ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

樋口一葉

五重塔

露伴の『五重塔』を久しぶりに読み返して、なぜこの作品はこうまで読みやすいのだろうと考えこんでしまった。目に入る漢字とそれを訓む音の響きの結合が絶妙なためだろうか。下に挙げた出だしのところの、語りが嘘のような滑らかさで青黛眉の女の独白へ移行…

筒井筒 (2)

よくできていると思うのは、最初の方の女に疑いをもった「をとこ」 が前栽の中に隠れている場面である。ト書きを入れればこうなる。この女、いとよう假粧じて、うちながめて、(をとこの疑い強くなる)風吹けば 沖つ白浪 たつ……(疑いピークに達する)た山 夜半…

筒井筒

『伊勢物語』の二十三段「筒井筒」は高校教材にも取りあげられているテクストである。最近、本居宣長の『玉勝間』を拾い読みしていたら、五の巻「枯野のすゝき」で、この段にある最初のをとこの歌の 筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざ…

乳と卵

年末に本の片付けをしていたら、文庫本が出てきたので、久しぶりに読み直した。 作品の中に出てくる「細部」はそれそのものを表現していると同時に、それとは異なる何かを想起させることがある。この作品でいえば、巻子が緑子の頭についた玉子を拭ってやるた…

一葉『十三夜』

一葉の『にごりえ』『十三夜』『たけくらべ』のヒロインは、よく知られているように、作品の中で「厭や」または「嫌」という。『にごりえ』の女主人公、お力はその名高い独白の中で、 あゝ嫌だ嫌だ嫌だ という科白を二度も繰り返す。『たけくらべ』の美登利…