その四 狐噲(こんくわい)「君、あの由來書きを見ると、初音の鼓は靜御前の遺物とあるだけで、狐の皮と云ふことは記してないね。」 「うん、───だから僕は、あの鼓の方が脚本より前にあるのだと思ふ。後で拵(こしら)へたものなら、何とかもう少し芝居の筋に關…
その三 初音の鼓上市から宮瀧まで、道は相變らず吉野川の流れを右に取つて進む。山が次第に深まるに連れて秋はいよいよ闌(たけなは)になる。われわれはしばしば櫟(くぬぎ)林の中に這入つて、一面に散り敷く落葉の上をかさかさ音を立てながら行つた。此の邊(…
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