでに楽しい作品である。断っておくが、両作ともアカデミー賞に名前が出てこないのは、同賞は1929 年に始まるからに過ぎぬ。ドロレス・デル・リオはこの作品のとき 21 歳ほどである。『栄光』は、故国メキシコからハリウッドへやって来て 1925 年にエドウィン・カリュー監督の『ジョアンナ』でデビューした彼女の出世作となり、それはメキシコが生んだ初のハリウッド・スターであることを意味する。

 ヴィクター・マクラグレンとエドモンド・ロウの兵隊コンビが、行った先々の土地(上海、フィリピン、フランス)で女を争うという筋立ては、ハワード・ホークス監督でルイーズ・ブルックスが出演している『港々に女あり』(1928) と密接な関係があることは明らかだし、ウォルシュ自身の作品としても『藪睨みの世界』(1929)、『各国の女』(1931) と続くことになる。さらにジョン・フォード監督の『栄光何するものぞ』(What Price Glory, 1952) は本作のリメイクに相当する (ドロレス・デル・リオに相当する役柄をコリンヌ・カルヴェが演じている)。つまりヴィダー、ウォルシュ、ホークス、フォードという巨匠たちはほぼ同じ題材で映画を撮っていることになる。さらに、フォードは『栄光』ではクレジットこそされていないものの第二班の監督をつとめている。

南海の劫火

次にキング・ヴィダー監督の『南海の劫火』(Bird of Paradise, 1932)。RKO にいたセルズニックが製作したプレコード時代を代表する映画の一本。ドロレス・デル・リオとジョエル・マクリーが主演。18 分過ぎの場面では、ジョエル・マクリーは船上にあり、ドロレス・デル・リオは海を泳いでいる。そこでは、鉛直軸上下に人物が距離を介して配置されるというヴィダーの典型的な構図が成立しており何かが間違いなくおきると見るものは予感する。だが、あのドロレス・デル・リオの水鉄砲はその予感をはるかに凌駕する。彼女によって放たれた海水は、あっさりそこに存在する距離を超えて、ジョエル・マクリーの顔に正確に命中してしまうのだ。この場面はライティングや編集でわからないようになっているので全然関係ないじゃないかと思うのだが、海中にいるドロレス・デル・リオが裸であったということで、当時はすごいスキャンダルになったそうである。そういう意味では、ヘイズ・コードが本格施行される 1934 年以降にはありえないシーンといえるかもしれない。

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 空中レヴュー時代

三つ目がソートン・フリーランド監督の『空中レヴュー時代』(Flying Down to Rio, 1933)。残念ながら凡作に思える。ドロレス・デル・リオが主役として美しく魅力的なブラジル人女性を演じており、人種的な偏見も見られない作品だけに、かえすがえすも残念である。この映画は結局、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズの名高いコンビを誕生させた映画として記憶されることになる。記念すべき最初のアステアとロジャーズのダンスシーンを誰もが指摘するが、ドロレス・デル・リオとフレッド・アステアが優雅にダンスをするシーンも紛れもなく存在している。

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 燃える平原児

最後に、ドン・シーゲル監督の『燃える平原児』 (Flaming Star, 1960) 。60 年代の西部劇の傑作である。冒頭からして素晴らしい。シネマスコープ、DeLux カラーの画面にエルヴィス・プレスリーの "Flaming Star" の歌声が重なる。

そしてドロレス・デル・リオ。この映画のときは、もう 50 歳をとっくに超えている。メキシコの国民的女優となった彼女だが、その後もジョン・フォード監督の『逃亡者』(1947)『シャイアン』(1964) やこの作品などハリウッド映画にも断続的に出演している。この映画では、出自がインディアンで、白人のジョン・マッキンタイアの二番目の妻で、実の子がエルヴィス・プレスリーという設定になっている。

ドロレス・デル・リオが亡くなるシーンは感動的である。傷ついた彼女は長い髪を下ろしてベッドに臥している。そして、死期を察した彼女はインディアンの伝統に従って死に場所を探して家の外に出ていくのだが、そこでは強い風が吹いていており、彼女の髪の毛が風にはためく。

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